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◇◇
食堂を出たクロードは、廊下を風のように駆け抜けていった。
途中、シャルロットの部屋に入り、必要なものを手に入れる。
部屋を出ていく際に、奥の寝室へ続くドアが開いているのに気づいた。
自然と彼女のベッドが目に入る。
いわゆるキングサイズってやつだ。一人で使っている割にはかなりでかい。
天蓋からはシルクのカーテンが垂れ下がり、豪勢な装飾が施されている。それに最高級のシーツと布団が使われているのは言うまでもない。
(あんなベッドで寝られたら、最高なんだけどな……)
思わず見とれてしまいそうになったが、そんな自分をいさめた。
(いかん、いかん。今は任務に集中するんだ)
彼が次に向かったのは台所だ。
そこでつまみ食いにいそしんでいたメアリーを見つけて声をかけた。
「なあ、例のものをロビーまで持ってきてくれ」
「ぬぐっ? う、うん。分かったわ!」
トンと胸を叩いた彼女に、「ありがとう」と微笑みかけて台所を出る。
残り7分。
まだ準備は始まったばかり。
これからは時間との戦いだ――。
◇◇
「リゼット。残り時間はどれくらいかしら?」
「あと5分です」
「ふふ、そう。楽しみね」
館を出た先の中庭でクロードを待つ。
既に私をマルネーヌの館まで送る馬車と、その馬車を門まで見送る侍女たちが控えている。
外は残暑が厳しく、雲一つない青空には白い太陽がギラギラと輝いている。
でも暑さなんてまったく感じない。
クロードが音を上げる時が刻一刻と近づいてきていることに、ドキドキが止まらないからだ。
でも、ちょっとだけワクワクしている自分が心の片隅にいる。
もしかしたらクロードならやってくれるかもしれない――そんな期待をしているのだ。
なぜ?
私はただあいつをクビにして、何にも惑わされずに好き勝手生きたいだけなのに。
「あとどれくらい?」
気を紛らわせようと大声でリゼットに問いかける。
ついさっき確認したばかりだからか、彼女は珍しく戸惑いをあらわにする。
「え? あ、はいあと4分です」
やっぱりダメだ。
むしろ刻限が近づくたびにワクワクが増していく。
いったいなんでなの?