プロローグ:雪降らぬ森の氷麗(ツララ)
私は雪女。
名前は「自分で考えろ」って言われたから、氷麗って名乗ることにしたよ。
……どうかな? なんか、響きがいくない?
あ、ごめん。あんまり人と話すの、得意じゃないんだ。
ここって転生するとこ?
そうなんだね。
うん、なんか背中から光が出てる人に、転生しない?って言われてさ。
そうじゃなくて?
ええと、ここに来た経緯だっけ?
うんと、あんまりいい話じゃないよ。聞く?
……そう? じゃあ話そうか。まぁ、大した話でもないんだけどさ。
私は向こうの世界では、16歳の女子高生だった。
その時に……うん、殺されたんだ。
犯人? 勿論知ってる。けど、それはもういいんだ。復讐? いいよ、正直めんどくさいし。それに……ま、いいや。
犯人は私のおじさん。つまり、お父さんの弟。
お父さんとは結構歳が離れてて、私より10歳くらい年上だったんだ。
昔から結構仲良くてさ、私に勉強を教えてくれたりもしてた。
ある時、自分の部屋で寝てたら、なんかがお腹にのしかかって来たんだ。
目を開けたら、おじさんでさ。
……まぁ、あれだよ。そう、わかるよね。
勿論、必死で抵抗したよ。
そしたら、なんか胸に、サクって感じの衝撃が走って。
痛いっていうより、びっくりしたな。おじさんが、そんなことできる人だと思ってなかったから。
向こうも予想外だったんだろうね。完全にパニクっちゃって、近くにあったストーブをひっくり返しちゃったんだ。
私の家、雪国だからさ。電気ストーブじゃない、灯油で焚くちゃんとしたやつ。
勿論、灯油が床一面にこぼれた。
そしたらおじさん、持ってたライターでそれに火をつけちゃってさ。
……うん。いや、でも先に煙を吸って気を失っちゃったから、火傷の痛みはなかったかな。
ただ、とにかく熱かった。
あの時、最期に気になったのはお父さんとお母さんのこと。自分のこと? 自分のことは「まぁ、いいや」って感じだった。
あ……そうなんだね。
二人とも、私より前にそっちに行ってたんだ。
ここにはいない? そっか。……うん、じゃあ、次はあっちで幸せになるといいね。
転生にあたっての希望?
そうね、できれば次は長生きしたいかな。
うん、あと、熱いのはもう嫌かな。
それでいいよ。
わかった。……ところで、魔王退治とかってあるの?
ゲーム? あんまりしないけど、ラノベでよくあるパターンじゃない? 転生してなんか魔王的な人をやっつけたり、婚約破棄されたり、自分が討伐対象として追われたり。
ああ、そういうのは無いのね? よかった。
男の人? しばらくは、いいかな。うん、結構。
前世への未練?う〜ん、ないと言えばないし。あると言えばあるのかな?
そうそう、マックはあるかとかさ。あははは、流石にないよね。
でもね、もしかして、憧れの世界っぽくて楽しみなところもあるよ。
うんそっか、わかった、じゃあ本当に好きにさせてもらうね。
うん、じゃあ、いってくる。帰ってきちゃいけない。あはは、そのつもりは今のところないよ。
教会? あるの? わかった、落ち着いたら行ってみるよ。
ふふ、なんか、お母さんみたいだね。ははは。
うん、それじゃあ、行くね。
色々ありがとね
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案内人との対話が終わり、私は淡い光に包まれた。
浮遊感のあと、パッと視界が開ける。
気がつくと、私は見慣れない森の中にぽつんと立っていた。
「……あれ?」
雪女っていう種族だから、一面の銀世界にでも放り出されるのかなと思っていたけれど、そうでもなかった。
見上げるほどの巨木が青々と葉を茂らせ、木漏れ日が優しく地面を照らしている。
衣服の感覚に違和感を覚えて、自分の体を見下ろした。
白地に青い雪の結晶があしらわれた、すごく可愛い着物を着ている。手足は元の自分より少し小さくて、だいたい12歳くらいの見かけになっているみたいだ。
深呼吸をしてみる。
かつて胸を刺された痛みも、皮膚を炙ったあの嫌な熱さも、もうどこにもない。驚くほど体が軽い。
異世界転生モノの主人公なら、ここで「ここが異世界か!」なんて両手を広げて叫ぶところかもしれないけれど。
「……言わないよ、恥ずかしいし」
小さく呟いて、私は草履の鼻緒についた小さな雪だるまの飾りを、トントンと地面に打ち付けた。
うん、私かわいい、
氷麗としての、新しくて長い人生がここから始まるだ。・・・多分




