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1-アオくんは最推しです

顔も知らないのに、声だけで好きになった。

アオくんは、私にとってずっと特別な人で。

中学二年の頃から、毎日みたいにその声を聞いてきた。


だから——聞き間違えるはずなんて、ないのに。

「……和田さん?」

その声に、心臓が跳ねた。


ーーー





数学の課題が終わり一段落し伸びをする。


「アオくんまだかな、って。…私と違って忙しいよね。新生活だし。」

美依(みい)はスマホの画面を確認して呟いた。


アオはスピーキンの配信者だ。声だけなのに誰よりも近い存在。



美依は2年前、中学2年生の6月にスピーキンという配信アプリをダウンロードした。美依がアプリに慣れた頃、 その年の夏休み中にアオは配信を始めた。アオの初配信をたまたま見つけて、慣れないアオに操作方法を教えた。

今では、地元や学校など個人が特定されること以外は、ある程度お互いのことを知っている仲だ。


美依とアオは同い年で、春から高校1年生。アオが忙しいのは仕方がないと思う。むしろ、初配信の日から毎日配信をしている方が不思議だ。受験の前の日さえ、10分くらい配信していた。


心の拠り所になっている美依としては嬉しい限りではあるが無理はしないで欲しいと思っている。


※ ※ ※


先月卒業した中学校では何人か友達がいたが本音を言える仲ではなかった。


中学二年の頃、人が怖くなった。


うまく笑えなくなって、

誰かと話すのも苦手になった。


——そんな時に出会ったのが、アオくんだった。


最初の頃は、リスナーなんてほとんどいなくて。

私とアオくん、ふたりだけの時間も多かった。


「みーちゃん、いつもありがとう」


その一言に、何度も救われた。


現実ではうまくいかなくても、ここでは少しだけ、普通の自分でいられた。


だから。


アオくんは、特別なんだ。


スマホを前に声を上げて泣いてしまったこともある。自尊心が粉々になっている美依に少しの勇気と希望を与えた。



アオはとてもイケボであるため、リスナーが沢山いそうであるが、一癖あるアオは癒しを求めるユーザーが多いこのアプリでは人気の獲得が困難だった。

彼は自身で繊細というように、ONとOFFがあり、ONの時には楽しげに色々と話し、よく笑った。

しかし、OFFだと言葉少なく、鬱鬱とした空気を纏ってネガティブな自虐をいう子だった。

多くの人はその落差に戸惑って離れていったけれど、美依はそんな彼の方が放っておけなかった。

痛みを隠して生きているところが、自分と少し似ている気がしたからだ。


ジメジメとした配信になるのはプライベートでのトラブルがあった後やストレスがかかるイベントが控えている時だ。特に、体育祭や文化祭、マラソン大会などのイベントを控えている時には、失敗する事や辱めを受けバッシングされることを妄想し、不安を露わにしていた。


美依はアオの温度感に合わせて、話を聞いた。

アオが楽しそうに話す時には楽しく話し、アオが落ち込んでいる時には話を聞き励まし、落ち込んでいる事象の改善策を一緒に考えた。



アオと美依はそうやってお互いに心を守ってきた。



配信開始1年経った頃。おじいさんから譲ってもらったというアコスティックギターでの弾き語りや誕生日に買ってもらったというゲーム実況をするようになった。それにより、1部リスナー離れがあり、リスナー層に変動があったが、結果的にはリスナー数がうなぎ登りにどんどん増えていき、今は過疎枠からは程遠い枠になった。


