残念世界で生き残れ
おちゃらけギャグファンタジーです。
異世界のオヤクソクことごとくありません。
それでも宜しければお付き合いください
僕の名前は笹木野 孝一。
ほぼ家に居ない警察官の父親と、滅多に部屋から出てこない小説家の母親、家のことを全てやってくれている祖母に育てられた僕は、父親の影響で始めた剣道のインターハイの帰り道。
高校三年、最後のインターハイで初戦敗退、対戦相手は初出場の一年で二回戦敗退、なんだかくさってしまい、真っ直ぐ帰らずに家の近所の公園でスマホでサーフィン中。
「父さんに負けたって言ったら呆れられるかな…て言うか今までもインターハイで勝った事無いか。
あ、母さんの新作だ。はいはい、異世界転生モノね、今流行ってるからなぁ」
異世界に勇者として召喚されたり、人間以外に転生したり、楽しいだろうな。
ま、有るわけないけど?わかってるけど母さんの想像力も受け継いでるんだろうから、ついファンタジーな空想にふけってしまう事もあるよね。
スマホをいじりながらぶつぶつ言ってると子供連れのおばさんに冷たい視線投げられた。
…帰ろうかな、ばあちゃんが待ってるから。
竹刀と防具を持ち公園から出て、左右を確認して道路を突っ切ろうと足を踏み出した時、何か違和感が有りつい立ち止まって足元を見てみると、道路から手が生えて僕の足首を掴んでる⁈
なにこれ、ホラー?
思わず竹刀と防具を取り落としあわあわしながら周りを見渡そうと顔を上げたその視界いっぱいにトラックが…
あ、コレ死んだ
父さん母さんは別として、ばあちゃん悲しむだろうなぁ…
そんな事考えながら意識はホワイトアウト。
そして……
+++++
眼が覚めると高い天井の広い場所で横になってた。
体がバキバキする。
周りを見てみなくても視界の隅々に僕を取り囲む人が見える。
なにこれ怖い、百人以上居そう。
その格好や、豪華な椅子に一人座っているいかにも!な男性、意識を無くす直前と全く違う場所。
このテンプレ状態、ありがち過ぎて逆に冷静になるよね。
「気がつかれましたか?言葉通じますか?」
いかにも、な男性…王様の横に居た初老の男性に声をかけられる。
あー、言葉通じるよ。そして体バキバキするけどコレ事故の痛さではなく筋肉痛っぽい痛さだし。
アレだよね、良くある話だ、母さんの小説なんかにさ。
「言葉わかりますか?異世界の方よ」
「はい、わかります。僕自分の世界からこちらに召喚されたんですね?」
先どって僕が言うと、取り囲んで居た人々からどよめきがおきる。
「え、ええ、そうです。今この世界では魔族の侵略で危機を迎えています」
あー、鉄板鉄板。
「しかし人族では魔族に敵わず蹂躙される一方で…。そんな時王に神託が下されたのです」
異世界って神様との距離近いよねー。
「異世界の方よ、お願いします。このタリタル国の為に…」
勇者かー。インターハイでは負けたけど、鍛えたかいがあるってもんだよねー。
「魔王になって下さい!」
「はいーー⁈」
+++++
僕が召喚されたのはタリタル国と言う大陸唯一の国で、人族、魔族と動物の住まう世界だとの事。
この世界を作ったのは女神シンシリア。
なんと、この女神と交信ができるらしい。良いのかそんなに簡単に神様と接して。
「王家の一族には神託としてシンシリア様が夢に現れます。ただ神託を告げられるだけでこちらからの交信はできません。
今から行く神託の間は女神様の像を設置して毎日祈りを捧げる聖なる空間となっており、こちらでは女神様からの意思が有れば会話を交わすこともできます」
神様ってそんなに世界に干渉して良いの?
「勿論誰でも、と言う訳ではありません。王族、神官、そして女神様に認められた者のみ会話をする事が出来るのです」
ファンタジー小説だとあるあるな神様と接する、か。
でもなんだかなぁって感じるんだけど。
「笹木野様、何か質問などございませんか?」
「ああ、良くある話なので大丈夫です」
「おお、笹木野様の世界では召喚は一般的なのですか?」
「はぁ、まぁ良くある話です」
小説ではね。
「おおおお、叡智に溢れた素晴らしい世界なのですね」
酷く感動している大臣に乾いた笑いを返していると神託の間に着いた。
「ここからは王と笹木野様のみでお願いします」
大きな両開きの扉が騎士の手で開けられる。
割と広い部屋の奥には女の子を象った石像が一体、その前には絨毯が敷かれている。
「女神シンシリア様の像です。この前に跪き祈りを捧げます。さあ、笹木野様もこちらへ」
王様に言われるまま少女の像…いや、幼児の像の前に跪く。
「あの…この像が女神様なのですよね?」
思わず聞いてしまうよ。だって5、6歳くらいの女の子の像だよ?
