###4 New・オレ&朝
「気分爽快、体調バッチリ」
朝の一鐘と共にパチッと目を開いたイシャスはころころ転がりベットの端に座ると、紗を払いぴょんと床に降り立つ。
アクティブなイシャスは、年齢的にも階段が危険なため、今は一階にある広い書斎を部屋として割り当てられているので、イシャスの部屋といっても、書斎の真ん中にベットが詰め込まれた臨時の部屋である。
イシャスが本を破いたりしないというイリアの信用があるのだろう。それとも、貴重な本をだめにされても、イシャスが怪我などしない方が良いと思っているのかも知れないが、とにかくその部屋の唯一ある北側の窓をイシャスは踏み台を使い開ける。
(う~ん、世界がキラキラしてみえるよ……実際に。気分的にじゃなくて)
「パール~、コレ何? キラキラしてんだけど」
自分の肩に普通にくっ付いていた水の精霊に、取りあえずイシャスは聞いてみる。
『――そうね、イシャスにわかりやすくいうなら、この世界のエネルギー? かしら。精霊…自然の粒子や魔力とかが、キラキラしてみえるのよ』
「へーそうなん――――だぁあ⁉ ってパール⁇ なんでふつーにしゃべってんの? この世界って! オレに分かりやすくってナニ? いや、それがなんでオレに見えんのっーか……それこそ、一から分かりやすく説明~して~」
思わぬ精霊の返事に、混乱のままわめき続けるかと思ったイシャスは、言葉を発する度に落ち着きを取り戻していく。それどころか、最後にはやや脱力しているようだ。
そんなイシャスの顔の横から回り込んで正面にきた精霊は、ニコッと笑い言う。
『じゃあ、まずは朝の支度をしてしまいましょう?』
「なんで母さん口調――そんで支度が先って…まぁ正しくはある。もうすぐ朝飯だしな」
『そう。だから、説明は朝食の後ね」
「ん、わかった」
五才のイシャスの一日で時間が決められているのは、三回の食事と昼寝、二回のお茶と朝の二鐘から半刻ほど母イリアの調薬の手伝いをすることで、それ以外は自由である。
通常の準貴族であれば、五才とはいえ既に簡単なマナーや学習、体力作りなどで一日のスケジュールが埋まっているし、たとえ平民の子でも家の手伝いで働いていたり、教会で字を習ったりしているので、イシャスの一日は緩いといえる。
だが、自由な時間イシャスは普通に体力作りや学習に値することを、楽しんで行っている。
庭を散歩したり駆けまわったり、調薬用に育てている薬草を採取したり、イリアに習って絵本を読んだりと。足りないマナーもイリアやルシスの様子を常に見ている事から下品ではない。
その状況から、強制的にこの時間はこうしなければならない、というのを厭う傾向にあるイシャスを考え、あえてイリアはスケジュールを決めていないともいえるのだが。
そんなイシャスはダイニング――――正確にはリビング・ダイニング・キッチンを広い一部屋で兼ねるLDKなのでリビングと呼んでいる――――でイリアと朝食をとるが、疲れの抜けきらないイリアが向ける心配をかわし、逆に母を言いくるめ、午前のお茶までイリアを寝かしつける事に成功する。
母の体調の事もあるが、どのくらい時間がかかるのかわからない精霊の説明を考え、途中で調薬の手伝いが入らないようにしたのだろう。
説明が早く終わっても、一人で作っていいとイリアの許可のある調薬をするなり採取なり、勝手にやればいいのである。
「それじゃあパール、さっそく……何から説明してもらえばオレが分かりやすい~?」
庭に面したリビングの半透明のドアから直接、パーゴラに囲まれたウッドデッキにアイスアップルティーを持って出てきたイシャスは、ローサイズのベンチに座り、精霊に丸投げするように尋ねる。
『そうね……昨日のこともあるし、最初から話した方が分かりやすいかしら?』
水の精霊は短い時間で定位置になりつつあるイシャスの肩から、ベンチとセットのローテーブルへ移動し、イシャスの方を向き、座る様な形をとる。
「あぁ、そーいえばそっちのが重要っぽいけど…ま、パールがそーゆーなら最初からで」
『わかったわ。まずは――わたしね、イシャスがゆら球って思っていた…転生の間にいた青色なのよ』
「あ、うん。それパール見た時なんとなく思ったけど……あの不思議空間って転生の間ってゆーの? 他のゆら球~ずは?」
『……一つずつ、話すわ――――』
水の精霊の長い話をある程度まとめると、まとめてもそれなりに長いが、まず、パルポルスというこの世界は、主神たる創造神パポスとパポスから創られた四柱、その四柱から創られた四神の神々と、自然を司る精霊によって構築されているらしい。
もちろん精霊を生み出したのも創造神であるが。
そして、転生の間とは、死んで新しく生まれられる魂、人間になれる魂へ神々の祝福――――その魂の適性にあった技術の補助――――を与え、送り出す場である事。
ある理由で千年ほど前から、大いなる精霊のかけら達を相性の良い魂に付けるようになった事。
水の精霊はタイミングが悪く、一年近くも相性の良い魂が現れず、長い間そこに居たことで統一された、かけらである筈の自分に、淡い意識が芽生えていた事。
他の魂と違い意識のあったイシャスの魂に、キレイだと褒められ一番に選んでもらえて嬉しく、いつからか、ただ付いているだけではなくイシャスと話せるようになりたいと思い始めた事。
そのイシャスの魂の意識が消えそうになり焦っていたが、五歳で神殿に行き祝いの日を行えば、精霊の事や神の事が称号欄に出るはずなので、それで目覚めるかも知れないと待っていたところ、祝いの日を七歳にすると聞き、気が付いた時には近くの泉に顕現していて、しかもイシャスが精霊目掛けてきてくれたので、微睡んでいるイシャスの魂に精霊からも全力でアタックし目覚めさせた事。
イシャスが気絶して寝込んだのは、目覚めさせるのにイシャスの魔力を全部使い切った事と、目覚めた事による脳の負荷である事。
その後、創造神に、話せる手段と球体ではない姿を持ち、イシャスの傍にいたいと願い出たところ、最低限話せる手段と姿は認められたが、傍に精霊として在るにはイシャスから、名を付けてと言わずに名付けてもらい、存在を認められなければならぬと条件を付けられた事。
昨夜イシャスが気を失うように眠りに落ちたのは、前回魔力を使った事により倍に増えた大量の魔力を、また精霊が使い切った事――――。
イシャスはパールの話を、自分がいちいち疑問を挟んでいたら脱線して終わらないからと、パールの話が途切れるまで我慢して聞いていた様だが、急に言いずらそうにもじもじし始めた精霊に続きを促す。
「情報が多いしツッコミどこアリアリだけど、なんでまた、昨日オレの大量の魔力? 使ったんだ?」
『――えっと、それは…もっと、その、今みたいに話せるようになりたかったし、イシャスの事も知りたくて……それに、付いてるかけらじゃなくて、一番大事な傍にいるための居場所が必要で、だから――――』
イシャスの顔の前へ、どこか申し訳なさそうな顔をした精霊が近づき、額に触れるしぐさを見せる。
『ここに、イシャスの魔力を使って私の居場所、作っちゃったの』
「――――…………ものすげぇ不法侵入だな、パール」




