第三百十ニ話 運命の分かれ目①
「『破滅の創世』様。どうか、記憶を取り戻してください。一族の者は全て、『破滅の創世』様に目を付けて、私欲のために利用しようとしている愚か者です」
最強の力を持つとされる神『破滅の創世』を人という器に封じ込め、神の力を自らの目的に利用する。
その一族の行為は『破滅の創世』のみではなく、他の神全てに対しての裏切りだ。
『破滅の創世』の配下であるレン達にとって、決して看過できない行為だった。
「そんなこと――」
「……今の『破滅の創世』様は記憶を奪われて、一族の者に加担させられております。だからこそ、こうして私達の言葉に戸惑われているのですね」
レンは奏多に――『破滅の創世』に忠誠を誓うように膝をつく。
それはさながら、騎士の示す臣従の礼のようだった。
「……幸い、アルリット達によって、『境界線機関』の者達の足止めと一族の上層部の者達への奇襲はできています。後は……『破滅の創世』様が、私達のもとに戻って来られたら……」
レンはあくまでも冷静に、奏多に手を差し出す。
促すのではなく、導くように――。
「戻る……」
奏多に生じたのは、胸が軋むような悲しさだけだった。
もし、この場でそれを拒んでも、『破滅の創世』の配下達の動きが変わることはない。
しかし、それは言い換えれば、拒んだ瞬間、今度は結愛達――此ノ里家の者達が狙われることを意味していた。
「俺にとって、結愛達はかけがえのない存在だ」
だが、『破滅の創世』の記憶の再封印が施されたその時――。
結愛から聞いた自身の身に起きた現象と発した言葉は、今も奏多に重くのしかかっている。
奏多は神としての意思ではなく、最後まで自分の意思を貫きたいと願っている。
それでも心のどこかで、それを否定している自分がいることに気づかされた。
「暴動を止めたい。止めたくない。どちらもきっと俺の意思だ」
あまりに複雑すぎる想いに苛まれて、奏多は表情を曇らせる。
奏多の進む明日。
奏多が生きる未来。
そこに奏多の意思があるとしても、それは『破滅の創世』の意思じゃない。
だからこそ、二つに切り離された意思は、一つだった頃に戻ろうとしている。
「それでも、俺は結愛を守りたい。この世界を守りたいんだ!」
二つの相反する意思。
それは嘆き、悲しみ、悲鳴だけの意思なんかでは――決してないのだと。
「だから、俺はこのまま、ここに……みんなのそばにいたい!」
人間として行く先でも、神に戻る先でもない。ただ、奏多自身の覚悟だけがそこにあった。