最初はふたりだけの時間も多かったのに、今のアオくんはもう過疎枠なんかじゃない。

それでも、時々向けられる言葉に期待してしまう自分がいる。





アプリを開いてアオ☆のアイコンをタップする。

プレイリストを開くと、歌ってみたがズラっと並ぶ。

どの曲もいいけど一番聴いちゃうのは、初めて投稿された曲。


1番下までスクロールして、歌ってみた夜を越えた歌の再生ボタンを押す。


『どうも、アオです。歌ってみた。夜を超えた歌』

ギターの前奏で躓き、咳払いをして、また初めから弾き始める。

『静かな夜に暗い部屋

ぽつりと本音が漏れていた

画面だけが白く光っていて

夜になると消えたくなる


天使の君はやってきて

そっと笑いかけたんだ

君は僕に言ったんだ

大丈夫っ、君のままで

君らしくって

優しく言うから

分からなくなって

でも助けられたのは確かで

笑った顔も泣いてる顔も

顔がボヤけてよく見えなくて

それでも君にたまらなく

そばにいて欲しくて

ごめんね

ありがとう、おやすみ』


うーん、推しが今日も尊いです。

何度聴いても、胸が締め付けられる。

どうしてこんな歌、歌えるんだろう。


栄養補給(アオの声)できたから他の課題に取り掛かる。


課題は終わったため、明日の予習をしようと英語の単語帳を取り出した。



視界の端でスマホが光り、画面を覗き込むと待ちわびていたアプリの通知だった。

21:16 "スピーキン アオ☆が配信を始めました"

「やった、アオくんの配信だっ」

美依は嬉しさのあまり喜びが声に出てしまった。少し恥ずかしくなり咳払いをする。


ちなみに美依は2年前に始めた時から今もなお、聞き専だ。聞き専というのは配信を一切していないということ。

「アオくんっ、アオ、アオくん!」

誰も聞いてないことをいいことに自作の歌を調子外れに歌いながら通知を確認した。




最愛にして最推し!


先月は春休みだから6時間も配信をしてくれた。春休みの影響で土曜日配信では訪問者が7683人で最後完走する時には同接が1053人だった。

リスナー1人からこの人数のにアオくんの魅力が知れた事は嬉しい事でやっぱり、どこか寂しさを感じる。


あ、古参ぶってすみません。心の中で謝罪して、ヘッドホンにBluetoothを接続して音量をあげた。


アイコンをタップするとカフェのような背景に吹き出しで、"みいこが入室しました"と表示された。


=====

リスナー:1 風船:0


『あ、みーちゃんだっ。おかえりなさい。いつもありがとう。今日は一番乗りだね!嬉しいな。ゆっくりして行ってね。』

明るい爽やかな声に頬が緩む。


今日も私は強火オタクのムーブをかます。


"みいこ:アオくんこんばんは!一番乗り!ヤッター!アオくんが心のオアシス(*´`)♡今日も配信してくれてありがとう!大好き!アオくんの配信待ちきれなくて、好きが溢れてプレイリストでフライングしちゃったヤツは私です。"


『みーちゃん。こんばんは。お、俺も。ありがとう。……うん、その、だ、…好きだよっ。…今日は学校だった?』


サービス精神旺盛だから躊躇なく喜ばせる言葉を言ってしまう。

"みいこ:学校だったよー"


"カナブンが入室しました"

"初見です。よろしくお願いします"

"カナブンが退室しました"


『うんうん。どう?慣れた?…楽しい?』


"はるひろが入室しました"

"はるひろ:歌ってみた聴いて来ました!"

"ミキが入室しました"

"ミキ:アーカイブ聞きました!いい声ですよね!"

"はるひろが退室しました"

"ミキか退室しました"


"みいこ:うーん人見知りすぎて辛たん…教室入るの緊張する。変に話し過ぎてウザがられたらと思うと上手く話せないよ…泣)


『うんうん。俺もこう見えて人見知りであがり症だから凄くわかるなぁ。毎日手汗がすごいよ。………みーちゃんと2人だけで話すの久しぶりですごく嬉しい。』


みいこ:アオくんが同じ学校だったらって妄想してる……。そしたら楽しいのに(._.`)

好きな本とか貸し合ったりするのかな。勉強会したりさ……。あ、でもアオくん好きすぎて後ろにベッタリくっついて歩いて迷惑かけるかもだから今のくらいがいいのかも…"


『………………。ごめっ考え事してて』


みいこ:はっ!ウザかった?(;゜Д゜)!


『あ、…ちがっ。実はスクショしてたんだ。ごめん、ごめん。はは』



"ゆずが入室しました"

"ゆず: こんばんは!初見です!いっつも気になっていたので嬉しいです!"

