デカいお肉と塩とダシ・2
お肉! お肉だ!
ここに来て初めて食べるお肉である。
まずは焼肉食べ放題だ!!
意気揚々と大きな肉を切って焼いた流星の顔がみるみる曇っていく。
「……不味い」
その声のいつになく元気のないこと。
うん。新鮮な肉にもかかわらずジャーキーのように歯ごたえのある肉を噛みしめながら俺はうなずく。
生臭い生臭いとは聞いていたので想像していたよりは全然食えるが、お世辞にも美味しいとは言い難い。野趣あふれる風味が口に広がる。肉も堅かった。人類何千年の品種改良はすごい。
ただ、脂は美味い。それこそバランスの取れた脂身などというものは品種改良の産物なので、自然の熊がそんなに肥えているわけではないが、トロのようなとろけ方をする。舌に乗せると旨味の糸がほどけるように溶ける感触が気持ちよかった。
結論としては極上牛肉というわけにはいかないが、これはこれでアリな気がする。
「すみません勝山さん! 勝山さんがせっかく命懸けで狩ってくれた熊なのに、ステーキ県民の血がこいつは食肉じゃないって拒否しています!」
思わず土下座してギブアップする流星に、俺はぎょっとする。
「ステーキ県民って何!?」
そもそも別に俺、みんなに肉食わせようと思って熊仕留めたわけじゃないんだけど。
「まージビエですからそんなもんじゃないですかね。血抜きもしてないわけですし、何より品種改良ってすごいんだなって感じです」
父親のアウトドア好きの一環でジビエ肉をもらうこともあるという丹波は冷静に言った。
「えー。頭グシャアってなってたからめちゃくちゃ血は抜けてたよ?」
流星が恐ろしいことを天真爛漫に言うが、丹波はジト目でツッコむ。
「血抜きってそういうんじゃないんでしょー?」
言いながらじゃがりこ貧乏サラダをディップ代わりに流星に差し出す。
「本当はジビエ肉には味噌があれば臭みが取れて食べやすいんですけど、発酵食品なんて思いついてすぐできるもんではないですからね」
うん。味噌。味噌いいな。確かに調味料があれば臭みはなんとかなる気がする。
「味噌を発酵させるのってどれくらいかかるんだろう」
俺はつぶやく。でも無理か。調味料を作るのは魅力的だが、いくら天然の冷凍庫でもその頃には肉も傷んでいるだろう。思っていると、丹波にさくっとツッコまれた。
「まず豆を育てるところからですね」
それは困る。途方もない。しかも天然の冷蔵庫状態で菌が繁殖しづらいというなら、逆に良い菌を醸すのも難しいのではないだろうか。というかまず豆ってこの時代にあるのか?
「でもまあ、血抜きの甘い肉をどうにかする方法はありますよ。ちょっと遠出して汲んできた水を土器で炊くだけで比較的早く手に入る調味料も」
うん?と俺が首を傾げる。
「塩?」
丹波はにやりと笑った。
「はい、塩です! もしかしたら昆布のお出汁も手に入るかも!」
それを聞いた流星が「なるほど!」と手を打った。
「知ってる! アメリカの寒いところには塩湖があるんだよな!? オリンピックで有名だから俺でも知ってる。ソルトレーク!!」
お肉を食べたおかげか、今日は流星が賢く見える。しかしちょっと惜しい!
おそらく流星はアメリカの寒いところだからきっと近所なんだろうなと判断したのだろう。ハイハイ!と得意げに挙手する流星を薄笑いでしばらく見つめてから、丹波はにっこりと微笑んだ。
「じゃあソルトレークシティーまでさっと走って行ってきてください。ざっと直線距離で4000km!」
「4000km!?」
それを聞いた流星が「あああ」とムンクポーズになった。
可哀想になって、俺はぽんと流星の肩を叩く。
「流星、アラスカとアメリカ本土の間にはカナダがあるし、そもそもソルトレークシティーってユタ州だからそんなに北でもないよ」
言われて流星の目がみるみる丸くなった。
「えっ!? アラスカもアメリカなんじゃないの!?」
うん、そう思うよな。残念。アラスカもアメリカはアメリカなんだけど、19世紀にロシアから買収した飛び地なんだな。まあ、日本人のアメリカ内距離感覚ってそれくらい雑だよな……。
「えー! なんでみんなそんなアメリカに詳しいの!? 実はみんなアメリカ人なの!? それとも地理の天才なの!?」
純粋に驚いている流星に、あきれた顔の丹波が言った。
「センパイが地理知らなさすぎるんですよ。何年ワールド出てるんですか……いつもどうやって会場たどりついてるんですか……」
とにかく!と丹波は地面に適当な棒で地図を描く。
「勝山さんがこの熊を仕留めた谷底は氷河です。凍った川ならたどっていけば海にたどりつくはずです」
ダン!と入り江を描き、丹波がそこに棒の先を突く。
「海で塩とお出汁を手に入れます!」




