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迷路

2016年12月のお話。

「ん、どっか行くの」


リビングでPCをいじっていた優実が顔を上げる。

その目線は開かれた襖の向こうの廊下へと注がれる。

昼間の間は基本的にここの襖は開けているのである。


「うん、ちょっと買い物に」


「ああ、買い物ね」


「さっき冷蔵庫見たら何にも入ってないんだもの」


目線の先にいるのは当然千夏。

外に行くための格好に着替えてきている。

手に持ったハンドバックの中にはマイバックも入っていること間違いなしである。


「どこに買い物いくん?」


「んー色々買い足したいのと、他事もしたいからスーパーの方かな」


神社周辺には意外と買い物する場所は多い。

歩いて数分の場所にコンビニ、八百屋。

少し遠くには大型スーパーと割となんでもござれである。


「俺行かなくていい?」


「だいじょーぶ。買い物袋くらいなら一人で何とかなるし」


「ほんとに?また腕が死んでも知らんぞ」


「さすがにあそこまで買ってくることはしません。もう嫌です」


以前スーパーの方で大量に買い物をした際に、

あまりにも量を買いすぎて、持って帰るのがすさまじく大変だった時があるのである。

それ以降大型スーパーでの買い物は必要なもののみにとどめている。

それでも結構な量になるのだが。


「まあ、最悪彼氏呼び出して手伝ってもらえ」


「え、でもそれしげちゃんに悪いし」


「いいだろ。暇そうなら呼び出しても。あいつなら喜んで手伝ってくれるだろ」


「いや…しげちゃんだと本当に喜びそうだなあ…」


「それだけ聞くとMみたい」


「違うから。それは絶対違うから」


「まあパワータイプなのは間違いないし、荷物運びには一番でしょ」


「男は荷物運びにされる運命」


実際力は強い。

が、それを使うような機会があんまりないのが茂光である。


「まあまあ、今の俺らはおにゃのこですから、男をこき使う権利がある」


「ひっでえこと言い出したぞこの幼女」


「美少女に呼び出されて、荷物運びとして使ってもらえる。ご褒美だろ」


「ご褒美なんですかそれは」


「俺はやられたらいやだ」


「ご褒美じゃないじゃん」


「まあまあ、とりあえず、行くなら行けよ。もうそんなに日も長くないし」


「引き留めたの一体誰なんですかねぇ…」


「さー誰でしょー。とりあえず遅くなるなら連絡しろよー」


「うい」


そんなやりとりを終えると外に出る千夏。

冬の寒さが身に染みる。


「スカートはこういう時は寒いなぁ…」


そうつぶやく千夏がスカートを穿かない日は無い。

ズボン類は邪道らしい。


「さっと行って、早く帰ってこよう」


早足で境内を駆け抜ける千夏。

ツーサイドアップにしている髪の毛がなびいた。


「えーっと、とりあえず川渡って…うーん、川沿い歩いていこうかなあ」


千夏の目指す大型スーパーは主に二種類の道がある。

川沿いを通る裏道ルートと、

表通りに出る重手通りルートである。

人通りを除けば、距離的な差はあまりない。


「…うん、裏通りにしようかな。迷わずに行きたいし」


裏通りは川沿いを歩いていけば自然とたどり着くため、

楽である。

まあかといって表通りもそんなに複雑なわけではないが。


「早く行って帰らないと優美ちゃんに怒られそうだなぁ」


既に周辺は日が落ち始めている。

冬なので仕方ない。


「あの…すいません」


「はいぃ?」


そんな思考を繰り広げる千夏の下に、

声がかけられえる。

声のする方を見ればおばあさんが一人。


「え、えっと、どうか、されました?」


「ちょっと迷っちゃってねえ…郵便局ってどこだったか分かるかしら?」


「ゆ、郵便局、ですか?」


思考を走らせる千夏。

どこかで見た記憶はあるが、

普段からそう何度も行くような場所ではない。


「ちょっと待ってくださいねー。えーっとケータイケータイ…」


