第15話 魔法槍 スピルギニョル
階段を降りて照明魔法を使う。そこはフロアの中心に吹き抜けのような大きな穴があり、そこを通路が囲んでいる構造をした場所だった。
「今回は……立体構造だな」
吹き抜けを覗き込む。ここからでも1階から3階が繋がっているのが分かる。1つ下の階を覗き込むと、あちこちに青白い肌をした小人のようなモンスターが歩いていた。あのサイズ……ゴブリンか?
『キャンサーゴブリンだな。視覚が退化した代わりに聴覚が発達した個体だ』
「結構数がいますね」
『元々ゴブリンは群れを成す生物だ。囲まれないように気を付けて』
「了解です」
まずは手頃なヤツを相手に槍を試すか。
マジックバッグから槍を取り出す。念の為にもう一度鑑定魔法をかけてみる。
「……やっぱりダメだな」
何度か鑑定を使って見たが、鑑定魔法レベル3だと確認できるのは名前くらいだ。
名称:スピルギニョル
分類:槍
属性:?
効果:?????????。使用回数?回
「この槍のこと分かりました? リレイラさん?」
『いや、同僚にも当たってみたが、知っている者はいなかった。もしかしたらレアアイテムと言っても我らの世界でも地方伝承といったものに属する武器かもしれない』
「うぅん……結局、自力で能力発見しろってことか」
吹き抜けに沿って石造りの通路を進み、枝分かれした道をしらみつぶしに探していると3体のキャンサーゴブリンが歩いているのが見えた。青白い肌に目が退化したのっぺらぼうのような顔。代わりに額の中心に大きな目のような刺青が入れてある。符呪とは違うな……呪術的で気味が悪い。
「ギギ」
「グキッギ」
「ギリッギギ」
3体で何かを話しているように見える。アイツらで試してみるか。スピルギニョルの試運転……頼むから試運転で回数使い果たすとかやめてくれよ。
スピルギニョルを構えて槍を展開する。持っていた持ち手部分からシャキンと伸び、槍の形状になる。先端に刃先の着いた2メートルほどの槍に。前回の時より若干長い。もしかすると意識したイメージによって長さが変わるのかも。
「この長さ、通路だと使いにくいな」
もう少し短い槍をイメージすると、槍の長さが1.5メートル程に縮む。お、やっぱりだ。これは便利かも。
左手に槍を持ち、キャンサーゴブリンに向けて走り出そうとした時──。
背後から別のキャンサーゴブリンに飛びかかられた。
『戦闘時は音に気を付けろ! 奴らが群がって来るぞ!』
(クソッ鬱陶しいな!!)
「ギギ〜!!」
ゴブリンが俺の首元をナイフで掻き切ろうとする。鎧のおかげで最初の一撃は防いだが、ゴブリンは鎧の継ぎ目を探し出した。
石造りの壁に背中を叩きつける。ゴブリンが小さな悲鳴をあげて俺の体から離れた。この間合いじゃ槍が使えない。ゴブリンの拳を掴み、そのまま、ヤツが持つナイフをその胸に突き立てた。
「グギッ!?」
自分のナイフに胸を貫かれたキャンサーゴブリンは、口から血を吹き出して絶命した。ゴブリンからレベルポイントの光が溢れ出し、俺のスマホへと吸収された。
──レベルポイントを45pt獲得しました。
普通のゴブリンより強いみたいだな。いや、そんな事より最初に狙いを付けていたゴブリン達がこちらに向かって来てる。それの対処が先だ!
「ギギ!?」
「ギアギ!!」
「ギギッギ!!」
向かって来る1体にナイフを投げ付ける。それが額に突き刺さり、1体のゴブリンはバタリと地面へ倒れ込んだ。
「ギィ!!」
「ギギィ!!」
残ったキャンサーゴブリン達が腰からナイフを取り出し投げ付けてくる。あの軌道、アイツら投擲のスキルも持ってやがるな。
ローリングでナイフを躱して走る。ゴブリンが再び腰からナイフを抜く前にヤツへと駆け抜け、1体を槍で突き刺した。
「グギャア!?」
次だ!
