第二章 黒い影(31) 没落(3)
して貴男の手元に置きなさい。」
トリグラフの声にロブロは頷いた。
ジュリアは徐々に集まってきた女達と伴に兵士や人夫達の食事を今日も作っていた。その表情は活き活きとし、輝くように明るかった。村は活気に溢れ、人々は喜々として働いた。が、ここにも魔物は現れた。炊事をする女の後に両手にそれぞれ三本の長い鉤爪をつけた悪魔が忍び寄っていた。ふとそれにジュリアが気付いた。悲鳴を上げながらジュリアが腕を振った。その手の先から無数の小さな鎌鼬が飛びその魔物をずたずたに斬り裂いた。悲鳴を聞きつけたロブロ達が駆けつけた時には魔物は黒い塵と変わり、風に流れていた。
「魔術を使えるか。」
トリグラフが馬上からジュリアを見た。
「初めて・・みんなを護りたいと思いながら夢中で腕を振ったら・・・」
ジュリアはそれに消え入りそうな声で答えた。
「ユング様の・・」
「彼もこの力を持っていたのですか・・ならば高めるべきです。」
その日からトリグラフはジュリアを預かった。
ロブロの予想通りルーリッヒ達の行動はバルバロッサとさほど変わるものではなかった。さすがにロブロの村に牙を剥くことはなかったが、辺りの集落を襲って掠め取り、拐かした。その中からぼちぼちとロブロの村に帰ってくる者達もいた。ロブロはその者達を村の外壁の守りに使い。自身は山を下り刻々と流れの変わる川の湿地帯調査にあたった。
今まで通ってきた所があっと言う間に水に被われる。九死に一生を得る場面もたびたびあった。
村に帰ったロブロはトリグラフ達を集めた。
「無理だ・・乾いていた所が突然水浸しになる。あの力には勝てない。」
「勝てない・・ではない。勝つ方法は。」
「乾期の間に先ず上流をせき止め、その間に三角州の比較的高い丘の周りを石で固める。
それには人が要ります。その人を雇うには金が・・・」
「これが何だか解るか。」
トリグラフは自分の掌に載せた輝くものをロブロに見せた。
「金・・・何処からそれを。」
「北東の山を流れる小川だ。砂金が出た。」
「それを使えば・・・」
ロブロの目が希望に輝いた。
ロブロは人員を連れ、川の下流に移動した。
デンダールと名付けられた川の上流に堰が造られた。
徐々に川が干上がりそれを待たずに丘を補強する工事が始められた。集められた人夫は数千に及びロブロの村は賑わいを見せた。それを狙うのはバルバロッサ。オービタス山地を下り、干上がった川を越えた。そこにはルーリッヒの村があった。激戦になるかと見えたがルーリッヒ達はすぐに逃げ出し、山裾の村に逃げ帰ってきた。廻りの反対を押し切りロブロはそれを受け入れるよう指示を出した。
押し寄せてくるバルバロッサの数は二千近く、何処からどう集まってくるのかそれが徐々に増えてくる。
「戦いは我等がする。」
その数にも係わらずトリグラフはロブロを見て笑い、その隣りに立つアグウィも同じ様に笑っていた。
「貴男は町の建設に全力を注ぎなさい。」
言葉を残し二人は川の上流に向かった。
トリグラフとアグウィの用兵の妙もあって村は護れていたが、バルバロッサを撃破するには到らなかった。
戦いが続く中バルバロッサの側面が乱れた。それはロブロの村の危急を聞きつけたハルーンの軍がバルバロッサの横合いを衝いた為だった。
「ハルーン総統の命により暫く駐屯します。」
その軍を率いてきた将はトリグラフに力強く言った。
町の建設は順調に進み、川の水を流す時が来た。果たして町の石壁はこの水の勢いに耐えられるのか・・・
少しずつ流された水に徐々に川の嵩が上がる。
堰が切れた・・繋ぎ狼煙がそれを伝えてくる。その後から濁流が・・・
三重に築いていた石壁の一つがあっと言う間に濁流に呑まれ、二つ目の石壁に壊れた石がゴツンゴツンと当たった。その衝撃に耐えきれず二つ目の石壁も壊れた。そして三つ目、この壁も大波が越え始めた。
これが壊れたら・・ロブロは祈るような気持ちでその光景を見ていた。
徐々に洪水が収まり、水が平穏な状況に戻っていく。
「やったー」
誰からともなく歓声が上がった。
「喜ぶのはまだ早い。水が引いたら残った基礎に流された石を積み重ねるぞ。」
ロブロは目を輝かせながら次の命令を発した。
悪戦苦闘を続けながら三つの集落が出来上がり、それが石橋で繋がった。




