ゆっくりと帰還
コクーンの帝国への帰還の案内と護衛については引き続き俺たちが行うために、今回被疑者を連れて首都に帰るのは『シュンミン』のみで『バクミン』と『ダミン』は引き続きコクーンを先導して帝国に向かうことにしておいた。
コクーン内にはまだたくさんの被疑者もいるので、捜査員たちも引き続きコクーン内に残り捜査を続けていく。
あ、サーダーさん達は俺が無理やり帰還組に入れて首都まで連れて帰る。
途中ニホニウムに寄って彼らを降ろすことになるが、サーダーさんを首都に連れて行っても問題しか起こさないような気がするので、多少の時間はこの際必要経費だと考えている。
フェノール王国との境は、ちょうど首都星系とは真反対のような感じで、本部基地のあるニホニウムからしたら下手をしなくとも帝国との国境を超えるよりも距離はある。
また、それほど急ぐようなことでもないので……というか俺も艦長のメーリカ姉さんも行きたくないという気持ちのほうが強いのか、足取りも重くほとんど巡航、いや、軍の巡航速度まで速度を落としての航行をしていた。
「司令、流石にこれって露骨では……」
心配したのか秘書官のイレーヌさんが俺が事務仕事をしている横から声をかけてきた。
今日は珍しく、イレーヌさんに言われる前からせっせとあの書類おばけと戦っていたのだ。
「ああ、露骨だろうが、かまわないよ。どうせあの連中にはわからないから」
「あの連中……貴族の方たちでしょうか。
ですが、たしかにそう言えそうですね」
「それに俺もメーリカ姉さんも月面基地でのトラウマもあるし、嫌な予感しかしないんだよな」
「でしょうね、戦争当事国の敵側の首都まで行って、国王を拉致してくるなんて……」
「拉致は酷くないか。
俺は法に基づいて身柄を確保しただけだ。
そのあたりについては、今回首都まで同行してくれる帝国の法務担当の人も保証してくれていたぞ」
そうなのだ。
今回帰還に際して、帝国側も我々ダイヤモンド王国ではなく俺達に気を利かせてくれ、コクーンにいた帝国の法務担当の人を外交官と一緒に派遣してくれている。
俺達は一緒に海賊を捕まえた体……『体』では無く捕まえたのだから、どこからも非難される覚えはないが、外国と一緒の共同作戦でもあったし、何より作戦実施前の取り決めにより、コクーン強奪に関係した者たちの身柄については帝国側に一旦引き渡すとしてあるので、そのあたりの説明もあり今回我々に同行してくれている。
この後、犯罪者の取扱について、両国で協議の必要があるのだ。
特にフェノールの国王の扱いについては帝国以上に我が国の、特に俺を嫌いな貴族連中には関心がありそうだ。
この後の取り調べいかんによっては余罪も判明していくだろうし、その余罪の内容によっては我が国での裁判も必要になるかもしれない。
我が国としては身柄の要求、もしくは代理処罰の要求をしていく必要がありそうだ。
何せ、両国間には犯罪人引渡しのための取り決めはまだない。
そんなこともあるので、今回外交官も同行している。
「まだ、そんな事を言っておられるのは多分司令だけですよ」
「何と言われようが、俺は法律に基づき、また、今回の件は王女殿下の命令によってなされたので、何ら恥じ入ることはないぞ」
「これだけの成果ですので、恥じ入る必要はありませんが……でもいきなり首都攻略ですので」
「それについても、以前に陛下よりも命じられているから問題ない」
そうなのだ。
何度も言うが、俺は司令任命時に国王陛下より直接お言葉を頂いている。
『何なら、敵国の奥、首都まで行っても海賊連中を捕まえてくれ』とな。
今回はまさにこれをしただけだ。
口頭だけとはいえ、あのときは周りには人もたくさん公務で同席していたので、俺にとって、いや、誰にとっても公式に命じられたようなものだ。
「まあ、今回の件は普通の業務内であることからも、国内では誰もまだ知らないだろうから大事にはならないだろうが……」
「そんなことは無いような気がしますが、王女殿下のご命令だったこともあるので、直接司令にはなにかあるとは思えませんね」
そんな感じで、雑談をしながら今回の件の報告書と、犯罪人引渡しに関する取り決めの無いことによる弊害についての要望書を作っていく。
そんな感じで時間だけは過ぎていった。
急ぎ戻っていればとっくに着いただろうが、俺の報告書を書き終わるくらいの時間を待っての移動となった。
「司令、まもなくニホニウムの管制圏に入ります」
隣から艦長のメーリカ姉さんから報告が入る。
「今回はうるさ方を降ろしてすぐにファーレン宇宙港に向かうぞ。
王女殿下に直接報告しないと、流石にまずいだろうしな」
「行きたくはありませんが、仕方がありませんね。
帝国のお客様もおりますしね」
「そのお客人には寄り道の件は……」
「はい、しっかりとお伝えしております。
面倒くさい御仁の引取について感謝しておりましたので」
「確かに、所長は色々とやらかしてもいたしね」
あの所長、どこまでもマイペースというか、以前にこのコクーンを調査したときと同じ感覚でいたようで、今回大活躍したあのタンポポ弾の成果を見て、改造を始めたのを俺達全員が止めた経緯もある。
コクーンがダイヤモンド王国の支配下にあった当時でも流石にどうかとは思うが、今は絶対にまずい。
所長が言うには、間違っても爆発はないと言いはるが、匂いが漏れただけでも大惨事となるのだ。
それに現状では、コクーンはグラファイト帝国の管理下にあるので、俺達は客になる。
その客が好き勝手できるはず無いのだが、あの人にはわからなかったようだ。
ということで、さっさと身柄を海賊とは一緒にとはいかなかったが、拘束させてもらい今回連れてきている。
身柄を拘束と言ったが、『ダミン』内で軟禁という方が適切な表現かもしれない。
そのまま軟禁でも良かったのだが、連れて帰れるのなら絶対に連れて帰ってほしいとの要望があっちこっちからあったこともあるので、今回のように寄り道までしても連れて帰ることになったのだ。
その要望が帝国からもあったので、今回の寄り道に関して帝国側も快く納得してもらったという経緯まである。
しかし、なんで俺らの周りには難ありばかりが集まるのだろう。
能力的には何ら不満はないが、本来ならばどこに出してもと胸を晴れるくらいにはそのキャパシティーを持つ者ばかりなのだが、性格に難がある時点でどこにも出せないというオチまでつく連中だ。