"ゆずが退室しました"


『俺はテンパって逆に喋り過ぎちゃう。それで後から変じゃなかったかなとか考えちゃう。みーちゃんと同じ学校だったらって、想像したら嬉しすぎて頭おかしくなりそう。まず、ずっと手繋いでてもいい?それから我慢できなくてぎゅーってしたり、なでなでしたくなっちゃうかも』

心臓が潰れた。

いや、待て私。彼はどんな言葉が私を喜ばせるか知ってる。落ち込んで自己肯定感が地に落ちている人を見つけると彼はその癖を発揮させるんだ。そうに違いない。


"たろが入室しました"

"たろ:昨日の配信良かったです。今日も歌枠ですか"

"ららが入室しました"

"らら:声、めっちゃいいですね!絶対高身長イケメン"

"たろが退室しました"

"ららが退室しました"


"みいこ:待って今日出入りすごいな笑"


『んー……今日はなんかすごいね。びっくりした。みーちゃん気にしなくていいからね。』

----

(あるSNSにて)


[エモい歌いっぱい歌ってていいなって思ってたアオが配信中!気になって配信入ったけどなんかサーバー弾かれたんだけど(泣

なんか電波悪い?]



[アみこの皆さんおつおつ〜今日の配信やばい笑]

[推しカプが今日も尊いい。ねえ、今いいとこなの〜。誰も邪魔しないで〜]

[公式からの供給、ありがとうございました]

[あいつら付き合ってないってマジ?]

---


『…今日はみーちゃんといっぱいお話したいんだぁ。歌とかゲームは今日はやらないでいいかなぁ』


"みいこ:サービス精神働かせないで〜。

アオくんが同じ学校だったら、安心だけど嬉しくて毎日心臓発作起こしそう。アオくんに迷惑かけれないから、みいこはしばらくボッチデイイデス。"


『みーちゃん…。こっちおいで、よしよししてあげる。ほら、隣おいで?みーちゃん、いつもお疲れ様。いい子いい子、みーちゃん、可愛い、ぎゅー。離れていても心はいつも一緒だよ…そう思うと俺も強くなれるよ。好き』

顔だけじゃなく体もブワッと熱くなる。最後のリップ音が耳の中に残る。

甘いイケボでサービスがすぎる。好きって最後小声で吐息みたいに言われて溶けて机に突っ伏した。

アオくんのおかげで明日も強く生きていけます。ありがとうございます。



アオくんこんなに明るく振舞っているけど、学校では1人読書とかしてるのかな…。



『あれ、みーちゃん?、みー?…いるー?もしもーし。…みーちゃん、俺キモくて引いた?』


"みいこ:アオくんの声に凍りついた身も心も発火して一旦全部蒸発して、粒子になって大気をさまよっていたんだけど、アオくんの呼び掛けに粒子になっていたのが結合して生成された(* ¨ *)

意味不明過ぎてごめん。


『なにそれ可愛い。照れて頭真っ白で返信できないの愛おしい。スマホの前でアワアワってなってるのかな。みーちゃん今、真っ赤になってるんだろうなぁ?可愛いすぎ』



ドクドクと跳ねる胸を押えて、震える指で風船のマークを押した。

風船のマークをポチッと押すと画面にフワフワと沢山の風船が上に飛んでいくエフェクトが流れる。


『みーちゃん風船ありがとう。俺のお姫様大好きだよ。みーちゃんの不安も風船と一緒にフワフワ飛んでいきますように。』


…はっ!?!?!?俺のお姫様大好き?!?!この前同接158人で一緒に決めた風コメは、『風船ありがとう君の風船青空に届いたよ』だったのに、勝手に変えただとっ…!?

風コメとは風船コメントの略称で、風船を貰ったら、ありがとうの他に、セリフみたいに話すことをテンプレート化したものだ。



"みいこ:アオくん…この前みんなで決めた風コメ気に入らなかった?(>_<)もちろん!今の風コメもキュンキュンしたんだけど!心臓のリズム崩れて気を失いかけたけど"


『ふふっ。ありがとう。今のは初めてからずっと応援してくれている大好きなみーちゃん専用の特別な風コメだよ。……そろそろ1曲歌おうかな。最近聞いていいなって思った曲があって、後で歌うね。ドラマの主題歌になった曲なんだけど、知ってるかな。あの日のって曲。リビングにギター置きっぱなしだからちょっと持ってくるね。』

"アオ☆がミュートにしました"


え?今なんて言った…?頭整理しないと。えーと、センヨウノトクベツナフウコメ…?


沈黙が流れる。


"ハルオが入室しました"


"ハルオ:アオ殿みいこ姫こんばんは\(^▽^)/"

"みいこ:ハルオさんこんばんは♪"

"ハルオ:姫、殿方はどちらへ?"

