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◇◇


 館の外に出たのはいいものの、果たしてこれからどうすればいいのか……。

 アンナが何者かは知らないけど、リゼット相手に長く戦えるとは思えない。

 だからどこへ逃げようとも追いつかれてしまうのは必至だ。


「ねえ、どうしたらいいと思う?」とメアリーに問いかけてみたが、彼女もまた困っているみたい。顔をしかめて首をかしげている。


「どうしましょう……。とりあえず食べ物がしっかり確保できるところにお連れしないと……」

「まあ、メアリーったらこんな時まで食べることしか頭にないんだから」

「そういうサンドラは何か思いついたの?」

「いっそのこと王妃様のいる宮殿に乗り込みにいくとかどうです? 王妃様は昼間からパーティーばっかりやってるって噂ですし、こっそり参加できるかもしれないわ」

「そんなことしたらすぐに捕まって監獄塔行きよ! あそこの牢獄は一度入ったら二度と出られないって有名でしょ。何をやっても壊れない鉄格子と分厚い石の壁でできた部屋なんだから!」


 メアリーとサンドラが不毛なやり取りをしているのを横で聞いていたベスがポンと手を叩いた。


「そうだ! いっそのことシャルロット様を牢獄に入れてしまってはいかがでしょう!?」


 みなの視線が一斉にベスへ集まる。

 彼女は居心地が悪そうに小声で続けた。


「いや……あの……そんなに牢獄が頑丈なら中に入ってカギを閉めていれば安全かなって……」


 考えもしなかったわ……。ナイスアイデアじゃない!

 私はベスの手を取って、声を弾ませた。


「すごいわ、ベス! それで決まりね!!」


 早速私は自分で鍵を持って地下牢にこもった。

 メアリーたちは中庭で待機していて、クロードの帰りを待つことになっている。


 しばらく時間がたった。

 はじめのうちは興奮していたから何も感じなかったけど、落ち着くと色々な感覚が戻ってきた。

 ジメジメして暗い。石の床はゴツゴツしてる。それからちょっと臭い。

 でもそんなことよりも不安で胸が締め付けられているのが苦しい。

 おしゃべり好きのサンドラが一緒に牢に入ってくれていなかったら、私一人じゃ耐えきれなかったと思う。

 

「大丈夫ですよ! シャルロット様! すぐにクロードさんが帰ってきてくれますから!」


 サンドラがニコニコしながらそう励ましてきた。

 クロードの名前が出たとたんに視線が下に落ちる。


 クロードの帰りが遅い……。

 もしかしたらローズお母さまに取り込まれてしまったのかもしれない……。

 だってあのローズお母さまだもの。

 破格の報酬をエサにしてクロードを私から引き離すに決まってるわ!

 クロードがいなくなったら私……。


 ……って、そんな弱気を口に出して言えるはずもなく、私はふいっと顔をそらした。


「ふんっ。肝心な時にいないなんて、騎士失格ね! 帰ったらしっかり反省してもらわなくちゃ!」

「ふふふ。そうですね。クロードさんにはちゃんと反省してもらって、シャルロット様のことをぎゅーって抱きしめてもらいましょう」

「その通りよ! 私のことをぎゅーって……ちょ、ちょっと! サンドラ! 何を言わせるのよ!」

「ムフフ。いいじゃないですかぁ。ちょっとくらいぎゅーってしもらえば」

「も、もうっ! 主人をからかうのはやめなさい!」


 頬が真っ赤になってるに違いない。

 急いでサンドラに背を向けた。すると彼女の柔らかな声が聞こえてきたのだった。


「クロードさんは絶対に戻ってきますよ」

「えっ?」


 まるで私の胸の内を見透かしたかのようだ。

 思わず振り返ってサンドラを見つめる。

 彼女は屈託のない笑顔で続けた。


「昔おばあちゃんが言ってました。『雨が降れば虹が出るものよ。だから悪いことがあっても下を向いてる暇はないわ』って。シャルロット様の場合は大雨ですから、絶対に大きくて綺麗な虹がかかるはずです。じゃないと不公平ですもの。クロードさんは絶対にシャルロット様のところへ帰ってきてます」


 雨が降れば虹が出る、か……。

 冷たくなりかけた心が温もり包まれる。

 でもこんな時に憎たらしいことが口をついて出てきてしまうのが私の悪い癖だ。


「ふんっ。ずっと雨が降りっぱなしだったらどうするのよ」

「ふふ。それなら私たちみんなで『傘』になります」

「傘?」


 首を傾げた私の手をサンドラが優しく握った。


「絶対にお一人にはしません。たとえシャルロット様の身に何が起ころうともです。だからご安心ください」


 何よ。つい最近まで私のことを『悪魔の化身だ』とか陰口叩いていたくせに。


 ……泣かせないでよ。今の私は弱ってるんだから……。


 私は必死に涙をこらえて小声でつぶやいた。


「ありがと」

「ふふ。どういたしまして。あっ、メアリーがきましたよ!」


 はっとなって顔を上げた私は鉄格子のそばに寄る。

 息を切らしてやってきたメアリー。その顔は明るい。


 もしかして――!


「クロードが帰ってきましたぁぁ!!」


 やったぁぁ!!

 ひとりでに顔がにやけちゃったのは仕方ないわよね!


 急いで髪を手でとかし、服を整える。

 さあ、いつでも来ていいわよ!

 そしたらぎゅーってしてくれてもいいんだから!


 ……………ん?

 いつまでたっても姿をあらわさないじゃない。


「ちょっと寄るところがあるから、メアリーとお菓子でも食べながらのんびり待っててくれ……と伝言を預かっております」


 はっ?


「これ、ローズ様からいただいたそうです。一枚だけ『毒味』させていただきましたが、とっても濃厚で美味しかったです!」


 メアリーが律義にクッキーを差し出してきた。

 そうそう。これはローズお母さまのお気に入りのバタークッキーで、北部で数頭しか飼われていないアーリー牛の貴重なミルクをふんだんに使って――。



「って、そんなのどうでもいいわ!! いったいどうなってるのよ!!」



 

 

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