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【2部完結】クズの婚約者は金ヅルにしますのでどうぞお構いなく  作者: いか人参
2部

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39/39

39.最後の試練

2部最終話です!


刺繍の美しい長椅子に腰掛け、天井まで続く掃き出しの窓から月を眺める。一切雲が掛かることなく神秘的に光輝く月を見て、まるで天から祝福されているかのような錯覚を覚えた。


(なんて素晴らしい夜なのかしら。今日はとても良い事をしましたわ。)


シャルロッテのことを邸まで送り届けた後、寝支度を終えたレイチェルは多幸感に満たされていた。


(あの愚兄のため薬を盛って敢えてお姉様から離れさせ、その後愚兄に発破をかけ、自ら追いかけさせる…これでお姉様の自分のお気持ちに気づいて二人の愛も深まるはず。)


昂る感情で寝付けず、アルコールを飛ばしたワインで心を落ち着かせる。だが、すぐにまた喜びが舞い戻り胸の奥がソワソワしてしまう。


(今頃、一生に一度の素敵な夜を過ごしているのかしら…)


兄のことを貶めても蔑んでも、二人の幸せを願う気持ちに嘘はない。レイチェルは少しだけ偏った心で二人の末長い幸福を祈り、月に向かって杯を掲げていた。




同じ頃、シャルロッテの邸の庭にも祝杯をあげる者の姿があった。

軒先で壁に寄りかかり、瓶ビールを手にしたミミが両腕でガッツポーズをしている。



「しゃあああああっ!やりましたよ!!作戦成功ですっ。無事、夜の密室に二人きりに出来ました!」


「ええ、こちらも馬車の車軸の破壊と明日午前の仕事の調整すべて完了しております。これで帰る手段も理由がなくなりました。」


破顔したミミと無表情のランドルフが視線を交わし、瓶ビールをぶつけ合う。コツンと軽い音が静かな夜に響く。物騒な物言いだが、二人の雰囲気はとても楽しげだ。



「ヘルテル様もご学友の邸にお泊まりですし、完成したケーキにも一手間加えておりますっ。二人の枷はこのミミがすべて取っ払いましたよ!ふはははははははっ!」


頬を赤くしたミミがビールを一気飲みして、豪快に笑う。その横で、ランドルフも静かに瓶に口を付けた。


互いに主人の幸せを願いながら酒を飲み交わし、日が高く昇るまでの長い時間を過ごしていた。




幸せを願われた二人はその頃…



「これを俺のために……」


シャルロッテがおずおずと差し出したケーキを見て、アレクスティードは涙を流していた。


店に並んでもおかしくないほど美しい見た目をしたデコレーションケーキ。それが大切な人の手で作り出され、自分のためだけに存在していると思うと、感極まって呼吸が苦しくなるほどであった。



「ねぇ、少し落ち着いてくれる?こっちが恥ずかしいわ。」


美しい顔で涙を流すいい歳をした男に、シャルロッテは軽く引いていた。先ほどまでの熱が嘘かのように、心が冷え切っていく。

対して、アレクスティードの熱量は増すばかりだ。苦しい呼吸で必死にシャルロッテへの賛辞を紡ぐ。



「シャルからの初めてのプレゼントが手作りなんて、落ち着いていられるわけないだろ?まずシャルの愛を満喫させて。」


「いやそれヘルテルが作ったんだけど。私がやったのはイチゴを乗せたことだけよ。」


「シャルが乗せてくれたイチゴ…」


アレクスティードの耳にはシャルロッテ以外のことは届いていなかった。

彼女がイチゴを乗せたという事実が、数百倍このケーキの価値を高めていた。うっとりした顔で、不均等な感覚で不器用に並ぶイチゴを眺める。心の奥底から愛おしさが込み上げていた。


(これ全部一生懸命並べたんだろうな…想像しただけで可愛くて死ねる。このまま一生保存しておく術はないか?)


感動が限界突破し、目の前のケーキは彼の中で国家級美術品と化していた。フォークを手にしたままあらゆる角度から眺め、現状維持の方法について本気で頭を悩ませている。



「食べたくないならいいわよ!」

「あ!!」


アレクスティードが愛でていたケーキにシャルロッテがフォークを突き刺した。豪快に一掘りすると豪快に目一杯口に放り込む。

パンパンになっていた頬が小さくなっていくに連れ、シャルロッテの表情が和らいでいく。



「ふーん、結構美味しいじゃな…んッ」


突然顔が強張り、シャルロッテがフォークを落とした。テーブルの上にクリームが飛び散る。異変に気づいたアレクスティードがテーブルを回り込み、シャルロッテの側に駆けつけた。



「シャル?どこか痛い?どうした?」


「なんか…身体が…」


「身体?どこにぶつけた?今すぐ医者を…」


「あつい。」


「え」


赤い顔をしたシャルロッテがワンピースの前ボタンを外し始めた。その様子にピシリと音を立ててアレクスティードが固まる。



「……いや、だめだめだめ!」


数秒後意識を取り戻したアレクスティードが慌てて彼女のボタンを留め直す。外しているわけでもないのに、鼓動が鳴り止まない。目を瞑ったまま根性でやり遂げた。



「どうして?嫌なの?」

「は!なにが!?」


トロンとした目で見つめたまま、すぐ隣に座る彼の太ももに両手をついてきた。異様に熱い彼女の手、浅い呼吸、熱のこもった眼差し、それらが全力で彼の理性を揺さぶってくる。


(まずいまずいまずいまずい。何この状況?一体何が起こって……まさか……)


シャルロッテが放り投げたスプーンを拾い上げ鼻に近づけた。するとむせ返るような成熟した果実の匂いがした。それは幼少期から叩き込まれた、よく知る危険な香りであった。


(媚薬…!!?どうしてこんなものが…あのヘルテルが…?嘘だろ!)


衝撃の事実と下半身にのしかかるシャルロッテの体重がアレクスティードから冷静さを奪っていく。自分は何も口にしていないというのに冷や汗が止まらない。


そんな彼のことを、シャルロッテがウルウルとした瞳で見つめている。



「寂しかったの。」

「え…あうん、それは本当にごめ…」

「だからもっとくっついて。」

「い、いや、さすがにこれ以上はっ…」

「やーだ」

「あの、ちょっと待って、ほんとに…待って下さ…あ゛ぁ゛ああああああ!!!!」


二人しかいない静かな邸に、アレクスティードの切羽詰まった声が響き渡る。無論、外で酒盛りをしている家臣は主人の危機に気づかない。それどころか、主人のことだから、しっかり口説き落として甘い夜を過ごしているに違いないと信じて切っていた。


まさか死に物狂いで己の劣情とシャルロッテの可愛さに抗っていたなどと、知る由も無かったのだった。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

また気が向いたら二人のその後を描ければと思います(´∀`)


本当にありがとうございました!

また機会ありましたら宜しくお願いします^ ^

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