プライベートな食事会
とりあえず、難しい政治の話は終わったらしく、俺は解放される……らしい。
ひとまず、陛下たちはさっさと殿下の部屋から出ていき、諜報官たちも王女殿下に挨拶した後正面の扉からきちんと出ていった。
俺も、解放されるらしいが、俺一人でこの部屋から外には出れない。
迷子になる自信はあるし、そもそも王宮のこの奥まった場所に俺が一人でいたら完全に不審者だ。
すぐに王宮警備たちによってすぐにつかまる。
なので、俺は王女殿下の次の指示を待っていた。
すると奥の扉からマーガレットさんがやってきて俺を案内してくれるが、さすがに俺でもぼけてはいない。
ここまで来た時と真逆に案内されている。
そう、俺は王宮奥に軟禁される。
案内先の部屋には先に軟禁……訂正、案内されている帝国からのお客様が居間で何やら話し込んでいた。
「すみません。
私もここで……」
「あ、司令。
お疲れ様です」
「終わりましたか」
「ええ、明日もしくは明後日にはコクーンに戻れそうです。
尤もここからお客様をご案内しながらになりますが」
「それは、致し方ありませんね」
「ことがことですし、何分帝国でも初めてのケースになりますので、覚悟はしておりましたから」
二人は、俺の返事にかなり俺に対して同情的に返してくれた。
お互い宮遣いだということを十分に理解してのシンパシーなのかもしれない。
俺もこの部屋付きの執事の方からお茶をご馳走になり、帝国のお客様と世間話を始めた。
すると部屋の扉がノックされて、執事の方が王女殿下を中に案内してきた。
「大変お待たせしました。
ささやかですが、食事をご一緒したく」
王女殿下にそう言われて俺らは、すぐそばのダイニングルームに案内されて、席に着く。
うん、正面の一番高貴な方のための席が二つ空いている。
これって、絶対に……やっぱり来たよ。
陛下が、それも宰相を伴ってだと。
もう、公式晩餐会ではないのかよ。
王女殿下はこれでもあくまでプライベートな食事会で、ご自身がホステス役として、わざわざここまで来てくれた帝国のお役人の労をねぎらうと言い張る。
「すみません。
父がどうしてもご一緒したいといいますので」
そう、王女殿下は、ここでは陛下をあくまで自分の父親だと言い張るのだ。
確かに間違ってはいないけど、それって詐欺のような言い分だよ。
そう、『消防署の方から来ました」っていうあの詐欺めいた表現でこの場を仕切る。
それを指摘できるはずは誰にもなく、食事会はそれなりに穏やかに会話などしながら進んでいった。
「司令、ですがこれで司令の懸念したような大騒乱の危険性は……」
「ええ、全く無くはないでしょうが、少なくとも兵力の空白が生まれておりませんので、バランスが急激に崩れてはいませんね」
「ええ。それは帝国皇帝陛下も望んでいたことですから、とりあえずあの時の約束は果たせたのかと」
「ナオ司令……帝国皇帝陛下とのお約束って何ですの?」
俺と帝国役人との会話に王女殿下が珍しく口をはさんできた。
「あれ、あの時にいましたよね。
帝国の皇帝陛下と面会した際に、大騒乱につながるような戦力バランスを崩すことのないようにというあれですが」
「ああ、あれってお約束でしたっけ」
王女殿下も納得したようだが、俺たちの会話を聞いていた陛下と宰相の顔色が急に変わった。
どう見ても、納得した王女殿下とは異なり、寝耳に水だったような表情をしている。
「マリー、どういうことだ」
「そうですよ、大騒乱って何のことを言ってますか?」
「あれ、お父様。
以前よりうちの司令からの懸念事項をお伝えしてませんでしたか」
「そんなこと聞いとらん!」
王女殿下は、外国からのお客様を前にして子供が親から怒られるような感じで怒られていた。
しかし殿下も、慣れているのか、しれっと涼し気な顔をしながら説明していく。
説明が進むにつれて、陛下と宰相の顔から血の気が引いていく。
俺がスープを飲みながらでも見て取れるくらいだから、そうとうショックを受けていたようだ。
まあ、そんなに今に始まったことでもないだろうに。
「マリーよ。
冗談で申しているのではないな」
「ええ、ですので今回ばかりは私も無茶だとは思いましたが帝国に協力を仰ぎました」
内容があまりにショッキングだったこともあり、宰相が思わず口を挟んできた。
「マリー王女殿下。
その予測ですが、……」
「ご安心ください。
国内では公的には知らせていなかったはずですが」
「国内……公的……」
「マリー、今の話では……」
陛下はいまだにショックからにけ出ていないようで、王女殿下への質問もとぎれとぎれとなっていた。
「はい、今回協力を帝国に仰ぐにあたり、そのあたりの認識を帝国のコクーン司令でもある王子殿下と、その王子殿下の紹介で帝国皇帝陛下ともにお話しさせていただきました」
「そ、それは、それは誠のことか」
すると、王女殿下と国王陛下との話し合いを静かに見守っていた帝国の法務官でもある事務課長が話に加わった。
「はい、そのあたりにつきましては何度もうちの司令とも話し合われておりました。
また、私は直接見聞きした訳ではありませんが、確かにコクーン内で陛下と面会されたのは公式に確認がされております。
国賓としてお迎えできなかったことは誠に遺憾ではありますが、最高のおもてなしはされていたはずです」
法務官の話に王女殿下もあの時の様子を報告してくる
「はい、帝国の、特にコクーンの皆様には大変よくしていただき、あの時皇帝陛下との面会の際にも何かと気を配っていただきました」
そこからあの時帝国の皇帝陛下との話についても報告が入った。
あの時に、アミン公国のコランダム王国からの諜報活動などについても詳細を知らされたくらいで、そのあたりについても併せて報告していた。
しかし、こんなプライベートな食事会で話してよい内容ではない。
ことは国家の一大事、いや、このあたりの宇宙の安全に関することになるまでの重大事だ。
「マリー、前からわしは言っていたな。
なぜ、きちんと報告してこない」
「いえ、お父様。
私は今まで何度もこの国の危機について公私に渡り苦言を申してきましたし、書面でも報告書を上げておりますわ」
確かにそのようなのだ。
その今までの成果が、王女殿下が作った我々広域刑事警察機構という組織に繋がったのだが、それですら最低限の政治力しか持たせてもらっていない。
ここまでできるのは、王女殿下のご気性のためか、とにかく権限の拡大解釈によるものだ。
なにせ、フェノール王国の首都襲撃も、警察権力の範囲内になっている。
警察だけで、戦争を終わらせるような成果を出せるのならば、それこそ軍隊なんぞ要らないという乱暴な意見に繋がるが、今回ばかりは国王陛下も何も言えなく……なことはなく、大きな溜息の後で、しこたま王女殿下は怒られていた。