女神様って美しいお姉さんじゃないの?
「こちらがシンシリア様の像ですが何か問題でもありますか?」
「いえ、確認しただけです…」
子供だろって突っ込んじゃダメだよね。
なんだかモヤモヤしていると隣に跪いた王様が何か祈りの様なものを呟きだした。
王様を真似て胸の前で両手を組み眼を閉じる。
しばらくすると目を閉じてても分かる程の眩しさを感じた。
「笹木野 孝一、目を開けなさい」
言われるままに目を開けると真っ白な空間に幼い女の子と二人で居た。
「…シンシリア様ですか?」
「はい、私がシンシリアです。この世界を作り管理している者です。
今回は突然こちらの世界へ連れてきてしまい申し訳有りませんでした」
「あの足首を掴んだのは貴女の手ですか?」
「はい、私です。こちらの世界に連れてくるに当たって貴方には死んでいただく必要がありまして…」
「死んで…って…随分一方的ですね。何で僕なんですか?いきなり異世界に連れてこられて魔王になれとか、死んでもらう必要とか、勝手過ぎだよ!
父さんや母さん…ばあちゃんだって悲しむし、僕だってまだまだ色々やる事があったのに!」
なんだか段々頭にきて怒鳴ってしまった。
女神は何も言わず僕が落ち着くのを待ってるようだ。
「………落ち着かれましたか?まずは謝らせて下さい。私の不手際で世界のバランスが崩れるのを阻止する為に貴方に多くの負担をかけてしまいます。本当に申し訳ございません。
こちらの都合になりますが何故貴方を召喚しなければいけなかったか説明させてください」
小さな女の子が真剣に謝っているのを見てると落ち着かざる終えないよね。
こっちが虐めてるみたいに見えるもん。
僕はとりあえず話を聞くことにした。
+++++
シンシリアは見た目の通り若い女神だそうだ。
顕現して間もなく、初めての世界作りがこの世界だそうだ。
とりあえず色々説明してくれたけど、ざっくりまとめると…
*星に海と大地と植物などを作る
*動植物を設置、人族設置、魔族設置
*動物は植物食べて人族は動物食べて、人族が増えすぎないよう間引くのが魔族(食べるわけでは無い)
*人族は知恵と繁殖力がある代わり力と体力が無い(人族LV1とすると魔族30〜50くらい?)
*魔族は力がある代わり知力が低く繁殖力はほぼ無い(知識レベルは地球で3歳から10歳程)
「力が有って頭がよろしくないって…ヤバくない」
思わず口に出た。
「はい、大変なのですよ。力第一主義で闘うのが趣味?みたいなもので、自分より強い者にしか従わないけれど、知能が無いので国を作るわけでもなくやりたい放題…」
「何故魔族に知識を与えないのですか?そうすれば済むのでは?」
最もな疑問だと思う。そうすれば召喚なんかしなくてもいいやじゃないの?
「力が有り知識も備わると人族であろうと魔族であろうと世界のバランスが崩れて最悪滅びる事になりますから」
「いや、そこはそうならないようにバランス調整すればいいのでは?」
つい突っ込んでしまったけど、当然の考えだよね?
「…………」
「………………?」
「………………………テヘ」
え?何?笑ってとぼけるつもり?
「いやいや、笑い事じゃ無いでしょ、勝手に連れて来といて」
「まだそんな微調整出来ないんです。なので貴方に魔族を纏める魔王となっていただきたいのです」
「随分勝手な…終わったら帰れるって事は…」
「すみません」
食い気味に勢いよく頭を下げられた。なんだか虐めてる様に見えてしまう。
テンプレとして帰れないのはお約束ってやつなんだろうな。だったらテンプレとして…
「魔法は使えるのですか?」
「魔法は有りますが、異世界の方には素養がないので使えません」
「何かスキルは貰えるんですよね?」
「人族、魔族共に言語が通じます。後祈りを捧げて私と会話する事ができます」
「まぁテンプレですよね。他には?」
「…………」
え?女神様黙っちゃったよ。
「………あ、体力を少し増やします。一割程」
「………………………」
「後体力が回復しやすくなります。怪我なども早く治ります…人族と比べて」
シンシリアの語尾が小さくなっていき、僕の眉間に皺が寄ってくる。
「………他には?」
「…………………ありません…」
はーーっと大きくため息ご出てしまったのは仕方ないでしょ。
「チートスキルとか、元の世界から物を召喚出来るとか、アイテムボックスとか、お約束なスキルいっぱい有るじゃないですか?」
「そんなの無理ですよぉ。まだ経験が足りないので」
「いや、大事でしょ、異世界ですよ?異世界って言ったら、ハーレムとか、魔法で無双とか、チートでお金儲けしてウハウハとか、ハーレムとか!」
思わず熱くなってしまうよ、だってお約束でしょ?鉄板でしょ?何の為の異世界なんですか!
