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旅立ち

2016年3月のお話。

「ん、なんだこの日」


ふと壁のカレンダーに目をやれば優美の身に覚えのない赤丸を見つけた。

このカレンダーは正直使われることがほとんどないため、

ここに何か書かれるというのは余程のことである。


「…千夏かな。というか千夏しかいないか。このカレンダー使うやつ」


二人しかいないので当たり前である。


「帰ってきたら聞いてみるかね」


それから数時間後。


「ただいまー」


「おかえり」


いつものように、

外に出かけていた千夏が帰還する。


「ちょっと聞きたいことあるんだけど」


「ん?何?」


「このカレンダーの赤丸なんぞや」


「ああ、それね。しげちゃんが行っちゃう日」


「行っちゃう?どこへ?」


「あれ?優美ちゃん聞いてない?」


「何をだ」


「しげちゃん、ここら辺から離れちゃうって」


「…は?初耳なんすけど」


「あれ、てっきりみんなに言ってるかと思ってた」


「え?なんで、どーして?お前とかいう彼女作っといてどこいくん」


「大学。離れたところに行くんだって」


「まーじかよ。初めて聞いたわ。茂光も言ってくれればいいのに」


「てっきり私は聞いてるかと思ってた」


「あれなんかな、彼女にしか言いたくなかった的な」


「そうだったのかな。うわ、だったら私話しちゃ駄目だった?」


「いやまあこれは仕方ないでしょ。事故事故。しっかしまじかあ。あいつこっからいなくなるんかぁ」


「だいぶ前から決めてたみたい」


「ほーん…そうか…じゃあ行く前に会わねばなるまいな。…明日に」


カレンダーの赤丸がついていたのは次の日であった。


□□□□□□


「じゃあ行ってくるよ」


「はい、行ってらっしゃい。向こうでも元気にやるのよ。あ、向こうについたら連絡だけ忘れずにしなさいよ」


「分かってるって母さん」


「…ああ、もう行く時間か。茂光」


「ああ、またね父さん」


「ああ、ではな。茂光。時間ができたらまた帰ってこい」


「そうするよ。じゃ、遅れるとまずいからこの辺で。行ってきます」


「いってらっしゃい」


「いってこい」


茂光宅。

前々から県外の大学に行くことを決めていたので、

その近くで一人暮らしすることにした茂光である。

そして親の言葉を背に玄関の扉を開ける。

そのまま外の道路に一歩踏み出すと声がかかった。


「しーげちゃん!」


「え?千夏さん?なんで?」


「なんでじゃねえよ。お前が今日行っちまうっつーから来たんだろうが」


「優美ちゃんも?」


「私もいるからねー!何にも言わずに行く気かこんにゃろー!」


「川口なんでお前まで?」


「あーんーっとね、俺が川口にかんしちゃ伝えたんよ。余計なお世話だったかもしらんがね。いつものメンバーに何にも伝わってないのはあれかと」


「そっか…いや、言おうかなと思ってたんだけど…タイミング逃して」


「まあ別に連絡はいつでもできる状態ではあるけど、ま、見送りぐらいしようかなと」


「私は最初から見送るつもりだったけど、みんなで見送ろうって昨日決めたの」


「昨日電話かかってきてからの今日でほんと驚いたんだからね!仮にも腐れ縁なんだからそういうことは先に教えろー!」


「わ、悪かったって」


「ふふん。まあ、とりあえず知れてよかった。最後の姿を見ずに別れるのは私としてもちょっとあれだったし」


「…ありがと。みんな」


「数少ない友達だしなあ?見送りぐらいそりゃさせてもらいますって。近いし」


「彼氏を見送らないほど薄情じゃないからね!私も!」


「お?ちなっち自分をしげみっちの彼女だと認めたな?」


「やっとか。まあ周囲公認だった気がするけど」


「ちょ、今それ茶化さなくていいからっ!」


見送りに来たはいいがギャーギャーである。


「というかしげちゃん時間大丈夫?」


「あ、そうだった。とりあえずまだ余裕ですね。元々歩いていくつもりだったんで」


「よし、じゃあ全員で歩いて駅まで行くぞ。どうせ出発場所っていつもの駅だろ?」


「ん、ああ、あそこから電車乗って新幹線だけど」


「じゃあ駅まで最後の行軍と行きましょうや」


そうして四人で歩き出す。


「というかこうやって四人で歩くのって何気に珍しいよねー」


「確かに。俺ほとんど神社から出てかないしな」


「でも優美ちゃんとは一緒にいた感じがすごいするんだけど」


「集まる場所がほとんど神社だったからかもねー。優美ちゃんほとんど外出ないし」


「一応外は出とるわい。境内までだが」


「それ出てるって言わないからね!」


「なんだかんだ言って集まる場所としては最高だったからなあ。優美ちゃんの神社」


「確かに、俺たちが集まるって言ったら大抵あそこだったよなあ」


「とりあえず境内いたよなお前ら」


「あーでももうあの神社に集まれることもないと思うとちょっと寂しくもあるなあ」


「まあ大丈夫だろ。SNS繋がってるし。メールもあるし。本当の意味でお別れではなかろうよ」


「そうそう。毎日メッセージ送るからね!」


「よーっし私もメール送りまくろう。しげみっちの携帯の通知を私のメールで埋め尽くしてやる」


「メール代えぐいことになりそうだな」


そんなことを喋りながら歩いていれば気が付けば駅の改札前である。

家から歩きでもそれほどかかる距離ではないので。


「じゃあ、まあそろそろお別れやなあ。元気でやれやー。暇あったら遊びに行くわ」


「ああ、じゃあまた、優美ちゃん」


「そういえば結局俺ちゃんづけだったなあ…なんでやろ」


「いやなんかこうそっちのがしっくりくると言いますか」


「好きでロりやってるわけじゃねえっつーの!…じゃ、またな」


「おう」


「しげみっちー。何気に初めて行く先分かれたねえ」


「そうだなあ…なんだかんだで腐れ縁だったしなあ」


「つまりこれで縁切り!ひどい!」


「いやどうしてそうなる!とりあえずは離れても友達だって思ってるから」


「ふふ。絶対だぞー。夜中にメール100件くらい送っても友達だぞー」


「あ、その時は友達やめるわ」


「ぶ、ひっどい。…じゃあ、またね。しげみっち」


「ああ、またな」


一通り喋って一歩引く優美と佳苗。


「千夏さん…」


「しげちゃん…またね」


「はい、また。また戻ってきますから」


「うん。待ってるからね。帰ってくるまでずっと」


「はい。高校の3年間。楽しかったですよ」


「うん。私も。…正確には2年とちょっとくらいだけど」


「そうですね。確かに。…向こうでも、頑張ってきますね」


「うん、頑張って。帰ってきたときは…」


「はい。約束です」


「それじゃあ…またね!しげちゃん!」


「はい!千夏さん!また、会いましょう!」


そうして茂光は千夏のもとから離れて新たな生活へと旅立っていった。



なお待っているとは言ったものの、

半年後くらいに茂光のもとに千夏が出現したのは言うまでもない。



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