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メガネチャンダイオー登場編 ~ファンタジー美女騎士軍団と共に~

「それでね、こうするの。……変形!!」


 メガネちゃんが叫ぶと、いつの間にかSF的コントロールルームと化した20畳の部屋に配された銀髪長身スレンダー美女軍団たちが口々に応じる。


「脚部了解! エネルギー充填率80%!」

「腕部了解! エネルギー充填率95%!」

「胴部了解! エネルギー充填率65%……安全基準域ギリギリです!」

「かまわん! やれ!!」

「「「アイサー!!!」」」


「あ、充填率がなんとかっていうのもフレーバーだから気にしないでね」


 はい、気にしません。っていうか、いろいろ怒涛過ぎてよくわかりません。


 私が目を白黒させているうちに、我らが宇宙戦艦ショッピングセンターは見る見ると形を変えていった。


 私たちがいる漫画喫茶は頭部に、一番広いスーパーマーケットは胴体に、次に広いシネコンは2つに分かれて脚部、右腕はスポーツアミューズメントパーク、左腕は書店が構成した。その他雑多なテナント群は形を変えて装甲や武装になっていく。下手をすれば本体以上に大きい立体駐車場はバラバラと分解して巨大な翼へと変形、ショッピングセンター本体の背中へと合体した。


 何が起きているのか理解が追いつかない。助けてくださいと言わんばかりにメガネちゃんに視線を向けると頬を上気させてなにやらつぶやいていた。


「変形……合体……ロマン、ロマンだよねえ…。しゅごい……ああ、語彙が失われる……尊い……」


 メガネちゃんに一体何があったのか。メガネちゃんに何があったのかはわからないけれど、ショッピングセンターに何が起きたのかはよくわかった。誰がどうやって映しているのかはわからないが、第三者目線、かつ3カメ視点を切り替えながらショッピングセンターの変形合体を中継してくれていたのだ。


「巨大ロボ……キマシタワー……」


 メガネちゃんが恍惚としている。メガネの下の頬をぽっと桜色に染めている。メガネちゃんのあまりのアガりっぷりに若干引き気味のあたしではあるけれど、この天空に生じた巨大ロボにはちょっと心がざわつくところもある。なんか悔しい。


 ヘッドセットのマイクを口元に寄せて、メガネちゃんが何やらしゃべりだした。


「あっ、あー、マイクテス、マイクテス、テステス。えー、みなさん聞こえますかー?」


 巨大ロボから響いた音声に、王都の民衆やら衛兵やらはびくっと身を縮こませた。ここに来るまでの超音速移動によって生じた轟音で何事かと様子を見に家を出たり、警備に出た兵士たちが多かったようで、広場も街路も人間で溢れかえっている。大勢の人間が一斉にびくってなるのは見ていてちょっと楽しい。


 ここは私も相乗りすべきかな……って気分になったので、あたしもヘッドセットのマイクを口元に引き寄せ、それを両手で覆い、目一杯低い声を出してみた。


「あっ、あー。マイクテス。本日は感度良好なり。あっ、あー。あ、まじすご。音響いてるね。あっ、そうじゃなくて……あー、我は天空神巨大汎用人型決戦ショッピングセンター・メガネチャンダイオーなり……。汝らは神域を侵した。汝らの犯した罪の数、汝らはおぼえているか……?」


 メガネチャンダイオー、って名乗ったあたりでメガネちゃんからの視線を感じたけれど、そのへんは一旦忘れておこう。


 あたしの言葉にメガネちゃんが続ける。


「汝らの血が何色かは知らぬ。何色かは知らぬが、神域を侵すものはみな灰の血となりて腐り落ちるものと知るべし。我は稀人を好む。然し略奪者は許さぬ。ゆめ、これを心に刻み、二度と我が神域に軍勢など差し向けるでない」


 モニターに映る王都の人々はみんな震え上がってぺたりと尻餅をついている。人によっては両手を合わせて祈ってるようだ。そりゃそうだよね。上空に巨人が現れて大音響で脅しつけてビビらない人はそうそういないだろう。


 そして、ビビらない側の極少数の人たちがいた。


「あれは邪神の使いに相違ない! 臆するな! いまこそが機ぞ! 撃って撃って撃ちまくれ!!」


 王城を囲む壁の上に銀色の鎧を着た騎士たちが見える。鎧のシルエットや声の高さから察するに、ファンタジーっぽい美女ばかりで構成された近衛騎士団とかそういうやつじゃないかなーと思う。


 美女騎士たちが剣を振るうと、半弧を描く炎やら氷やらなにやらがよくわからないものが大量に生成され、滞空するメガネチャンダイオーに向かって飛んでくる。マズイぞ……これは大ピンチだ……!!


 なんてこともなく。無数に飛んできた魔法剣的な何かはメガネチャンダイオーの外装に当たると虚しく弾けた。多少はひびとか入ったけどね。メガネチャンダイオーのスケール感からすると、脱毛でチクっとしたくらいのダメージしかない。


「愚かな人間どもめ……力の差がわからぬか。だが愚かなるは人間どもから分かち得ぬサガよ。我とて寛容なる神の一柱。これより顕現せし力をその目に焼き付け、なお挑むというならば我の荒ぶる姿を見せてやろう」


 これはメガネちゃん。なんかすっごい楽しそうにマイクを握ってる。そして目の前に浮かんでる半透明のコンソール的なものの赤いボタンをポチッと押した。


 ぎゅぃぃぃぃぃいいいん……というなんか大気中のエネルギーを吸収してそうな音がすると、メガネチャンダイオーは両手を天に突き上げた! 輝く粒子的な何かがその両手に集まっていく!!