"みいこ:アオくんならギター取りに行きましたよ!"

"ハルオ:おー!今日は歌枠ですな('ω' )三( 'ω')"


"ミチルが入室しました"

"ミチル:こんちゃ!"

"みいこ:ミチルさんこんちゃ⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝今ギター取りに行ってます"

"ミチル:了解ですっ ( ̄^ ̄ゞ"


"いのうえが入室しました"

"さかなが入室しました"

"まるが入室しました"

"かなえが入室しました"

"はるとが入室しました"


"ハルオ:お、顔馴染みが揃いましたな"


"まる:まずはみーちゃんで充電をしてもらって見計らって入る。コレできないニキ、ネキは消えていくんじゃ。(物理的な強制退場)"


"かなえ:みーたんとイチャらないと煽りにイライラすることになるからね笑 まずは、ね?"


"はると:ていうか付き合ってるんでしょ?電話しろ笑アオ暗黙の了解に何十人を付き合わせるな笑"


"さかな:みーちゃん配信しないの?恥ずかしがり屋っていうのは知ってるけど、興味ある"


"はると:それな。みいこさん面白いから配信したら面白いと思う。気が向いたらでいいからね。例えば初めはファンだけに配信するとかどう?限定でとかできるから"


"まる:さかな、はると、待て待て。まずはアオ氏限定で配信をしては?それで慣らして、それから全体公開でやって、段階ごとにすることで、(アオ氏を)馴らせばいい。みーちゃんがもしも人気になった時にはオレたちが危ない…。みーちゃんが配信したら彼氏面するんだろうなー。誰がとは言わないけど。"


"かなえ:まあ、無理せずかな。みいこちゃんだって忙しいと思うし"


配信か。少し興味はある。

上手にできるか不安である。誰も来てくれなかったらどうしよう。シラケること言って失望されたらどうしよう。もしちょっとした言葉が誰かを無意識に傷つけてしまったらなんて恐怖もある。

配信に興味ありますと打って消し、勇気の無い自分にため息を吐く。


『どもども、皆さんおつです〜。なんか面白い話してた?』

考え事をしてたからアオくんの声で現実に戻される。


『えーと、コメント確認するね〜。なになに?あー、みーちゃんの連絡まだ持ってないんだよね。みんな我慢させてごめんね?みんな、気を使って頂きありがとうございます。これからもご配慮お願いします〜』


"かなえ:まあ、2人揃って推しではあるんだけど"


"ハルオ:かなえ殿ここでは言わないお約束"


"かなえ:あっ!(・×・)"


"はると:2年もイチャイチャして連絡持ってないとか白々しいなぁ"




『じゃあ、ここからは歌配信を1時間くらいして今日は終わろうと思います。よろしくお願いします。最近キーボードを買ったんですよ。曲作りとか興味あって、出来たら歌枠で歌えたらいいなって思いますね。』


"まる:続々と皆さん入ってきましたね"


"みいこ:やっといつもの枠って感じですね"


『ゆっくりしていってね。じゃあ1曲目はwithYou』

コンコンコンとギターのボディーを叩いた後に、ギターをかき鳴らす。ハミングの声好きだなぁ。

ギターのコードとかよく分からないけど、エモいなぁ。

『君の香りをまだ〜覚えている〜。oh......

それは、それはいつもの日常

退屈な授業中でした

いつもの交換ノートを回して

将来は保育士になりたいの、それか小学校の先生

子供が好きだから、子供と関わる仕事がしたい

それに僕はおちゃらけて、将来の子供の名前を決めよって書いたんだ

将来何になりたいんだ

まだ決まっちゃいないけど、どんな将来でいても君が隣いてくれたらいいな

子供は3人1人目の子はアオって名前がいいんだよ

君は3文字がいいなっていうから、どんな名前がいいか考えたよ

あおあ、あおい、あおう、あおえ、あおお、あおか、あおき、あおく、あおけ、

あーあ、ノート没収されちゃった

いつも君が隣にいて、何年後、何十年も、永遠の時間の中で

怒ったり、笑ったり、泣いて、また怒って、

でも、やっぱり、君には笑ってて欲しいな』


リスナー:502人 風船:109


軽くて、少し明るくて、口ずさめそうなメロディー。

クスって笑っちゃう歌詞なのに。

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

——それなのに、少しだけ苦しい。

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