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エルドランお父さまが悪魔に心を奪われてしまったのは、ローズお母さまを幸せにするためだったらしい。
王妃争いに敗れた女性たちの悲惨な顛末をよく知っていたからこそ、お父さまは悩み苦しんだ。
そして悪魔に魂を売る代わりに、ローズお母さまのお腹に小さな命を宿してもらったの。
それがジョーだった。
ソフィアお母さまとローズお母さまを同時に愛してしまった自分が悪かったのだと、ローズお母さまと二人きりになった夜に何度も泣いて謝っていたそうだ。
でも悲劇はすぐに始まってしまった……。
エルドランお父さまの中に潜む悪魔は徐々に顔を出し始めて、ついにソフィアお母さまを手にかけた。
病気で死んだって聞かされていたけど、違っていたみたい。
そして私の中に眠る『女神イシスの力』に気づいた悪魔は自分の手で私を始末しようとしたけど、ローズお母さまが許さなかった。
つまり私を結界を張った部屋に閉じ込めることで、お父さまから遠ざけていたそうだ。
でもそれにも限界はある。お父さまの中で悪魔の力が増したことで結界がいつ破られてもおかしくなくなってしまった。
そこで無双の剣士であるリゼットを護衛として付き添わせ、私を宮殿から追い出した。
いつ使用人として刺客が送り込まれるか分からなかったから、誰とも仲良くさせなかった。
けど状況は一変した。
なんと悪魔はジョーに呪いをかけたのだ。
『もしおまえがこれ以上シャルロットをかばうようなら、息子の命はない。即刻始末しろ』と……。
ローズお母さまはとても苦しんだそうよ。
でも息子を愛する心には勝てなかった。
だから私の命を執拗に狙いはじめた。
でもそこに今度はクロードがあらわれ、私を守ったのは大きな誤算だったようね。
そんな中、グリフィン帝国の皇太子フェリックスがやってきて、私を王都から遠く離れた場所に連れていくという。
しかも悪魔はフェリックスの魂胆を鋭く見抜いていた。
私が宮殿を去ったことでジョーの呪いは解かれた。
そして悪魔は計ったようにお父さまの体を乗っ取った。
悪魔の誤算はクロードがしつこかったこと。
彼の目当てだったジョーは、命からがら宮殿から逃げ延びることに成功した。
ならばせめてローズお母さまの命を――そう考えるのは当然の成り行きね。
ローズお母さまもずっと自分を責めていたし、エルドランお父さまのことを少なからず恨んでいたから、悪魔に殺されるのは本望だと覚悟を決めていた。
でもそこにあろうことか私が戻ってきた。
そうして今、リゼット、アンナ、エイダンの力を借りて、私は悪魔の息の根を止めたのである――。
悪魔から元の人間の姿に戻ったお父さまの亡骸を見て、ローズお母さまが
「ごめんなさい。ごめんなさい」
と号泣しながら何度もつぶやいていたのが、とても印象的だったわ。
でも私はいつまでもローズお母さまに付き添い続けるつもりはなかった。
リゼットとエイダンを教会跡地へ向かわせた後、アンナとともに中庭に急いだ。
「クロード!!」
静まり返った宮殿に私の声が響き渡る。
でも何度叫んでも返事は返ってこなかった。
そうして中庭を臨むバルコニーに出た瞬間に、私の息は止まった。
そこには眠っているかのように穏やかな顔で仰向けに倒れたクロードの姿があった。




