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第三章 崩壊(16) 思わぬ・・・(4)

×  ×  ×  ×


 カナルはしゃにむに軍を進めた。ほとんどの軍をカウラー攻撃に出していたブラウニスにその侵攻を止める手立てはなかった。

 急使がカウラー攻めの軍に走った。が、急使が着くよりも早くカナルの軍はシャーロットの門に取り付いた。その時、街城内から火の手が上がった。火元はランダが目をつけた貧民街。それは大火となった。火を消せと走り回る人々や兵士の間を抜けて一団の男達が宮城に走った。その手には松明が握られていた。

 先に行く者が油を撒く、その後から松明を持った者達が火をつけていく。

 男達は遂に宮城に着いた。

 「殿、こちらです。」

 一人の男が火の中からブラウニス公を救おうとする。言われるままに公は先だって走る。

 御免・・救いに来たはずの男の剣が公の体を刺し貫いた。


×  ×  ×  ×


 ブラウニス公国との戦争は終わりを迎えた。凱旋軍の中には、カウラーと伴に国境の村を守り抜いたグリーの姿、そしてブラウニス公を刺し殺したピサーロという男の姿があった。

 新しく版図に加わったブラウニスには、枢機卿マサンがすぐさま送られ、独裁官としてそこを収めることとなった。

 カナルとカウラーは遠征軍(クルセイダー)の将軍でありながら枢機卿に取り立てられた。

 カナルの下につく新参者のピサーロ、カウラーの下につくグリーも一隊を預かる部将となった。そんな華々しい凱旋と、栄達を見やる後宮で・・・

 「セイラ様、ここ何ヶ月か綿花の使用が無いようですが。」

 メーレが心配そうにセイラに声を掛けた。

 セイラの初潮は十三歳、がその女性の証がここ三ヶ月ぴたりと止まっていた。

 「もしかして・・あれから・・・」

 「まさか・・そんな事ないわよ。」

 セイラはどうやて子供が出来るのかは知っていた。が、不安はありながらも、笑ってそれを否定した。

 「こっちに来て。」

 メーレはセイラの自室に彼女を引っ張って行き、その腹に耳を当てた。

 「こ・・・」

 メーレはそこで口を閉じた。

 枢密院の密偵はここ後宮の奥深くまで入り込んでいた。案の定、この二人の行動も枢密院に筒抜けになる。

 「困ったものだ・・兄の子を宿すなどと・・・」

 早速、枢密院の評議となった。

 「堕胎・・・」

 「勝手なことを言うな。下手するとセイラ様の命にも関わるぞ。」

 枢機卿の一人の声にボルスが声を大にした。

 「しかし・・・」

 「子供は神からの授かりもの、血が濃くなったと考えてはどうだ。

 新たな“光の子”が生まれる。と・・・」

 「が、未婚だぞ。民にどう説明する」

 「カミュは山で拾われたそうだ。

 聞く話しではティアの母は男を知らずに(みごも)ったという。

 セイラは未婚、男も知らぬ。にも係わらず(みごも)った・・・つまりその胎内の命は“光の子”・・・このまま様子を見ることだ。」

 「セイラ様が堕胎に同意したら・・」

 「その時は、その時で考えれば済むこと。今、我等がどうこう言うことではない。」

 ボルスはそう言って強引に話を纏めようとしたが、議場は纏まりを見せようとしなかった。

 「もう一つ相談があるんだが・・」

 そんな中ヨゼフが珍しく弱い声を上げた。

 「マサンだけでは治まらないらしい。」

 何処が・・と枢機卿達が一斉にヨゼフを見た。

 「ブラウニスだ・・まだ数多くの残兵がシャーロットの近くにいるらしい。

 マサンは武力を求めている。」

 派兵か・・皆がそう思ったが、なぜヨゼフの声が弱いのか・・・

 「我が息子、カウラーが危険を顧みず行きたがっている・・単身でだ。」

 またあれか・・枢機卿の一人がひそと私語する。

 「まぁ当然だろうな・・戦地になる所に身重の妻を連れて行くわけにもいくまい。」

 ボルスがニヤリと笑った。

 身重・・あの男色家に子が・・議場は私語に包まれた。

 「いいじゃないか。本人がその気なら・・・ところで先程のセイラ様の話だが・・・」

 ボルスはヨゼフの眼を見ながらわざとのようにセイラの話しを蒸し返した。

 「私は、ボルス卿に賛成する・・今はそれしか手はないだろう。

 一度セイラ様の胸の内を叩いてみるとしてもだ。」

 「兄の子だと伝えるつもりか。」

 「いや・・無頼の・・と・・・」

 セイラの妊娠の件は先ずヨゼフが折れた。

 「では決まりだな。」

 ボルスがそこにたたみ掛ける

 「カウラーの件も・・皆様宜しいですかな。」

 ボルスの声が枢機卿達を押さえ込んだ。


 誰の子やら・・とカウラーの子に対する疑念の噂が枢機卿達の中で拡がった。

 カウラーはこの三月(みつき)戦陣にあり、しかも男色家、となれば・・誰もがカウラーの妻ソフィアと伴に住むヨゼフを怪しんだ。

 ランダが連れてきた女ソフィア、触れ込みは南国の貴族の娘とあったが、実はランダがどこぞで買い込んできた女。元々は娼婦にする為に色んな性技を教え込まれていた。それにヨゼフがはまった。

 そして・・・・

 噂が渦巻く中ヨゼフは尖塔の頂上、七賢者の間に居た。

 額ずくその前にはペルセポーネとデメテルが立っていた。

 「何か・・」

 二人が声を揃えた。

 ヨゼフが呼び出した理由(わけ)を話すと、

 「セイラにはこの薬を飲ませなさい。」

 先ずペルセポーネが瓶に入った水薬を差し出した。

 「貴男の・・いいえカウラーの子の事は私に任せなさい。」

 最後にデメテルが続けた。


×  ×  ×  ×


 「あの薬は・・」

 ルヒュテルが訊ねる。

 「子宮の強烈な収縮を促し、それによって中の命を滅します。」

 「それでは“光の子”が・・」

 今度はダナエ。

 「大丈夫です“光の子”は生まれます。」

 デメテルの声に、

 「どう言うことだ・・・」

 ラダが異を唱える。

 「“新しい神”・・いよいよ始動します。」

 「出来たのか。」

 そう言うラグラの声にペルセポーネとデメテルが頷く。

 「であれば・・・」

 デルポイが皆を見渡した。


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