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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第2章 彼女は物陰からひっそり彼を見る
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ep.8 巨乳の血脈 ~side薫子



 覚悟を決めたかのように門扉を開けて玄関前まで進み出た悠斗くんは、近頃ではあまり見掛なくなった呼び鈴と言った方がしっくり来るようなインターフォンが付いていないチャイムを鳴らしました。


 「は~い」という声がして、ガラガラと引き戸のドアが開き、そこに立っていたのは、年齢にしてはやや大柄なお婆さんでした。丸いの顔と少し垂れた目、そしてその大きな胸に既視感があり過ぎて、誤魔化しようがない血脈というものを歴々《まざまざ》と見せつけられているようでした。


 「すいません。こちらに益田聖奈さんはいらっしゃいますか?」


 悠斗くんを見て怪訝な顔をしていたお婆さんでしたが、まだ門の前で立ち尽くしていた私と目が合いギョッとしていました。


 おそらくお婆さんも――血の繋がり――そんなものを感じたのかもしれません。


 「えっと……どちら様ですか……?」


 「ボクは高梨悠斗と申します。益田聖奈さんの息子で……。3歳までは一緒に暮らしていたのですが……」


 悠斗くんがそう言った途端、お婆さんは「ひえぇぇぇぇーー」と悲鳴にも似た叫び声をあげました。どうやら健康状態には問題なく、かなりお元気の様子です。ただ、そのまま倒れそうになったところを悠斗くんに支えられていました。


 すると同じ敷地内に建っていた比較的新しいの家の方から先程会った魔人さんたちと似た体形のお爺さんが驚いたように飛び出してきました。


 「姉ちゃん、どうしたとね? なんやお前ら! 誰や?」


 玄関へ入っていったお爺さんは悠斗くんへ掴み掛ろうとしていましたが、お婆さんが慌てて止めていました。


 さらにその家の中からもう一人。30過ぎと思われる女性が大きな胸を揺らしながら出て来ると、門の前に立っている私をチラッと見てから、お爺さんの肩に手を置いて宥めていました。


 「お父さん、ちょっと落ち着いて。そこの女の人をよーっと見てごらん」


 振り返ったお爺さんは目が合うと、その視線はスッと胸の方にスライドして、びっくりしたような顔をされました。


 「なるほど……。わ、かわった。取り敢えず中に入ってくれんね」


 そしてお爺さんは納得したようでした。血統を見分ける基準はやはり胸なのでしょうか?


 「怖かったやろ? ごめんね」


 私はと言うと、門のところで呆然と立ち尽くしたままでしたが、先程の30代女性がそっと肩に手を置いて迎え入れてくれました。その女性もまた血縁を感じざるを得ない大きな胸をしていました。


 通されたのは和室を無理矢理洋室へ変えたような部屋でした。実はキリシマ書店がある我家のリビングも、壁紙などを多少リフォームをしていますが、元は和室です。


 「初めまして、俺は重松勝嗣といいます。こっちは姉の益田早苗。そして俺の次女の亜由美です」

 

 お爺さんの自己紹介の後、悠斗くんは自身のことを話し始めました。以前、悠斗くんのお祖父さんから聞かされた話からは過激な部分がだいぶ端折られていましたが、大方の話は伝わったと思います。


 「それで、今日こちらにお邪魔したのは母に会う為です。今更、何をどうしたいというわけはありません。一度しっかり顔を見て、自分の中でケジメをつけたいと思いまして」


 するとソファーに座っていたお婆さんは畳の上に座り直して、こちらへ向けて腰を折りました。


 「本当に、ごめんなさい。あの娘は……なんてことを……」


 私もそう思います。悠斗くんの母親を悪く言いたくありませんが、実際、酷いと思います。悠斗くんは敢えて詳しくは話しませんでしたが、完全に育児放棄と虐待です。

 

 悠斗くんがそのことをあまり気にしていないのは、今がそれだけ幸せだということなのでしょう。


 「ホントにあの子たら……。子供が二人もいたなんて……。今の今まで一度も言ったことなかったのに……」


 私はすぐにピンと来ました。悠斗くんと一緒に訪れた私を姉か妹だと思うのも仕方がない事かもしれません。私自身もこの家へ来て、私の姿容を形作ったルーツと言うものを、ひしひし感じております。