少々困ったような笑みを浮かべながら、

携帯を取り出そうとする千夏。

分からなかったらネットで見ろとは、

誰が言った言葉だったか。


「…あ、あれ?」


が、そうは問屋がおろさない。

持っていたハンドバッグの中に携帯存在せず、

人目をはばからず、全身探ってみたがどこにもない。

よくよく考えればリビングで充電中のままで放置してきた気がする。


「あ、馬鹿…えーっと、そうですね…たしか大通りの所にあったとは思うんですけど…」


頭に残っている情報をフル動員して、

なんとなくの場所の特定をする千夏。


「大通りってどっちだったか分かるかしらねえ…?ここら辺の裏道迷路みたいで迷っちゃったの」


「あ、それなら分かります!こっちですよ!」


とりあえず確実に大通りに出ることのできるルートに道を変更して歩き出す千夏。

おばあさんの隣で歩幅を合わせてスピードが出すぎなようにしている。

普段の速度だと早すぎるので。


「ありがとうね。ここら辺人通りがあまりないから、聞くに聞けなくて」


「いえいえ、それくらいなら私にもご案内できますから!」


表通りはともかく、

裏通りの人通りはとても多いとは言えない。

良く知らずに迷い込めば脱出は難しい。


「あら…?」


「?どうされました?」


「いえ、人違いだったらごめんなさいね。あなた、神社の所の娘さんかしら?」


「え?なんでそれを…」


「あら、その反応ってことは合ってるのね?いえ、大したことではないの。前そこの神社にお邪魔した時にあなたの姿を見ていたのよ。髪型を見てもしやと思ってね」


「あ、あはは、まあ確かにいつもこの髪型ですねえ…」


「あそこの神社は空気が好きだから偶に行くのよ。また見かけたら挨拶させてもらうわね」


思った以上に存在を知られていて焦る千夏。

千夏の記憶ではあった記憶が無いので、

話したことは無いのだと思う。

だがしかし、境内脇で子供たちと一緒に遊ぶ女子高生、

嫌でも目立つ物なのかもしれない。


「あ、大通りでましたよ」


「あら、ありがとう。これで郵便局の場所さえわかればいいのだけど…」


「…ぅー分かりました。一緒に探します」


「え?いいのよ?ここまで案内してもらっただけでも十分助かったわ」


「大丈夫です。ここまで案内したし最後までお付き合いします」


なお大丈夫ではない。

空は闇に覆われはじめ、

その上でよく分からない場所を探すとか難易度が高すぎである。


「えーっと…誰かに聞くべきかなあ…」


ぶっちゃけ嫌だが、まあ聞かないと何時間かかるか分かったものではないので、

仕方ないと言えば仕方ない。


「あれ?ちなっち?何してんのこんなとこで」


「あ!佳苗ちゃん!」


その時千夏に声がかかる。

まさしく天の助けである。


「え?郵便局?こっから真っ直ぐ行って、2番目の信号左に行けばあるよ?」


「…だ、そうです」


「あらあら、本当にありがとうねえ」


「ちなっち、この人は?」


「郵便局行きたいって声かけてきた人。だけど私場所良く知らないから…」


「とりあえず大通り出てきたってことね。よーしちなっち、後は任せろー。おばあちゃん、こっからは私が案内しますよー」


「え、いいの?」


「いいよいいよ、どうせ帰るとこだったし」


大通り側に住んでいるためかそこらへんは詳しい佳苗である。


「色々ありがとうね。また神社に行った時はよろしくね」


「はい!こちらこそ!」


「じゃあ行きましょうかー。またねーちなっちー!」


「またねー」


そうして歩いていく佳苗とおばあさんを見送る千夏。


「…あ、やば時間。…連絡連絡…あ」


鞄をあさろうとして先ほど探したことを思い出す千夏。


「…無いんだった。あー優美ちゃんに怒られるー!」


結局戻って、家の近場で買い物する羽目になる千夏であった。

まあ人助けしたので良しとすると自分を納得させながら。



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