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フィギュアスケーター、ガチ氷河期に転移する・3

「本当ですよ!」


 岩泉と丹波が住んでいるという洞窟にたどりつくと、全日本選手権二位の丹波樹は器用に火を起こしながら目を輝かせた。

 まだ身長は低く、学生らしい清潔感のある黒髪に泣きぼくろのある童顔が母性本能をくすぐると評判の丹波の顔は、恐竜の話をし始めると本当にこどもみたいだ。



「あ、驚きますよね! 信じられないのも無理はないですよ。ゆっくり状況に慣れていきましょう」


 そうそう!と流星もうなずく。


「オレなんていつの間に沖縄帰ってきたのかと思ったもん」

「あーっ、シャングリラ!」


 ピシと流星を指さし、丹波もうなずく。


「センパイ、そういえば沖縄出身ですもんねー。行ったことあります? シャングリラ」


 沖縄に最近できたという恐竜のアトラクションがあるテーマパークの話に、丹波が食いつきかけたが。「うーん」と渋い顔をした流星がただちに首を振るので、思わず関西人のようなツッコミを繰り出していた。


「いや、無ェんだけど」

「無いんかーい!!」


 流星がなおも困ったような顔で「そもそも最近実家にも帰ってねえもんよー」とぼやいている。



 そもそもここが沖縄だったらどんなに暖かかったことか(もちろん暖かかったらT-レックス有りのジュラシックパークだ。死ぬ)

 いくらスケーターでも寒いものは寒いし、どこにも温かい逃げ場が無いのは堪える。フィギュアスケーターがぺらぺらの衣装でも寒くないのは、スケートの運動量が見た目の印象に反して激しく、あっという間に体温が上昇するからである。滑ってなければただの人。


 とはいえとりあえず、洞窟の入り口に丹波が火を起こして焚火を炊いてくれていたのでここは結構人の生活できる温度にはなっている。丹波樹、恐竜の知識があるだけではなく、キャンプの知識もあるらしい。詳しいんだな、と感心して言うと、丹波はやや困り顔でうなずいた。


「父親がオフシーズンになるとキャンプに連れ回すものですから」

 それを聞いた流星が深くうなずく。

「あー。パパんば、アウトドア好きだもんなー」


 パパんば???


 ツッコもうとしたらその話題はもう終わっていた。

 なお、洞窟で火を炊いてもいいのかということについては、入口なら換気ができて動物避けになるので大丈夫とのことだ。奥のほうではこうやって携帯電話の懐中電灯アプリで明かりを取っている。

 スマートフォンは通信はできないが、既に落としてあるアプリに関しては動くようだった。充電だけが心配だが、丹波がソーラー充電機能つきの大容量モバイルバッテリーを持っていたので、一か八か日の当たるところに置いて様子を見ている。




「まあ、それにしても」

 と、気を取り直すように手を叩いて丹波が話題を戻す。



「俺も最初はびっくりしましたよ。いきなり氷河期にタイムスリップして恐竜に襲われるなんて――」


 丹波がぐっと拳を握りしめ、うつむいて震える。

 ああ、さすがに恐竜のオタクでも、現実に共存しなければならない状況となると怖いのか――そう思った瞬間、丹波が輝く瞳で顔を上げた。




「でも! これが! 流行りの乙女ゲー転生なんですね!!」




 満面。丹波の天使のような笑顔に、流星があきれ顔でツッコむ。


「どんな乙女ゲームだよ……」


 本当だよ。どこの世界にいきなり氷河期で恐竜に襲われる乙女向けの恋愛コンテンツがあるというのだ。強いて言えばこいつらの顔くらいしか乙女がときめく要素がない。


 母性本能をくすぐる愛嬌のある童顔の丹波樹と、

 目鼻立ちがはっきりとしてアイドルめいた華のある美形の岩泉流星。

 その乙女ウケの良い顔も懐中電灯の光で照らされてホラーみたいだし、背景に見えているのは原始の洞窟なのだから、本当に何もときめく要素が見当たらない。


「いやそれがあるんですよ。母親の持ってたすごい昔のゲームなんですけど、孤島でドキドキサバイバルしていたら突然ヴェロキラプトルに襲われて――」

「お母さんが孤島でイケメンとサバイバルでドキドキしていたら突然のヴェロ――ええっと恐竜が!?」

 思わず流星が爆速でツッコむも、あまりの情報量の多さに、丹波の言ったことの精度の低い反復にしかなっていない。


 唐突な設定に俺があんぐりと口を開けていると、


「……さすがにジュラシックパークとかと記憶が混じってない?」

 俺のツッコみたかったことを流星が代弁してくれる。というか皆ツッコミたいことは同じなのだろう。


「交じってないですー。その名も『ドキドキサバイバル』。当時女子に絶大な人気があった少年漫画の人気キャラクターで作られた番外編恋愛シュミレーションゲームだそうです」


 流星の顔がひきつる。


「二次創作ゲーム? それって大丈夫なやつ? 非公式とかじゃない?」


 いわゆる同人ゲームではないのか?著作権とか大丈夫なやつなのか?ということが言いたいらしい流星に、丹波は心配ないですーと陽気に笑う。


「いえー。れっきとした公式ですよ! 確かに今じゃ考えられない商品展開ですけど、平成の頃には少年漫画を題材にした恋愛シュミレーションとか学園シュミレーションとかのゲームはよくあったそうです!」


「すげえな平成!」




 俺はうめきながら頭を抱え込んだ。




「もう乙女ゲー転生はいいから、状況の説明、続けて……」


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