 「いえ、私は霧島薫子と申します。父は竜也です」


 私は悠斗くんと姉弟であることを否定すると共に、うっかり忘れていた自己紹介を改めてさせて頂きました。


 するとお婆さんはそのままへにゃりと倒れ込んでしまいました。


 お婆さんが休んでいる間、代って弟さんである勝嗣さんが、いろいろ説明をしてくれました。


 どうやら悠斗くんの産みの親である聖奈さんは、悠斗くんを捨てた後、10年程こちらに住んでいたようです。そして今から2年程前に、この家を出て行ったとのことでした。


 それと聖奈さんは、今年のお盆、隣街で起きたという『アパート住民集団失踪事件』の失踪者の一人とのことでした。近所で起きた事件ということもあって、商店街界隈でも、その話題でしばらく持ちきりでした。母も祖母も「怖いわね~」なんて言ってました。


 失踪者の名前については一般に公表されていませんでしたが、どうやら警察が博多まで事情聴取に来たとのことです。


 「すまないことをしたね。本当にごめんなさい。あの娘は一体、どこで何をしているのやら……」


 復活したお婆さんがもう一度悠斗くんに謝っていました。


 聖奈さんの失踪はこれが二度目であり、お婆さんは――またか?――というような顔をしていました。『アパート住民集団失踪事件』も事故や事件というより、聖奈さん自身の素行を疑っているようでした。


 「いえ、そんな。ボクは、お祖母ちゃんに会えただけで、十分ですから」


 「……ぁん!? ありがとう。そんな優しいことを言ってくれるなんて……」


 悠斗くん……またアレをやりましたね? 先程は魔人にも効くことが判明し、今度はまさか、血が繋がった祖母にまでとは……恐るべし笑顔です。


 「それから薫子さん。竜也のお葬式に顔も出さずに、本当にごめんなさいね。あの子、私を嫌ってたから……」


 「いえいえ家族だけの小さなお葬式でしたから。こちらこそきちんと案内もせずに不義理を致しました……と母が」


 私は、母から言付かっていたことを、ちゃんと言えたことにホッとしました。ナイスタイミングでした。


 「しかし、よくここの住所が判ったね」


 勝嗣さんによると。今はもう亡くなっているお婆さんの夫、つまりは私の父方の祖父は、かつてかなり酷い暴力夫だったそうです。なのでお婆さんの行先などは隠していたとのことでした。


 そこで私は、悠斗くんの産みの母親である聖奈さんから父竜也宛に届いたあの手紙を、お婆さんに差し出しました。


 受け取ったその手紙を見たお婆さんは裏表を何度も確認しながら不思議そうな顔をしました。


 「開けていないのね?」


 「実は父が亡くなってから届いたものようで……。当時、母も私もバタバタしていて、気が付かなかったのです。それを今更、母や私が開封して良いものかと……」


 お婆さんは悠斗くんへ手紙を渡そうとしましたが、悠斗くんの遠慮するというジェスチャーに手を引っ込めました。


 「なら、私が開けようか? 娘から息子への手紙だし。今のあの娘の行方が判るかも知れないわ」


 爆弾を押し付けるようで、少し申し訳ない気持ちもあるのですが、お婆さんはその手紙を開封する一番の適任者だと、私も思います。


 開封して手紙を読み始めたお婆さんは終始の顔を歪ませていました。次に手紙を受け取った悠斗くんも呆れたように苦笑いをしていました。


 そしてその手紙は私にも回って来ました。


 私が読んでも良いものかと躊躇いましたが、好奇心に負けてしまいました。


 その内容は……えっと。聖奈さんが異世界に行って魔王を倒した?? などというアニメかラノベのようなことが書いてありました。そしてそれを父なら信じる。そう思われていたようです。まあ確かに生前の父は、深夜アニメを全て録画して、休みの日に纏めて観ていましたけれど……。


 「いや、変な娘とは思ってたけど、ここまでとはね」


 お婆さんの目は彼方遠くを見ていらっしゃるようでした。

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