第47話 その名は"アデュー"
第47話「その名は“アデュー”」
由香里の内側で、静かに、しかし確実に何かが変わり始めます。
父から継承した力は、ついに“意思”を持ち――
英雄の娘から、英雄へ。
覚醒の瞬間を、ぜひ見届けてください。
だが――
由香里の内側では、別の“何か”が動き始めていた。
(……この感覚……)
胸の奥。
心臓のさらに奥――魂の核。
そこに、熱ではない。
怒りでもない。
“確信”に近い何かが芽吹いていく。
《――条件、達成》
誰かの声がした。
だがそれは、外からではない。
頭の中に直接、静かに響く。
《戦闘強度、適合》
《精神波形、安定》
《英雄因子――覚醒段階、第二領域へ移行》
「……?」
由香里は一瞬、動きを止めた。
シーザリオンは腕を振り下ろす。
超獣化した力は全てを薙ぎ倒すだろう。
だが――
「由香里様!?」
イライザの声が届くよりも早く、
振り下ろされた風圧は由香里の直前で、霧散した。
まるで、見えない何かに拒まれたかのように。
「な……!?」
「魔力障壁じゃない……?」
騎士たちがざわめく。
由香里自身も、驚いていた。
(私……何もしてない……)
《当然です》
再び、声。
《これは、あなたの“技”ではありません》
《あなたの“因子”が、自律防御を開始しただけ》
「……因子?」
《英雄因子》
《英雄・達也より継承された戦闘概念、精神構造、魂の在り方》
《そして――》
一瞬、間があった。
《現在、あなたの因子は“意思”を獲得しました》
その言葉と同時に、
由香里の視界が、わずかに“ズレる”。
世界が二重に見える。
戦場の情報が、整理され、分解され、再構築されていく。
シーザリオンの魔力循環。
ゴルディアスの重心移動。
次に来る攻撃の“最適解”。
理解できてしまう。
「……これ……お父さんの……」
《はい》
声は、淡々としているが――
どこか、懐かしさを含んでいた。
《英雄・達也の因子“セイラ”と、同系統》
《あなたの因子もまた、名を持つ資格を得ました》
名――
その瞬間、由香里の脳裏に浮かんだのは、
戦場で背中を預けてくれた騎士たち。
何度も守ってくれた父の背中。
そして――
(……私は、私の戦いをする)
《確認》
《英雄因子に名を与えますか?》
視界の奥。
文字ではない。
だが、はっきりと“選択肢”が提示される。
《YES》
《NO》
由香里は、ほんの少しだけ考えた。
名前を与えるということ。
それは、力を“道具”として使うのではなく、
共に歩む存在として認めること。
(……お父さんも、そうしてた)
ゆっくりと、息を吸う。
「YES」
即答だった。
《了解》
《では、問います》
声が、わずかに柔らぐ。
《我が名を、与えてください》
由香里は目を閉じた。
この力は、父から受け継いだもの。
だが――今は、自分の中で生きている。
(別れじゃない)
(共に戦う、って意味で……)
小さく、でもはっきりと告げる。
「――アデュー」
その瞬間。
由香里の背後で、
太陽に似た光が、静かに開花した。
《――承認》
《英雄因子、名称登録》
《コードネーム:“アデュー”》
世界が、完全に“繋がる”。
《由香里》
《あなたは、もう“英雄の娘”ではありません》
声は、確信を持って告げた。
《あなた自身が――英雄です》
由香里は、目を開いた。
その瞳には、迷いも恐れもない。
ただ、真っ直ぐな闘志。
「待たせたね」
そう言って、前を見る。
「――続き、やろうか」
シーザリオンとゴルディアスが、同時に後ずさった。
「……何だ、今の……」
「魔力でも、技でもない……“存在”が変わった……」
由香里の周囲で、気が自然に循環する。
暴力的ではない。
だが――抗えない圧。
英雄騎士団の誰もが、理解した。
(ああ……)
(これは……)
父・達也と同じ。
最前線に立つ者の“格”だ。
「行くよ"アデュー"」
《はい》
《全力で》
次の瞬間――
由香里は、光そのものとなって踏み出した。
――戦いは、
新たな段階へと突入する。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回は由香里が「自分自身の英雄」になる回でした。
父の背中を追うだけではない、彼女自身の選択と覚悟。
次話から戦いはさらに激化します。
引き続きお楽しみください。




