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◇◇


 悪魔騒動から早くも10日がたった。

 宮殿はあちこち穴やひびだらけだし、アッサム王国はあちこちで大騒ぎになったままなのは変わりない。

 そりゃそうよね。なんと国王が悪魔で、その悪魔を討ったのが実の娘だったんだもの……。


 それでも少しずつ、ほんの少しずつだけど平静を取り戻そうと、みんな努力をしている。

 私も宮殿に残ったまま、メアリーたち侍女も呼び寄せて部屋の片づけなどを手伝っていた。


 ちなみにクロードとは……実はあの日以降顔を合わせていない。というよりアンナとともに彼は姿を消してしまったのだ。

 やっぱりグリフィン帝国の大切な皇子を傷つけたのは良くなかったのかもしれない。

 誰に何を聞いても答えてくれないし、今はいなくなった人のことを考えている場合じゃないのも分かってるつもり。

 けど彼のことを頭から消すなんて私には無理。

 ソフィア慈愛教会の焼け跡から見つかった女神イシス像を部屋に飾って、毎晩お祈りしているの。


 ――明日は会えますように。


 って。

 らしくないのは知ってるわ。でもこれくらいしかできることはないもの。



 そんな中、この日、王国の新たな一歩を踏み出す時を迎えた。

 ジョーが新しい国王になったのだ。

 お昼前に戴冠式が執り行われ、私も列席した。

 ローズお母さまはあの日以来、ずっと憔悴してたけど、今日はずいぶんと顔色がいいみたい。

 以前までのトゲのある感じはなく、息子の晴れ姿を純粋に喜ぶ母がそこにあった。


「ジョー陛下! おめでとうございます!!」


 戴冠式後は、王都で暮らす人々へのお披露目だ。


 紙吹雪が舞う。

 大歓声が嵐のように巻き起こる。


 ジョーはローズお母さまとともに屋根のない馬車に乗って、笑顔で手を振っている。

 民衆たちもまた笑顔だ。

 

 秋の柔らかな日差しが王都に降り注いでいる。


 ああ、今日はなんて素晴らしい日なのかしら――!


◇◇


 その日の夜。

 修繕が終わったばかりの大広間で晩さん会がおこなわれようとしていた。

 もちろん主役はジョーだ。

 これまで国王就任の準備に忙しくしていたジョーは、晩さん会がはじまる寸前でようやく一息つく暇ができたみたい。

 ジョー専用の控室になっている部屋に顔を出すと、疲れた顔でソファに腰かけるジョーがいた。

 

「お兄さま。リンゴのスパークリングジュースを持ってきたわ」

「シャルロット!」


 ジョーの顔がぱあっと明るくなる。

 10日前までは病気で寝込んでいたと思えないくらいに血色がいい。

 病気といっても悪魔の呪いだっただけだから、呪いが解ければ何の問題もないってことね。

 ジョーは幼い頃からリンゴが好きだったわ。今もすごく美味しそうにコップに口をつけている。


「色々と大変だったでしょう?」

「うん、そうだね。父上のこともあったし……」


 ジョーは口元に乾いた笑みを浮かべたまま、少しだけ暗い顔をした。

 私は「そうね」とだけ答えて、彼の背中をさする。

 するとジョーはすぐに元通りの明るい表情に戻した。


「でも僕は平気だよ! それよりもシャルロットの方が大変なんじゃない?」

「ん? どういう意味?」


 眉をひそめた私にジョーも不思議そうな顔をした。


「だって宮殿から出るんでしょ?」

「は? そんな話聞いてないわよ?」


 どういうこと?

 もう私は悪魔じゃないんだから、ここを追い出される理由はないのに。

 

「だってグリフィン帝国の皇子と結婚してアッサム王国を出ることになっている、って聞いたよ。母上から」

「ふふ。その話はもうなくなったわ。だって……」


 フェリックスとは酷い別れ方をしたのだもの――そう言いかけて口をつぐんだ。

 余計なことを知られたらジョーを心配させるだけだもの。


 けどその時……。



「あら? あなたの結婚の話は流れていないわよ」



 ローズお母さまの声が胸に突き刺さった。


「えっ?」


 あまりの衝撃でとっさに反論すらできない。

 そんな私をよそにローズお母さまはさらに衝撃的なことを告げたのだった。



「今夜の晩さん会にはグリフィン帝国の皇帝、ハイドリヒ様も出席される。そこであらためてシャルロットの結婚を発表することにしたのよ」



 そんな……。


 ガツンと脳天を揺らされたような気分だ。

 私は目の前が真っ暗になっていくのを感じた……。

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