##19 母さんと午後のティ―
「――――それで、ロザリア様とはどんなお話をしたのかしら?」
寝込んだ後の目覚め程ではないが、ダイニングでイリアにさんざん体調の心配をされたイシャスは、二杯目のアイスアップルティーから口を離す。
「どんな? ん~メインはオレが目ぇ覚まして嬉しーってコトと、やっぱ体調の心配だったよ」
「そうね。お茶に招かれたのは、そういう理由だとわたしも思ったのだけれど……昼食もご一緒したのだし、ほかにも何かお話したのでしょう?」
(なんか母さんグイグイくんな。そんなにナニ話したかって知りたいもんか?)
「……まー、したけど。ロザリアの好物が山菜とか? んで、オレが増やして食べたり。―めっちゃウマかった」
イリアは、タイミング的に「めっちゃウマかった」という言葉と、イシャスの手にしているアップルティーを見て、笑顔のまま少し嫌な顔、という器用な事をする。
イリアが作る料理はイシャスだけではなく自分も食べるので、微妙な味であると本人もわかっているのだ。
その上、イシャスが気に入っている、アップルが主でティーが風味という特別な、アイスにもホットにもなる顆粒状のアップルティーの素、といえる物はロザリアのお手製なのである。
料理はともかく、イリアもお茶は普通に淹れられるので、母として少し面白くないと感じてしまうのは仕方がないが、イシャスが自分用で好みの味の方を気に入るのもまた、仕方がないだろう。
「――植物が増えるのはカシス君に聞いたわ。それで昼食もご一緒する事になったのね」
「そーそー」
「……カシス君に聞いたといえば、精霊様はどうしたのかしら? 不可視になっても魔力は感じるはずなのだけれど――」
イシャスの周囲をゆっくり見まわしたイリアは、顎に人差し指をあて首をかしげる。
(そーいやロザリアもパールの居た肩みてたっけ。魔力でかぁ…じゃなくて)
「――あ~パールなぁ……パールはなんつーか、ねてる? や、ねる必要ナイからイメージだけど、めいそーしてる?のか、デコから出てこないんだよ」
イシャスが「めいそー」というと迷走かと思ってしまうが、ニュアンス的に瞑想であるようだ。
もちろんイメージらしいので、本当にパールがイシャスの額の中で瞑想している訳ではないだろう。
イシャスが昼寝から目を覚ました時にはすでに、パールはそういう状態であった。
「額――あ。……少し角ばった水のしずくみたいな紋様? 印かしら? 額の中心に浮き上がっているわ、イシャス」
「え?――へー、そんなのがデコにかぁ……パールの目印かなんかかな? 住んでんだし」
イシャスは額に触れながら、「オレ、かお洗ったのに気づかなかった~……あ~、鏡みてナイや」と呟き、一人で納得している。
何故かイシャスは紋様がついている事にではなく、気づかなかった事の方を考えていた。
そんな息子にイリアはくたっと、やや横向きにソファーの背にもたれかかる。
「――イシャスは平気なのね?」
「ん~? 目印みたいなヤツ? それかパールがデコに住んでるコト~?」
「……両方なのだけれど」
「どっちもへーき。……アレ?っつーか、なんで今? 母さん魔力でわかるんだよね? 特に朝のパールはウネウネしてたから見えたと思うケド」
「――――うふふ?」
笑ってごまかそうとするイリアを、イシャスはじっと見る。
(この笑い方……そーいや今日の朝飯は微妙をとーりこして、マズ―いやいや、アレだったから)
「――あぁ、母さん寝ぼけてたんだ。別にごまかさなくてもよくね? オレの心配であんま寝てなかったんだし」
「だって、それは……」
言葉に詰まったイリアは、少し申し訳なさそうに目を伏せる。
(なにその反応~。オレに察しろつっても、ムリだからな――よし、きくか)
「だってナニ~?母さん」
「あ、えっと、それは…………イシャスの心配をしていたのに、イシャスの異変に気づかないのだもの。肝心なところでわたしはダメなのだわ、と思ったのよ。――息子に話してしまうところもだけれど……」
「ふ~ん……」
「――え?」
イシャスの思いがけない淡泊な返事に、イリアの思考は中断したようだ。
「ん?――ああ、母さんって天然っぽく見えんのに意外とネガティブーって思った。つーか、異変ってパールのコト、だよなぁ…パールって言えば母さんと話し方にてる。や、最初からパールは母さんの口調チョイスしてたっけ。デコに籠る前はオリジナリティー出て来てたケド――起きたらまた変わってんのかな?――あ。オレの1日の予定そのうち変わるよ母さん。ロザリアにレンキン術と、リリーにまず読み書き教わるからー」
イリアはイシャスの、自分への感想から独り言、そしてその次に放たれた言葉に付いていけず、口から思わずこぼれたのは、またしても、「――え?」であった。




