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隠された力

 このまま連れ去られれば、私は生贄にされる。

 そして、ルシファーは殺され、魔王の力を継承したバアルをサタナキアは思い通りに操るつもりに違いない。


「サタナキアァァァ!!」


 エリゴールが叫びながら、剣を引き抜き斬りかかる。


「笑止」


 カンッと、耳障りな金属のぶつかり合う高い音が響く。一瞬、火花が散って、エリゴールの剣は、サタナキアの一振りでいなされる。それでも態勢をたておなし、向き直るエリゴールの顔に余裕はない。

 サタナキアはゆったりと剣を構え直し、薄ら笑いを浮かべている。


「今のうちに、逃げましょう!」


 いつの間にか後ろに控えていたナアマが、私を呼ぶ。ライオンの姿のマルバスが、すくい上げるようにその背に私を乗せた。


「待て。エリゴール一人でお前たちが逃げ(おお)す時間を稼げると思うのか」


 気づけばもう、私たちの前にサタナキアは立っている。

 魔力は封じられているはずのこの場所で、彼はただ本来持つ力そのものが、桁外れに強いということ。


「俺もいる」


 マサルが私たちの前に出る。その顔はこの村に火を放ったこの魔族総帥を切り刻む事しか考えていない。


「お前だけでは難しいだろうな……我が弟を傷つけた、あのドラゴンでもいない限りはな」


 ヒュンとマサルの手入れの行き届いた剣が風を切る。


「やってみないと、わかんないっしょ」


 この世界にも、ドラゴンがいる……。驚いている場合じゃない。

 バアルがサタナキアに捕まれば、ルシファーは消されてしまう。

 一刻も早くこの場から逃げないといけない。


「マルバス!」


 マルバスがぐっと体を傾け、走り出そうとしたとき、巨体が行く手を遮る。

 さっきの火を吐く大きな悪魔だった。


「……きゃあ!」


 火を吐かなくても、大きな体を振り回せば、それなりの破壊力はある。風を切り裂く鎌の一振りを避けて、マルバスが後ろへと跳ねた。


 ーーーー悪魔に四方を囲まれている。


 見る限り、もう逃げ場はない。

 天を仰ぎ、祈る。


 大きな大きな影が、私たちの頭上を覆う。

 光が遮られて、あたりいた一帯に闇が訪れる。


 大きすぎる羽音が、あたりのものを舞い上げる。


「ど、ドラゴン……」


 そして、その上に乗っているのは、アンナだった。


「マリア、これを!」


 ドスッと真上から落ちてきたのは、石だった。

 ーーアンナ、あんた私を、殺す気か!!!


「あの石よ、マリア!」


 ーーーーこの村の石は、力を増幅させる。

 アンナのセリフを思い出す。

 マルバスから降りて、石を拾い上げる。

 その石をバアルと一緒に抱き寄せると、バアルが一際大きな声で泣いた。


「ンぎゃああぁぁぁあ!」


 驚いて、石を取り落としそうになる。

 その時、大きな光が集まって、あたり一帯が眩しいほどの光に包まれた。

 眩しすぎて、目を開けてはいられない。

 思わず目を閉じると、まぶた越しに光が弱まっていくのを感じて、恐る恐る目を開ける。


 そこには、裸の少年が立っていた。


 この子がどこからやってきたのか、わからずにあたりを見回す。

 そして、気づく。


 バアルがいないことに。


「バアル……!」


 バアルを探し、名前を呼ぶ。

 光に目をくらませている間に、奪われてしまったのかと、心臓が壊れそうなほど鼓動している。ドッドッド、耳にまで心臓が上がってきたのかというほど、早鐘の鼓動が響いていた。


「ママ……」


 振り返った少年の面差しは、確かに、バアルだった。

 白く抜けるような肌、黒い巻き毛、丸くてくりっとした赤いルビーのような瞳。


「バアル……なの?」

「ママ……」


 近くにいた悪魔が、その大きな手で、バアルに掴みかかる。


「バアル!!」


 絶叫する私をよそに、バアルは平然とその悪魔をじっと見つめた。そして、その次の瞬間、小さく手を横に振った。

 すると、その悪魔は、跡形もなく消えた。


「ば、バアル……?」

「ママ、大丈夫だよ。僕が守ってあげる」


 バアルはふわりと、優しい顔で微笑む。天使のようなバアルが、くるりとサタナキアに向き直った。


「お前は許さない」


 あのサタナキアの顔が、怯えたように見えた。


「バアル様……!!」

「父を返してもらおう」


 小さな少年に、この場所は完全に支配されている。

 空気が完全に変わってしまった。


「撤退、撤退だ……!」


 震えるサタナキアの声が、響く。

 表情一つ変えないバアルが、上を見上げると背中から大きな羽根が広がった。

 体の数倍はある、大きな黒い羽根。


 羽ばたき一つで、バアルは高いところまで上がってしまう。


「許さないって、言ったはずだよ」


 バアルは、手を前に出し、ゆっくりと手のひらを上に向けた。

 そして、小指からゆっくりと閉じて、手のひらを握りしめた。


 次の瞬間、大量の魔王軍は一瞬にして姿を消した。

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