フェノール王国の国王について
「しかし……報告では聞いていたが、改めて目の前に当事者が揃うと、事の重大さが身に沁みるな。
本当に、あの国王と宰相の身柄を拘束したのだな」
「ええ。
ですので、現在はあの国の上層部は機能不全にでもなっているでしょうね。 ウフフフ」
「「「……」」」
……
……
しばらくして、情報の整理が終わったのか、宇宙軍長官が陛下に話しかけた。
「陛下。
現状の問題すべてが、この『すでに終わってしまった制圧作業』の戦後処理に集中しております……」
「ああ、すぐに対処が必要だ。
宰相、この場に帝国の代理人と、うちのしかるべき者を呼んでくれ」
「外交部は呼ばなくてよろしいのでしょうか」
「今、アイツラを入れると、話がややこしくなってとんでもないことになる。
あ、長官、すぐに、制圧軍にも待機命令を出してくれ」
「はい、現在、不明なことが多く待機命令が出されておりますので。
まあ、待機命令が出されていなくとも、まだ準備が終わっていないようで出撃できる状態でもないようなのですが」
「は~~、どうも軍の時間と、報告を上げてきたマリアの時間とでの差がすごいことになっているな。
ひょっとして、マリアに国政を任せればとたんに今の紛争……いや、長く続くフェノールとの戦争すら簡単に終わらせそうだな」
「お父様、買いかぶり過ぎますわ。
私達は、陛下からの命をただこなしているだけですわ
それ以上でもそれ以下でもありませんの」
「ああ、そうだった。
今思い返してもほとんど記憶にない命令だったが、わしはとんでもないことをマリアに命じたな」
「ですが、陛下。
これはある意味ビッグチャンスです」
「宰相、言うな。
わかっておるよ。
ただの愚痴だ」
そこから少し落ち着いた陛下たちは、しばらくコクーンから来た乗員たちと直接話を交わしていく。
普通なら絶対に有り得ない。
一組織、王国で例えるとしてもコクーンのような巨大な宇宙船などないから比較は難しいが、それでも無理やり例えを探すならば、コロニーの行政官、しかもその代表ではなく、ある部署の一課長クラスに当たるだろうか。
その者たちと一国の陛下が直接言葉をかわすなんて。
それも、功績を挙げた者に対する公的行事でもなければ、プライベートでもない、公務中の話では、まず接点そのものが生まれようがないのに、そんな者たちとの話し合いは、どんどん両者ともに熱が入り、時間を忘れていた。
そんな折に、こんどは廊下に通じる扉からノックの音がして、先程陛下が呼んでいた者たちが宰相の秘書に連れられてやってきた。
「ああ、時間を忘れていたようだな」
陛下は、宰相に状況の整理を命じた。
帝国側との秘密裏の窓口となっていたあのインテリヤクザ、もとい、帝国側の諜報官が先の件を直接コクーンの職員に聞いている。
その間に、陛下たちも宰相との間で、とにかくやることだけを整理していた。
先ずは、フェノール王国に対しての扱いだ。
先の説明ではないけど、まともに政府機関が動いているはずがない
なので、今更交渉しようにも窓口……、いや、窓口ならばいくらでもあるけど、意味をなさない。
政府が動いていないのだから。
とりあえず、国境周辺の警護だけを軍に命じて、今後についてはグラファイト帝国と歩調を合わせるべく、諜報官とも話し合うことで、とりあえず宰相たちとの間では落ち着いてきた。
とにかく、この場での話し合いは、もともと結論を得るためのものでもなかったこともあり、熱の入った会話が続いてはいたが、何かが決まったわけではなく無事に終わった。
王女殿下が、帝国からのお客様であるお二人をさらに王宮の奥に案内していく。
二人はこのまま王宮内に、言葉は悪いが軟禁されるのだ。
何せ、ことがことだけに、他に少しでも情報が漏れるのを恐れた措置だ。
二人とも、そのあたりは予想していたのか表情を変えることなく指示に従っていく。
二人は、奥の王室プライベート空間にある客間に案内されていた。
何せ、俺もその客間に軟禁されるらしい。
その客間の作りは豪華ホテルのスウィートのように居間を中心にベッドルームがいくつかある作りで、そこに俺も軟禁される。
まあ、それはもう少し後になるが、今はこの場に残された面々での話し合いだ。
先の話し合いは情報を共有するためだけにあったが、この場ではなにかしらのアクションを決めないとまずいらしく、宰相が先ほどから自身の部下たちを使っていろいろとしながら陛下と話し合っていた。
帝国と我が国との貿易面でのパイプ役でもあるインテリヤクザさんも先の話は寝耳に水だったようで、やっとフリーズ状態から抜け出させたような感じでうちの諜報さんといろいろと小声で話していた。
「宰相、とにかくフェノール王国の王とは一度話をしたいな」
「ええ、ですが先の話では……」
「宰相、コクーン内では公式にはなりませんが話をするだけはできそうですね」
そうですよね、王女殿下」
「ええ、宇宙軍長官。
いずれにしろ私どもはコクーンに向かいますので、それほど難しいことではないでしょう。
そう思いませんか、司令」
え、ここでいきなり話を振るかね。
相変わらずうちの王女殿下は鬼畜だ……あ、睨まれた。
「ええ、非公式ではそれほど難しいことではないかとは思いますが……」
すると今度は陛下までもが直接俺に聞いてくる。
俺、平民だけど……あ、軍のトップだからいいのか。
「何か、懸念でもあるのかね、司令」
「ハイ、陛下。
拘束中の被疑者への面会は弁護士資格のない者はできなかったかと記憶しておりますが」
「「「は~~?」」」
そのはずだ。
訴追された後なら、それでも難しかったはずだが、訴追前の被疑者への面会にはかなりの制限が課されているはずだ……あ、捜査関係者は別か。
それでも、それはあくまで捜査関係者に限られていたはずで、たとえ政府役人でも他部署のものはかなりの制限があった。
何せ、そういう被疑者って、貴族連中に限るとほとんどがそれなりの役に就いているので、王国法でも一応制限が課されている。
今ではかなりの部分が有名無実化されているけど。
「ナオ司令、あなたは何を言いたいのですか?」
「ハイ、現在コクーン内で拘束中の被疑者は例外なく、王国法に基づき身柄を拘束しており、現在も法律の範囲内での取り調べ中ですが、ここで、超法規措置が取られますと、のちの公判で不利益に……」
「司令、貴殿は何を話しているのだ。
今はフェノール王国との外交を含め政府方針に関する……」
宰相は俺の回答に疑念を持ったのか、どうにも噛み合わない。
だが、王女殿下のとりなしもあり、すぐにコクーンに戻り、とにかくフェノール王国の王との会話を模索する方向で話は決まっていった。




