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◇◇
海からの帰り道――。
気絶したリゼットをかつぎながら歩くクロード。私、シャルロットはその横に並ぶ。
二人の影が大きく伸びている。その影を見ながら、私は顔を上げられないでいた。
――シャルロット様に悪魔の呪いをかけてくださったのよ。
――悪魔の呪い……だと?
――ふふ。成人するまでに悪魔に姿を変えてしまう呪いなの。その悪魔を討つ役目が私、リゼットに命じられているのよ。
クロードに私の呪いのことが知られてしまった……。
驚いた声をあげていたもの。きっと失望させてしまったと思う。
執事を辞めたいと言われるのが怖くて、声をかけることができない。
けど、どうやらクロードも同じ気持ちだったみたい。ちらりと横を見ると、彼も気まずそうに顔をそむけている。
――あなたグリフィン帝国の暗殺者なんでしょ?
まさかクロードが敵国の暗殺者だったとはね……。
館の門が遠くに見えたところで、ようやくクロードが重い口を開いた。
「やはり俺はクビか?」
すとんと肩の力が抜ける。
クロードの方から辞めたいと言われなくて、心からほっとしている自分がおかしくて、思わず笑いがこみあげてきた。
「あはは」
「何がおかしいんだ?」
だってつい先日まであれほどクビにしたがっていたのに、今はクロードが辞める気がなさそうなことが心から嬉しいんだもの。
まるで昼夜が逆転したかのよう。
でもそんな自分の気持ちをさとられたくなくて、私はいつもの口調で返した。
「あなたは私の命令通り、ヨダレアナゴを獲ってきた」
「ああ」
「しかも私の命の危機を救ったわよね」
「まあ、そうだな」
「だったらあなたをクビにする理由がどこにあると言うの?」
「いや、しかし俺は……」
私はクロードの言葉をさえぎるように、彼の口元に手をかざした。
「クロードは私の執事。それ以上でもそれ以下でもないわ。それに私の呪いのことを知っているのは、リゼットとドギーを除けば、ごく一部の王族と貴族くらいなの。もしあなたをクビにして王宮の外に出せば、あなたの口から呪いのことが漏れるかもしれない。そんなこと許せるはずないでしょ」
「そうか……」
「だから……その……私の秘密を知ったからには、さ、最後までずっとそばにいなさいよね!」
最後のセリフはクロードの顔を見て言うことができなかった。
「ああ、分かったよ」
クロードの声色がすごく優しいのは気のせいかしら?
いつの間にか門がすぐ目の前まで迫っている。
心配そうに迎えに来たメアリーたちが中庭に見えてきた。
「互いの秘密は誰にも漏らさないこと。いいわね?」
「もちろんだ」
「じゃあ、この話はもうおしまい」
二人だけの秘密かぁ。うふふ。ちょっと変だけど、なんだか嬉しい。
私は軽い足取りで侍女たちの待つ中庭へと進んでいったのだった。




