見えてくる宮廷の有象無象
「賊軍がすぐにも攻めてくるらしいわ。」
「もう!?まだ禄(給料のこと)を貯めたかったけどここらが潮時ね」
「今のうちに準備しておきましょう」
宮廷内ではここ数日様子がおかしい。
宮廷に勤める女官たちが心なしか減っているように感じ、今ささやかれている会話も暗に「夜逃げ」を示唆するような内容が聞こえていた。
それは宦官も同じで、
「今の状況をみるに賊軍いや、義勇軍がココへと向かうのか?」
「どうも清軍が侵攻を停止しているそうだ」
「なら我々は李氏をお迎えすれば良いな」
「すぐにも彼らに連絡とらねば」
陰で話している宦官の呟きも暗に李自成への寝返りを示唆すようなものばかりだ。
今朱慈煥は、王承恩に関する情報を集めるためこっそりと宦官や女官たちの世間話を盗み聞きすることにした。
「こればっかりは地道に情報を集めるしかないかぁ」
注意深く耳を傾けていれば、何らかの手がかりが見つかるかもしれない。 彼はそう信じて、宮廷内を歩き回り、様々な情報を探し求める日々を過ごすことになる。
数日後
冷たい北風が吹き抜ける紫禁城の石畳。息が白く吐き出される中、朱慈煥は庭園でジェンズ(中華バージョンの羽根つき)を一人で遊んでいた。周囲の宦官や侍女たちの視線は、寒さなのか、それとも城の空気の重みに押さえつけられているかのように、冷ややかにあなたを見つめている。
「国は今未曾有の危機だというのにのんきなものね」
「仕方あるまい、まだ子どもだ。自分が今どんな状況にいるかわかっていないのだろうよ」
「そう思うとなんと哀れなことよ」
そんな様々な陰口を叩いて通りすぎ、少しすると特有の腰の据わった歩き方をして疲労感のある顔つきをした宦官が歩いていた。それは間違いなく王承恩だ。
朱慈煥は心臓の高鳴りを抑えながら、手に持ったジェンズの羽玉を王承恩が通る道に落とす。
王承恩は、寡黙に歩を進める。そして、朱慈煥の仕掛けた羽玉に気づいたのか、軽く足を止め、地面に落ちた羽玉を拾い上げる。
朱慈煥は少し遅れて姿を現す。軽く頭を下げ、穏やかな表情で王承恩に声を掛ける。
「すまぬが少しばかり、話をさせて貰えぬだろうか?」




