3-41 第2形態、全体魔法攻撃に対する対処
こんな世界、終わってしまえばいいと思っていた……
夕暮れの紅い太陽を眺めながら、いつも祈りを捧げている。
「あなたはきっと、誰一人も信用できないのでしょう」
赤い髪の少女はそう言っていた。
「だけど、あなたは…… 『未来の貴方自身』のためならば、他の誰でもなく、唯一信用できるのではないでしょうか?」
唯一信じられる人が居るとすれば、それは『未来の自分自身』。
だから、未来の自分のために、今を生きろと。
他の誰でもない、自分が唯一信じられる、自分のために、と。
そう彼女は言っていたのに。
そう言っていた彼女は、私よりも先に逝ってしまった……
本当は、赤い髪の少女が、あの下手に干渉してこない彼女が、私のささやかな安らぎになっていた。
偽善で物を語ってくる者共にウンザリしていた私にとって。
彼女だけは、他の者たちと違っていた。
真夜中の孤独に、トミノの地獄を謡ってゆく……
古びて廃れた人の通らなくなったトンネル。
その廃トンネルは自殺の名所と化していて、夜中に訪れる者を心霊で竦み上がらせるスポットとなっていた。
夜中の廃墟トンネルはいい、本当に、あの世の誘いが視えてくる。
雨が降り、水が溜まり、小さな水場となった池で。
入口の正面から廃墟トンネルの暗闇の奥先を見据える。
服を脱ぎ、月明かりの真下で水浴びをしながら、トンネルの奥底を見詰め続ける。
真夜中の丑三つ時の水浴びに、冷たい月下の静まり返った静寂の中で。
暗闇の深淵を見ながら、一人孤独にトミノの地獄を謡う。
奥底の白い揺らめきが、こちらを見詰めながら歩んでくる。
ああ、彼女は何故死んでしまったのか。
赤い髪の彼女が、私の生きる救いだったのに……
池の底から、白い手が伸びてきて引きずり込まれる。
この世界は、もうどうでもいいのだ、早く……
やがて黄泉へと続く、誘いの手が私を包み込んだ。
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ヴァイラス・ミストビートルという野獣はルールに縛られている。
ゲームを強制させられた活動範囲に、行動の抑制。
エリアボスとして縛られて、どこにも行けないでいる。
矢を撃ち続け、ポーションを使い、耐え続ける。
ゲームのルールに従って、それに則った行動を取り続ける。
画面でボタンを押すように、正確に攻略を重ねてゆく。
やがて野獣の身に纏う霧に変化が生まれ、姿形が変わった。
ここからは第2形態…… 全体50ダメージの魔法攻撃が行動パターンに追加される。
ここが、この戦闘においての勝負所。
麻痺霧のターンで回復を行い、毒霧のターンでヒールを唱える。
何度も練習してきた、あえて遅く発動させるヒール。
「何故、このタイミングでヒールを使うんだ?」
「HPはさっきの回復で既に済んでいるはず…… 今ここで、ヒールを使っても意味無いわよね?」
そしてミストビートルの物理攻撃が襲い掛かり、防御でそれを凌ぎ耐えた。
付けるアクセサリーはHP20%アップ。
ギリギリで攻撃を耐え凌ぎ、次の攻撃に備える。
先程詠唱を済ませたヒールが、やがてターン終わりに遅れて発動してHPを回復させる。
画面の向こうでボタンを押してるだけでは考え付かない、想像できない手段。
これはゲームであってゲームではない、現実の世界なのだ。
だからこそ画面の向こう側では取れない手段や方法だって、この場所にリアルにいるからこそ取れる事だって出来る。
「なっ……!? あれは、わざとヒールの発動を遅らせていたのですか? まさか、時間差で回復させるとは」
次のターン、立て続けに全体魔法の攻撃が襲ってくる。
HPアップアクセサリーと、その回復によって現HPは27/28。
毒の1ダメージも込みで、充分だ。
ボスが雄叫びを上げ、纏う霧の形状が変わり、凶悪な魔力を帯びてくる。
無属性の切り裂かれる空気の刃が鋭く周辺一帯を襲ってくる。
相手がソロであっても、パーティー全体を襲う魔法でこの野獣は攻撃を仕掛けてくる。
まったく、私一人を襲うためだけに、こんな周辺全体を巻き込む魔法しか使えないだなんて。
それこそが、メモリの無駄遣いであり、そして“お前の敗因”だ。
防御で構え、25ダメージを受けて私は耐え凌ぐ。
残りHPは2、そしてターン終わりに毒の1ダメージを受けて残り1。
「まさか、本当に。耐え切ったぞっ! ……HPが23しかないのに、物理攻撃と、魔法による連続攻撃を……」
「嘘よ…… この目で見ても信じられないわ。アリスちゃん、あなたは一体……?」
……。
信じていても、実際に目の前でやられると逆に信じられなくなるという現象。
「向こう側で視ている者」も、画面上の計算でしかこの戦闘の結果を予測できなかっただろう。
ゲーム上ではない、実際のリアルに居たからこそ取れた手段と戦略。
ミストビートルの麻痺のターンで回復を行う。
毒霧のターンでは今度は魔力ポーションを使ってMPを回復させる。
そしてまた物理攻撃を防御で凌ぐ。
全体魔法攻撃は2回に1回の割合で挟んでくる。
次の物理攻撃の後にはまた魔法攻撃が連続でやってくる。
私はそれを、同じ手順で耐え凌いでいく……
・・
「あれでは、防戦一方だぞ。耐えてるのは凄いが、攻撃に回せるターンが無い」
「あと3割なのに…… それに、あの耐え方は見ている私たちの方が息が詰まりそうだわ」
「いや、待ってください! なるほど、そういう事ですね? アリスティアさん……」
ミネアさんは気付いたようだ。
そうだ、私が耐えてるのは無駄なターンの消費なんかじゃない。
全体魔法攻撃なんていう、MPの浪費を繰り返させるため。
結局はゴブリンメイジたちと同じだ。
魔法使いたちの弱点は、MPが尽きた時。
耐え凌ぐなんていう、方法がそれしか取れなかった私もまああれなんだけどね。
やがて時間が経ち、何度も魔法攻撃を繰り返され、それを凌ぎ続けて……
長い時間の末にボスの攻撃が、とうとう魔法攻撃を繰り出さなくなった。
魔法を攻撃しようとしても、『しかしMPが足りなかった!』という仕草になっていた。
この長い戦闘に、ようやく終わりが見えようとしていた。




