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◇◇


 ――フェリックス殿下にはあなたの秘密をちゃんと伝えてあります。殿下からは『帝国の抱えている内乱が収まるなら、シャルロットの命が短くてもかまわない』と言われているわ。ふふ。よかったわね。あなた昔からウエディングドレスを着るのが夢だったでしょう? その夢をかなえた翌日にあなたは『急死』することになったの。だから喜びなさい。


 帝都で結婚式をおこなうため、私はダンスパーティーから3日後に宮殿を出ることになった。

 お供はリゼットだけ。

 つまり私をクロードの手の届かないところに引き離してから、確実に処刑する――ということだ。

 さすがはローズお母さま。敵国の手だとろうと関係なく使えるものは使うのね。

 

 ちなみにメアリーたち侍女は私が宮殿を出る時に見送ることを許されるらしい。

 でもクロードは……。


 ――ふふ。あなたの騎士は私のそばに置いておくことにします。


 けっきょく私はクロードと顔を合わせることがないまま、ダンスパーティーの時間を迎えた。

 どんな理由があるにせよ、クロードが私とフェリックスの結婚のことを良く思っていないのは事実だと思う。

 あんなに怖い顔見たことないし、それに私の方を見ようともしなかったから。


「はぁ……」


 私はなんて無力なんだろう……。

 もしあの場で即座に「嫌です!」って反対していたら、きっとクロードがあんな態度をとることはなかったに決まってる。

 でも私は本心を言う勇気がなかった。

 そんな自分が本当に嫌になる。


 ――あ、それからダンスパートナーにはフェリックス殿下を指名しなさい。前夜祭に参加していない人々にとってはサプライズな婚約発表になるはずよ。分かったわね?


 そう言いつけたローズお母さまのことだ。今夜のダンスパーティーにクロードの出席を許すはずがない。

 となると彼とはもう二度と言葉を交わせないのね……。


「シャルロット様。お時間です」


 ローズお母さまの侍女から化粧を施してもらったところで、部屋に迎えがやってきた。

 リゼットだ。よく平気な顔して私の前にこられたものだ。

 椅子に座ったまま彼女を睨みつける。リゼットは困ったように眉をひそめた。

 

「これも私の任務ですから……」

「ふん、そんなこと分かってるわよ」


 声を荒げたのは彼女の態度にいら立ったわけじゃない。

 自分自身に対してだ。

 どんな運命も受け入れることしかできない自分が情けなくて、憎たらしい。


「さあ、行きましょう。もう皆さまお揃いです」

 

 リゼットに促され、重い腰を上げる。

 でもドアの横に立てかけてあった鏡に映った自分の姿が目に入ったとたん、足が動かなくなってしまった。


 薄いピンク色をしたドレスと目元と唇を強調したパーティー向きのメイクが私を明るい印象に仕立てている。

 ダンスパーティーのヒロインにふさわしい格好だ。

 でもいったい私は誰のために着飾っているのだろう……。


 婚約者のフェリックスのため?

 エルドランお父さまのため?

 それともローズお母さまのため?


 ううん、違う。私はクロードに見てほしい――。


「……クロードはいるの?」

 

 消え入るような私の声。

 リゼットはニコリと笑顔を作った。


「はい。マルネーヌ様とアレックス卿が王妃様に掛け合っていたのを耳にしました」

「そうなのね……」


 興味なさげな声を出したけど、本当はすごく嬉しい。

 マルネーヌたちには感謝してもしきれないくらいだ。


「シャルロット様。クロードにお別れを言うなら今日しかありません」

「そんなこと……分かってるわよ」


 さっきと同じセリフが口をついて出てくる。

 でも不思議と卑屈な気持ちは微塵もない。


 これが本当にラストチャンスだ。


 私は力強く足を踏み出した。

 大広間に姿を見せると、大歓声が私を包む。


 この様子だと私がフェリックスと結婚することを全員が知ってるわね。

 ふん。サプライズもなにもないじゃない。


「シャルロット。今宵のダンスパートナーを指名してちょうだい」


 人々がごった返す中、中央だけはポカリと空間が空いている。

 そこにはローズお母さまとフェリックスが並んで立っていた。

 私が彼らの前で足を止めると、フェリックスが気取った態度で一礼する。

 その様子をローズお母さまは満足そうに見つめていた。

 私はフェリックスに向けて口を開いた。


「殿下。お伝えしたいことがありますの」


 まだ何も言う前に私へ手を差し伸べるフェリックス。

 私がダンスパートナーに指名した直後から踊り出すつもりなのだろう。

 そんな彼に対し、私ははっきりした口調で告げた。



「私、好き勝手生きると決めたの!」



 ローズお母さまとフェリックスが同時に目を大きく見開く中、私は彼らの横を大股で通り過ぎていった。


「シャルロット! 待ちなさい!!」


 ローズお母さまの甲高い声が背中に聞こえる。

 でも私はこれ以上、自分のことを嫌いになりたくない。

 だから最後の最後くらい、どんなに怖くても、自分の気持ちに従って勇気を振り絞りたいの。

 そして……。


「ねえ、私のダンスパートナーになってくれないかしら?」


 私が右手を差し出した相手は……。


 クロードだった――。



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