1章1話「今度こそ、俺の人生にラブコメを」
お読みいただきありがとうございます。
文末に説明用のTIPSを書きましたが、読まなくても問題ないように本編を書いています。
読んだ方が世界観は理解できますので、ご興味がありましたらお読みくださいませ。
なお、本日は5回(10時・13時・15時・17時・19時)投稿します。
◆
俺の名前は岡田倫太郎。
……なんか、聞いたことのある名前だって?
ごめん。どこにでもいる普通の高校生だ。
ただひとつだけ、普通じゃないことがある。
それは、異世界転生の記憶が二回分あること。
一度目の人生は、普通に地球で過ごしていた。
俺は、小さいころから学力も運動も誇れるところがなかった。
そして、大人になった後はブラック企業に就職した。
朝は始発、夜は終電。
「若いんだから根性見せろ」が口癖の上司と、
「休み? 取れるわけないだろ」と慰める先輩。
気づけば、家には眠りに帰るだけの生活になっていた。
もちろん、恋人なんてできるはずもない。
……でも、そんな生活の中で、ひとつだけ救いがあった。
ラブコメだ。
漫画でも小説でもアニメでもいい。
とにかく “ 恋愛してる誰か ” を見ると、
心がふっと軽くなる気がした。
(……こういう青春、俺もしてみたかったな。)
深夜の部屋でひとり、ラブコメを堪能しながら、
カップル未満のやり取りにニヤニヤしていた。
そして、日々の仕事に忙殺されるなか、迎えた長期休暇。
俺は、未読のまま積んでいた作品を一気に読み始め、
気づけば三日間寝食を忘れて読書に没頭した。
ふと、お腹がすいたなと立ち上がった瞬間、視界がぐらりと揺れて――
机の角に後頭部を強打して、そのまま死亡。
(もし、もう一度人生があるなら……今度こそ、ちゃんと生きたい。
誰かを大切にして、誰かに大切にされて……そんな普通の幸せがほしい。)
その願いが届いたのか、神様が与えてくれた二度目の人生。
その舞台は、科学の代わりに魔法が発達した “ 異世界 ” だった。
魔法がある世界に俺は興奮した。だって男の子ですもん。
……ただし、世界は残酷だった。
魔法は、才能がある者にしか使えない。
もちろん俺に才能があるわけがなく、転生特典もチートもない。
女神様どこぉ?
そんな俺は、非力で非才ゆえに、パーティーの斥候職として地味に働いていた。
パーティーメンバーには恵まれていたし、日々の生活に十分な稼ぎもあった。
……しかし。
ダンジョン探索中、パーティー仲間のラブコメに気を取られた俺は、
宝箱の罠解除に失敗し、爆発系の罠に引っかかり死亡。
……いや、分かってるよ?
ラブコメに気を取られて二度も死ぬとか、バカだって。
でも、しょうがないじゃん!!
だって、あいつら相思相愛なの丸わかりなんだぜ!!
そんなの俺の大好物じゃんかよ!!
ふざけんな! 大好き!!!
そして迎えた三度目の人生。
俺が転生したのは――異なる世界線の地球だった。
科学は発達してるし、スマホもある。
ただ一つ違うのは、この地球には “ ダンジョン ” があること。
五十年前、世界中に突如として出現したダンジョン。
内部には未知の資源と魔物が存在し、
その素材はエネルギー・医療・工業など幅広く利用され、現代社会の基盤となっている。
ダンジョン素材をうまく採取できれば莫大な利益を得られるが、
魔物は “ ダンジョン素材を用いた武器か素手 ” でしか倒せない。
ダンジョンで活動する、危険だが夢のある職業――それが冒険者だ。
そんな世界で、俺の目的はただひとつ。
普通の恋愛がしたい。
……いや、ほんとにそれだけなんだよ。
だってさぁ!
今までの人生でお付き合いした女性はゼロ!!
いい雰囲気になった女性もゼロ!!
俺、二回も転生しているのに!!
……本当は、自分でも何が悪いかは自覚している。
才能があるわけでもない。
面白い話ができるわけでもない。
何か一つでも人様に誇れるものがあるわけでもない。
それなのに、他人のラブコメを見た瞬間に、IQが下がり “ 感情が爆発 ” する。
(あぁあああああああああ~!!
両片思いの男女が、繰り広げる青春ラブコメディ~!!
こういうの、大好きッ!!)
声に出して叫びこそしないが、
口元がにやにやしていて、最高に気持ち悪い顔をしている自覚はある。
そんな俺には、幼馴染の女の子が1人いる。
……え、勝ち組?
いやいや、聞いてくれ。
俺だって、子供の頃はそう思っていたさ。
隣の家に住んでいる、笑顔の可愛い女の子――水無月しずく。
高校生になった今では、横髪と襟足を長くした黒髪のショートヘアが似合う綺麗な女の子になった。
細身でスタイルも良く、頭もいい。
俺が勝てているのは、せいぜい身長くらいだ。
中学生以降、次第に会話は少なくなったけど、交流が減ったわけではない。
子供の時にプレゼントした、イルカのヘアピンも身に着けてくれているし。
嫌われてはいないはずだ。
しずくは、普段は無表情に見えるけど、決して愛想が悪いわけじゃない。
気遣いのできるいい子なんだ。
たまに作った料理のおすそ分けを持ってきてくれたりするし……
いや、あれはただの近所付き合いだな。
……ただ、いつも俺を睨んでる気がするんだよな。
俺、なんかした?
親同士も仲が良くて、しずくとは小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた。
だから、あいつが俺を睨んでくるのも……
幼馴染特有の “ 距離感の近さ ” ってやつなんだろう。
……たぶん。
それに、三度目の人生を迎えて思うんだ。
俺は周りの環境に恵まれている。
だけど、前の人生では親孝行らしいこともできなかったし、
仲間には助けられてばかりで、何ひとつ返せなかった。
だからこそ、今度こそは――
ちゃんと誰かを大切にできる人間になりたい。
しずくにも、親にも、友達にも。
俺を支えてくれる人たちに、胸を張れる生き方をしたいんだよ。
そして、正真正銘、今度こそ俺は――
ラブコメも、ダンジョンも、人生も精一杯楽しんで攻略してみせる。
TIPS:ダンジョン
・50年前、世界各地に突如として出現。
・内部には未知の資源と魔物が存在し、資源はエネルギー・医療・工業など幅広く利用される。
・階層ごとに難易度が異なり、現在は国が管理して一般公開されている。
・内部には “ マナ ” と呼ばれるエネルギーが満ちており、マナを含む攻撃でなければ魔物に有効打を与えられない。
・魔法は存在しないが、ダンジョン内でのみ使用できる “ スキル ” が確認されている。
TIPS:自衛隊
・ダンジョン内部では、魔物に近代重火器がほとんど通用しない。
・ダンジョン外では、スキルが使えないため、冒険者は一般市民と同じ脅威度となる。
・よって、自衛隊の役割はダンジョン出現前と大きく変わっていない。
・稀に発生する “ 魔物の氾濫 ” に備え、ダンジョン周囲には武装した自衛隊員が常時配備されている。