「見よ……これが我が……我が……鈍色に輝く極彩色の虹のトラペゾヘドロン!!」


 鈍色なのか極彩色なのか虹色なのかよくわからない技名を叫びと、メガネチャンダイオーの両手が輝く無数の光線が天に向かって放たれた。後で聞くと、ぶっちゃけ技名をあらかじめ考えてなかったのでつっかえちゃったって顔を真っ赤にしてた。メガネちゃんかわいい。


 メガネチャンダイオーが両手から放った光がさらに空中で爆散する。放射状に広がる色とりどりの光。腹に響くような轟音。わずかに鼻をくすぐる焦げ臭い香り……。あれ、これって?


「うん、花火だよ」


 ズドーン、バゴーンと異世界の天に輝く花火を背景に、メガネチャンダイオーは元いた瘴気領域のあたりへ向かって悠々と飛び去っていった。あたしとメガネちゃんも、メガネチャンダイオーの頭部に設置された展望台に上ってそれを眺めていた。ずっと薄ぼんやりした明るさのこの世界の空が、ちょっとだけ輝いて見えた気がした。


「これで諦めてくれるといいね」


 メガネちゃんがそう聞いてくるけれど、あたしには何のことやらわからなかった。


「あの攻めてきた人たちの話。さすがにさ、一方的に皆殺しっていうのも気分が悪いじゃん」


 にっこり微笑むメガネちゃんがやっぱりちょっとこわい。


「でもさ、仕方がないときは、仕方がないよね」


 三編みを風にたなびかせるメガネちゃんは、なんだか妙に神々しく見えたのだった。


 * * *


 元の瘴気領域に戻って体感で一週間くらい。また騎士の軍団が現れた。今回は百人くらい。懲りないなあ……と思いつつ、メガネちゃんの指示でドラちゃんたちが彼らを囲むと、彼らは一斉に下馬して地面にひれ伏した。


「これまでのご無礼の数々、誠に申し訳ございませんでした! 此度の非礼は我らが血を以って贖いと致したく、平にお願いを申し上げます!」


 そういって全員で兜を投げ捨てると……あ、やっば。みんなハリウッド女優みたいな美人さん揃い。それが一斉に首元に剣をあてがって……って、ちょちょ! ちょい! やめやめ!


「我らが神は血を好まぬ。貴殿らの覚悟と謝意は受け取った。長旅と心労で溜まった疲れはこの神域で流していくがよい」


 集団自殺を止めたのは純白のローマ人風衣装をまとったメガネちゃんであった。さすがはメガネちゃん、さすメガ。あとでよくぞ止めてくれたと言うと、せっかくの住まいが事故物件になるのは嫌だということであった。


 スーパー銭湯からの全身エステ(ドラちゃんたちはエステもマッサージもアカスリもツボ押しだってできる)、舌におごった日本人謹製の数々の料理で女騎士たちをもてなすと、彼女らはすっかりこちらに懐いてくれた。あまりの変わり身の早さに料理に何か妙なものでも混ざってるんじゃないかと疑問を抱き、メガネちゃんに視線を向けたら速攻で目をそらされた。おーけぃ、大人には知ってても知らないフリをする必要がある場面が存在するよね。


 多少打ち解けてから話を聞くに、あたしが王都だと思ってたあの街は第二皇都というのが正式な名称で、第一皇都はピーマンになって滅びたらしい。なんだそりゃ。


 そして彼女らはあのお城の城壁で魔法剣的なものを撃ってきて抵抗した一団だった。元々皇位継承権第三位の皇女様が隊長で、継承権一位、二位の兄たちに疎まれていたこともあり、厄介払いも兼ねて側近の女騎士団とともに生贄としてこちらに送り込まれてきてたんだそうだ。つらみ。


 ん……? ていうか、つまりこの女騎士団の隊長さんは皇女様……? お風呂で背中の洗っことかしちゃったんだけど、いいのかな、これ? まあいっか。


 集団自殺を止めたのはいいけれど、皇女様御一行はお国に帰ればまたきっと死地に向かわされるんだろう。メガネチャンダイオーの威光でなんとかできそうな気もしなくはないけれど、それで解決したってきっと彼女らは肩身が狭い。


 それになんというか……彼女らはみんな美人さんで、とっても礼儀正しくて、慎ましやかだ。彼女らがショッピングセンターをわちゃわちゃ歩いていると、地球にいた頃の3倍増しくらいでここがステキな場所に見えてくる。皇女様を先頭に高級下着売り場に入ったときのことなど……いやぁキマシタワー。詳しくは描写できない。


 普通の旅人なら体感数日で追い返しちゃうんだけど、そんなこんなで彼女らはもうかなりの期間、滞在を続けている。彼女らも彼女らで、死ぬつもりでやって来たのでいまさら里心が付くこともない様子だ。


 これからあたしたちがどうするかは決まっていない。というか疲れたので当面はだらだらしたい。ともあれ、あたしたちがショッピングセンターから一歩も出ないまま繰り広げる冒険は、きっともっと続くはずなんだ。

 このお話は一旦完結とさせていただきます。

 メガネチャンダイオーは下記作品でもうすぐ登場するので、よかったらそちらも楽しんでいただけると幸いです。


 ▼三十路OL、セーラー服で異世界転移 ~子だくさんになるか魔王的な存在を倒すか二択を迫られてます~

 https://ncode.syosetu.com/n3279hb/

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