「ハーレムでしたら魔族統べるとモテモテになりますよ」
なに⁉︎やっぱり一男子高校生としてはそこが一番大切でしょ。
「魔族の人って綺麗なお姉さんとか、可愛い獣人とか沢山居るんですか?」
「…………」
なぜ黙る⁈
「この世界は私が初めて作る世界なのです」
「…聞きました」
「私の力が及ぶ範囲で好きに出来る世界なのです」
なんだか嫌な予感。
「なので基本人型の魔族は……男性…」
無駄な想像力でリアルに思い浮かべてしまった。ノーキンのイケメン集団に埋もれる自分.何の罰ゲームですか?
「帰ります」
「えええええ」
「元の世界に戻して下さい」
「元の世界では貴方は亡くなっているのですよ」
「人間いつかは死ぬんです。父さんや母さん、ばあちゃんを見守ってのんびり死後の世界を楽しみます」
そっちの方が断然いい!絶対にノーキンイケメンに囲まれるよりマシ!」
「そんな事言わないで下さいよ、力が有り柔軟性のある思考の持ち主で、異世界に行きたいと言う考えを持つ方を見つけるの苦労したんですよ」
僕の選ばれた理由?異世界に行きたいとか考えてたっけ?よく覚えてないけどちょっとくさってたから考えたかな?
ハーレムも無い、無双も無い、メリット何にも無いで異世界にいる必要ある?
「元の世界に帰して下さい」
「お願いします、魔族を統べて下さい」
「元の世界に帰して下さい」
「力の足りない私が悪いのは分かっています。お願いですから力を貸してください」
「元の世界に帰して下さい」
「聞いてくださいよぉ」
「元の世界に帰して下さい」
「こんなにお願いしてるのに……ヒック」
あ、泣き出した。
「このまま人々を…ヒック…暴力に…ヒック…晒しておけな…ヒック…んですけど…ヒック…力が…力が……」
……僕が泣かしてるみたいじゃん。泣きたいのはこっちなんだけど。
だって殺されたんだよ?この世界の事情で。なのに泣き落とし?ずるく無い?
でも泣きやみそうにないし、ばあちゃんの声が頭の中でぐるぐる回るのよ
女子供を泣かすような男になるんじゃないよ
神様って言っても女性だし、見た目幼女だし?
女のわがまま笑って許せる男がモテるんだからね、広い男になるのよ
母さんの声も聞こえる。
犯罪者でも改心して繰り返さないなら、許す事も考えるべきだ。一つも罪を犯さない人間なんていないからな
小さい頃に聞いたセリフ。警察がそんな考えで良いのかよ、父さん。しかも人間じゃなくて神様だし。
「わかったよ、わかりましたよ、魔王にでもなんでもなってやりますよ!」
半ばヤケクソで叫んだら、やっと泣き止んだ。
「本当ですか?…ヒック…ありが……ありがとうございますぅぅぅぅぅ」
あ、また泣き出した…いつまで続けるのコレ?
*****
暫く泣いて気が済んだのか、やっと泣き止んだシンシリアの顔は結構悲惨な事になってた…女神の威厳って……
「では詳しくはタリタルに聞いて下さい。拠点とする場所やそこまでの案内もタリタルが整えます」
タリタル?誰だっけ。あ、王様か。色々有り過ぎて忘れてた。
「闘っていて亡くなる事もあり得ますが、なるべく生かして纏めて下さい。魔族も私の子供なのですから」
「僕の力がどんなものかは実戦してみないとわかりませんが、僕だって生き物を殺したくないですよ」
ミミズだってオケラだって、魔族だってーとかついつい頭の中で現実逃避。
「そう言う方だとわかってました」
ニッコリと微笑むけどまだ顔凄い事になってますよ。
女神様の威厳って…(2回目)
「では神託の間に戻します。この世界をよろしくお願いします」
女神様らしく眩い光に包まれて、姿が霞んで行く。
眩しくて目を閉じて、次に目を開けると元の部屋だった。
隣には跪き両手を目の前で組み祈りを捧げる王様、タルタルだっけ?が居た。
「……あのー…」
「おお、戻られましたか。お早かったですね」
?随分と居たと思うけど、よくある時の流れが違う空間とか言うやつだったのか。
「それで…魔王になっていただけるのでしょうか?」
「ええ、どこまでやれるかわかりませんけど、やらせていただきます」
「おおおおお、ありがとうございます!」
跪いてた王様はそのまま平伏しちゃったよ。
「王、どうなされました?」
王様の大きな声を聞きつけて兵士や大臣達が神託の間に入ってきた。
「笹木野様が魔王になって下さるそうじゃ‼︎」
「おおおおおおおおおおお‼︎」
入って来た人達は王様の言葉を聞いて皆さん平伏してしまった。
やーめーてー