3-43 長い戦闘が終わって
麻痺霧と猛毒霧、通常攻撃……
それらがターン制バトルで、行動パターンのルーチンが決まっていたからこそ勝てた。
もしそれらが、完全な行動ランダムになれば勝負は一気に分からなくなっていただろう。
空が怒りに震え、躍動するように明滅する。
単純な煽り耐性の無い神様が怒り、こちらの挑発に乗って沸き立たっている。
世界の…… 強制力、ルールが消えてゆく。
「……っ!! たった今、神託で“声”が届きました!! 『今この瞬間から、世界のルールを変更した!』と。……これは、なんという乱暴な神託……」
今のはおそらく世界中の教会にいるシスター全員に届いたのではないか、という。
ミネアさんは頭を抱えながら少し痛そうに表情を顰めていた。
まったく、神託で八つ当たりなど程度が知れた神様だ。
神様の地位に付いてなければそこらの糞ガキと変わらないっていうのに。
周りを見てみる。
全体魔法攻撃の刃によってズタズタになった地面。
切り裂かれた木々に、倒れた巨体。
鎧は、もう駄目だな……
貫通された攻撃を受け続けて、ボロボロになっている。
ゲームルールの強制力が無くなった今、これは戦闘中に不意に突如いつ壊れてもおかしくない。
あーあ、これでとうとう私も、「てつのよろい」デビューかぁ……
「お疲れ様、アリスちゃん……。見事だったわ」
ルナさんに身体を支えられ、そのまま身を委ねると毒で蝕まれていた疲労が一気に襲ってきた。
長い戦いだった…… あとは、もうルナさんに任せてもいいだろう。
帰り道ぐらい、誰かに頼って楽になっててもいいはずだ。
ミストビートルの巨体は、ルナさんの持ってきたマジックバッグで収納した。
私の持ってる小さなマジックバッグでは容量が入りきらないから。
これが今回、ルナさんの同行を認めた理由の内一つでもある。
あとは、素材の中から猛毒霧の素と、麻痺霧の素を抜き取った。
これは私の新たな手札になる…… 前々から出来れば欲しかった物。
ここのエリアボスを倒そうと決めた時に、実はこの素材が目当てだったというのも大きい。
鎧という切り札は壊れてしまったが、新たに霧の攻撃という切り札を手に入れた。
まあ麻痺霧の素も、猛毒霧の素も、そう何回も無制限に使えるものじゃない。
大事な場面で、数回しか使えない切り札だけど……
「アリスちゃんは、もし手札が万全だったなら。ここのボスに対してどんな対処をしていたの?」
ルナさんが興味本位で聞いてくる。
ここのエリアボスが再びリポップするかは分からない。
ルールが変わった今、前と同じような戦闘は出来ないだろう。
「そうですね…… 第1段階の時点でMPを削る、奪う系の攻撃を仕掛けます。そうすれば、第2段階になった所で脅威なんてありませんから」
この手のボスの攻略ではよくある手段だ。第1段階の時点でMPを削っておく。
ルナさんからMP譲渡などの方法を受けていたし、まあMP強奪もあるのだろう。
それか、単純にMPを枯らす、減らす系統の攻撃。
今回、それが用意出来ていればもう少しスムーズに討伐できていたんだけどね……
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小さな町に、モンスターが溢れ返る。
エリア毎に分布していた種族たちが、枷が外れたかのように自由に動き回る。
ゲームのシステムに管理されていた戦闘に慣れ、それに浸っていた者たちが突然の事態の変化に慌て出す。
「なんだ? 戦闘が交互に行われない……?」
「おい、攻撃を仕掛けなきゃ、いつまでも攻撃されっぱなしだぞっ!!」
ターン制バトルなんてものを無理矢理再現していた世界が、壊れていく。
本来の、あるべき世界の姿に近付いていく。
咄嗟の変化に即座に対応出来ない者から脱落していき、命を落としてゆく。
これはクロノ・アリスティアという少女が犯したこの世界における大罪。
そして、ゲームシステムから脱却するための人類が歩み出した第一歩目……
強制されたシステムによってある意味で安定していた世界が、だんだんと歪み始めてゆく。
人々は、その原因を知った時、きっとその赤い髪の少女の存在を許さないだろう。
世界をめちゃくちゃにした張本人であり、紛うことなき元凶。
だけど、自由を手に入れるためには避けて通れない道である事を、その赤い少女だけは知っていた。




