防火
2015年12月のお話
「…うん、うまい」
「よかったー」
「まあ毎回言ってる気がするけども」
「評価もだいたいおんなじな気がする」
「まあでも不味かったらそういう風に言うから。真面目においしいから大丈夫」
夜。
いつものように千夏の手料理による夕飯である。
相変わらず優美は料理する気が無いので千夏頼りである。
「いっつ…」
「ん、どした?」
「ああ、ちょっと火傷しちゃって」
「大丈夫?」
「平気平気。触るとちょっと痛むくらいだし」
「応急キット持ってこようか?」
「大丈夫これくらい。ありがと」
「そうか。まあそれならいいが」
この家で火を使うところと言えば台所程度なわけであるが、
当然そこで家事をするのは千夏なので、
その被害を被るのは大体千夏である。
「というかちょっと思ったんだけど」
「何さ?」
「いや、今回私火傷で終わったけどさ」
「うん」
「この家木造じゃん」
「うむ」
「火使うのがちょっと怖いなと。いやそうそう燃え移りはしないと思うけど」
「…確かに。この家、火がついたらどうしようもないよな」
「ほとんど全部燃える素材だよね」
「たぶん、ある程度火が育ったらどうにもならんやつよの」
「そうなったら困るね」
「困るな。さすがに家無しは俺やってける気がしないぞ」
「私たちがなんとかやってけてるのもここがあるからだもんねー」
「割と間違ってないから困る。勝手に居座ってるだけだけど」
結局今に至るまでここに居座っている二人。
たまたま出てきたところがここだっただけで、
果たして勝手に居座っていいものかとか当初こそ思っていたが、
今更ここから出ていくのは非常に困る。
特に持ち主が現れたりする気配もないので。
「…よーし火事対策しよか」
「…対策できるものなの?」
「消火器置いとくだけでも変わるんじゃない?」
「ああ、まあ無いよりはましかもね」
「なお使い方分からん模様」
「調べよ?」
「使う機会無かったんだもの」
「いやまあ実際に使う機会とか無い方がいいに決まってるけどさ」
「小学校で実践やってたような記憶あるけど」
「うん」
「残念ながら校内生徒の代表二人くらいしかやってなかったから当然俺は触ってないわけで」
「まあそういうところ立候補しないもんね優美ちゃん」
「絶対しないね。めんどいもん。いや小学生時代はやりたくてもやれなかったかもしれないが。あの頃はまだめんどい理論はしてなかったと思うし」
「優美ちゃんがめんどい言わなかった時期があったのか」
「そりゃまあピュアな時代もありましたよ。今は澱んでるが」
そうして早速PCを開く優美。
「もうなんか優美ちゃんとりあえず何かあるとPC開くよね」
「便利やん」
「いやまあそうだけど」
「ネットショッピングサイトは偉大だと思うわ」
「優美ちゃん家から出ないからね…」
「おうち最高」
手早く検索サイトに文字列を打ち込む優美。
手慣れたもんである。
「消火器売ってるもんなんだな」
「思った以上に種類あるのね」
「なぜか俺、消火器って学校とかによくある赤色のでかいのしかないと思ってたわ」
「さすがにそれはない」
「いや、ものすごい身近にあるのがそれだったもんで…」
かつて優美が過ごしていた集合住宅に設置されていたのが、
そのタイプだったらしい。
まあそれも結構種類あるのだが。
「さすがにこんなでかいの置いておくスペースは…まああるか」
「別にあるね」
「この家無駄に広いからなあ…玄関口に置くスペースあるよね」
「台所も使ってないエリアいっぱいあるしね」
「どうするでかいの買っとく?」
「優美ちゃんがいるなら」
「できればいらないで終わらせたいけど、まあなんかあったら嫌だしな」
とりあえず目に留まったものをかごに入れる優美。
「適当で大丈夫?」
「泡タイプの方がいいと聞いたことがあるのでそっちにしといた」
「破裂したりしない?」
「蓄圧式っていうの?それなら大丈夫なんだってさ」
「そうなん」
「まあ台所に置いとけばいいから一つでいいよね」
「まあ何個も投入する事態になったらたぶん逃げた方がいいとは思う」
「だよねえ」
「あとは…なんかハンディタイプもあるっぽいから一応買っとくか」
「それどこに置くの?」
「…俺の部屋?」
「なんではてなついてるのさ」
「いやどこおこうか考えたけど、ぶっちゃけこの家火元がそもそもコンセントと台所くらいじゃないかと思ってな。でよく使うコンセントと言えば俺の部屋のPC用コンセントかなと」
「私も使うときは使うけどね」
「じゃあお前の部屋のもいる?」
「あとリビングのコンセントも使うよね」
「じゃあ三本買うか」
「家が消火アイテムで埋まる」
「人生で消火アイテムこんなに買うの初めてだわ」
「家が広い弊害」
「それを補う財力はあるから」
「出所不明だけど」
「それ」
「結構もう取り返しつかないくらい使ってる気がする」
「まあもうなんか普通に暮らしてるからそうもなるわな」
「優美ちゃん稼ぎにいってもいいのよ?」
「一応仕事してるから。そういうお前もバイトとかやってええんやで?」
「バイト禁止ですしお寿司」
「まあでもやってるやつ絶対いるよな」
「いる。むしろ私の知り合い結構やってる」
「だよねえ」
「あ、でも佳苗ちゃんとしげちゃんはやってないからね」
「なんだかんだ優等生ねあの二人」
「成績も超優秀。私の肩身が狭いです」
「川口はともかく茂光はマジであいつ頭いいからなあ」
「佳苗ちゃんも私から見れば十分頭いいです」
「おう、もっと勉強しよや」
「く、美少女になっても逃れられぬサガなのか」
「いや別に逃れてるやつここにいるけど」
「学校行きたかったんですもん」
「自分から飛び込んでったからね。仕方ないね」
まだバイトとかをする気はないらしい。
優美は最初から欠片もその気は無いが。
「そういえばこんなのあったよ」
「…天ぷら用消火用具?」
「ピンポイントだろ?」
「ピンポイントだね」
「天ぷら食いたい」
「待った。使わせようとしてない?」
「ちょっと見てみたい」
「見てみたいで家を燃やそうとしないで」