ゴブリンの体から光が溢れ出したのを確認しながら槍を手放し、ショートソードでもう一体のゴブリンを一閃する。
「ギャッ」
ショートソードによって真っ二つになったゴブリンは、上半身がボトリと地面に落ちて動かなくなった。すぐさま周囲を確認する。シンと静まり返った通路、下の階のゴブリン達が上の階に上がって来る様子も無い。
なんとかなったか。だが、次は気を付けないとな。
それにしても……今のところ槍は普通の武器だな。
ゴブリンの死体からスピルギニョルを引き抜く。
「結局この槍に能力なんてないのか? いや、条件があるのかも。他の部屋に……」
その場を移動しようとした時。
倒れていたゴブリンがムクリと立ち上がった。
「マジかよ!?」
さっきレベルポイントの光は溢れ出したよな? なんで倒したモンスターがまた起き上がるんだ?
槍を構えようとすると、ゴブリンが上にピョンピョンとジャンプを始めた。その動きはなぜか機械的で、殺気は感じない。
「ギィ」
「んん? なんだこの動き?」
槍をゴブリンに向けた瞬間、ゴブリンが逃げるように走り出す。しかしその先は何もない壁。壁にぶつかったゴブリンは先に進めないにも関わらず、ひたすら壁に向かって走る動作を続けた。よく見ると、持っていた槍がうっすらと光を帯びている。
『槍の先端が壁に向いている。その先端……穂先の向きでゴブリンの行動が変わるんじゃないか?』
「穂先で?」
リレイラさんの言うように槍の先端を上に向けるとゴブリンがジャンプした。
『ほら、やっぱりだ』
「もうちょっと試してみます」
穂先を下に向ける。ゴブリンが地面に這いつくばる。
穂先を正面に向ける。ゴブリンが走り出す。
穂先を上に向ける。ゴブリンがジャンプする。
お、これって……。
『その槍には突き刺した者を操る能力があるようだな』
「でもこのままだと不便ですよね。穂先で操作するしか無いですし」
戦闘中にこんな遠隔操作なんてやってられない。効果が強いのは分かるが、実践で使えるか?
「色々と試してみてはどうだ? もしかしたら自動操作のようなこともできるかも」
自動操作か……確かにそれがあると使い勝手が良いんだけど……。
リレイラさんに言われて色々試してみる。もう一度槍を突き刺してみたり、振り回してみたり……すると、ある事に気付いた。槍の両端をしまうと、ゴブリンが簡単な意思を持って歩き回るという事に。
『やっぱり自動操作モードがあったな』
「ちょっと実戦で試してみます」
操ったゴブリンを連れて、別の通路へ向かう。その先にもキャンサーゴブリンが1体。俺は、徘徊しているゴブリンを穂先で指しながら、槍の両サイドを収納。ただの棒に戻してみる。
「ギギッ!!」
俺が連れていたゴブリンが通路の先にいるゴブリンに襲いかかる。襲われた方のゴブリンは、揉み合いになる内にそれが仲間だと気付いたようだ。そして、なぜ仲間が襲いかかるのか理解できないという様子で、そのまま倒されてしまった。
「おぉ! これは使えるな!!」
「ギ」
喜んだのも束の間、操っていたゴブリンが急に動きを止める。どうしたのかと思った次の瞬間、ゴブリンの体が砂になってボロボロと崩れ落ちた。
『あれは……生物が魔力を使い果たした時の死に方だ』
「魔力を使い果たした時?」
『通常の生物なら魔法やスキルを使っても魔力は枯渇しない。生命が危険になる前に無意識にストッパーをかけるからだ。だが、ごく稀にその境界線を超えて魔力を使い果たしてしまう生物もいる』
そういう生物の最後はあの砂みたいに崩れるってことか。
「なら、操っている間は魔力を放出し続けるって事ですかね?」
『恐らくそうだ。あのゴブリンは魔力を放出しながら操られ、それが尽きたから体が崩れ去った……という事だろう』
なるほどな。今回判明したスピルギニョルの効果はこんな感じか。
名称:スピルギニョル
分類:槍
属性:?
効果:槍で敵を倒すと、その亡骸を操ることができる。亡骸は常に魔力を放出し、使い果たすと崩れ去る。使用回数?回
「この槍……めちゃくちゃ強いな」
使用回数が1回じゃなくて良かったぜ。魔力を消費の影響でモンスターを操って他の階層に連れていくのは無理そうだが、同じフロア内なら強い動きはできるな。
スピルギニョルの効果が判明して嬉しくなった俺は、さらに奥へと進んだ。
次回、鎧さんがスキルツリーから新たな能力を……?




