できることはやった
揚州 客桟のある部屋
(そろそろ僕のことが耳に入ってきたかな?これ以上やると下手したら牢に捕らえられかねないからな)
揚州内で噂が広まっている不気味な小坊主は朱慈煥がお面を被って粗末な黒衣を着た姿だった。
今まで密かに行動していた朱慈煥にしては大胆な行動だった。朱慈煥は現代で明の歴史書である『明史』を読んでいたことがある。
そして、その列伝に史可法のことがしっかり書かれていた。史徳威の存在と字も他の様々な資料から把握していたので遠回しで不可解なこと訪ねてまわって接触を図ろうとしたのだ。
結果的に史徳威がその小坊主を探し始めた。
ただひとつ問題があった。目立ちすぎて町中でそのお面の小坊主についてささやかれ始めたのだ。これには朱慈煥もしょうがないと割りきっていたが、そのなかには「妖魔の類いなのではないか?」といったものだった。
朱慈煥はこの噂を聞いてここが限界だと感じた。
下手したら、退治を名目に捕まりかねない。そう思った朱慈煥は史徳威に密かに接触することを諦め、揚州を出ることにした。
「だけどせめてこれだけは伝えておこう」
朱慈煥はそう呟いて、今さっき書き終えた文と血痕がある小刀と持って部屋を後にした。そしたなぜか朱慈煥の右手の親指には包帯が巻かれていた。
朱慈煥は港に出る前に気弱な兵士を探していた。
そして、大通りを巡回しているときにその兵士と再会した。
「おお坊主、まだいたのか。母親は見つかったのか?」
「はい。これから揚州をでるところです」
「そうか...おまえはまだ若いからよ、しっかり家族を養なってやるんだぞ」
「ありがとうございます。あっそうだ、ちょっとお願いしたいことがあるのですが」
朱慈煥はあたかも今思い出したように言いながらある文を渡してきた。
「実は昨晩、巷で噂の『お面の小坊主』に会ったんですよ」
それを聞いた兵士は少し驚いた。
「その小坊主にあったのか?!、てっきり噂だと思っていたが…」
「そこで『もし、自分のことを探すものがいたらこの文を大きな河にいる龍に渡してほしい』といわれて文を渡されたのですが、大きな河にいる龍の意味が解らないのと、これから揚州をでるので代わりに預かってほしいのです。」
「おいおい、そんなことを聞かれたってしょうがないだろ。だいたい俺もその『大きな河にいる龍』なんて知らないぞ」
「まあまあ、預けるだけでいいので、もしなにもなかったらそのままにしておいていいとも思いますよ」
「…それもそうだな。預けるぐらいは別にいいぞ。ところでこの文の中身は見たのか?」
「いいえ。ただ…」
そう言葉を区切り、笑顔で話した。
「もしかしたら、揚州が戦場にならないかもしれませんよ」
そう言い残して足早に去っていった。
「おい、って行っちまった」
兵士は何でそうなるんだと首をかしげながら疑問に思うのだった。




