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恋とはどういうものかしら?

 存分に泣いたら、少しはすっきりして、マンバはその間ずっと私の背中を撫で続けてくれた。


「どうしたんだよ」

「……何でもないよ」


 そう。何もない。魔王がここに来なくなっただけ。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 ただ一つわかっているのは、今のこの感情を、誰にも説明する自信がないということ。

 この、かき乱される感情に、名前がつけられない。


「何もなくて、こんなに泣くわけないでしょ」

「……ルシファーが、来なくなったんだ」

「仕事で忙しいんじゃねー?」

「……そうじゃないみたい」

「魔王に聞いたの?」


 マンバの言葉に、カッとなる。


「聞けないよ! 会ってないのに!」


 恥ずかしいほどの八つ当たりで、情けなくなってベッドに潜り込む。マンバの顔が見られない。ブランケットの隙間から、謝罪する。


「……ごめん」

「いーよ。マリア、そんなに魔王、好きなんだー」

「好き!?」

「好きだろ、それ」

「好きじゃないよ!」


 魔王が好き、そんなこと、考えもしなかった。

 イケメンだな、とか、お花をくれるのは嬉しいな、とか、不器用な私の性格を認めてくれて嬉しいとか、そういう感情。

 ベタベタされて恥ずかしいとか、キスされるのは嫌じゃないとか、会えないと悲しいとか、嫌われたくないとか。


「……す……き……?」


 口の中でもう一度繰り返すと、自分の感情がまるで少女漫画が恋愛映画でみた主人公の感情だとか、恋話を何時間もカフェで話す友達の気持ちだとか、見たことある、聞いたことある、が押し寄せてくる。


「ぶっちゃけ、あんなにチュッチュチュッチュしてて、付き合ってないとか、ないわ〜って思ってたし。つーか、付き合うも何も、子どもいるし」


 マンバがベッドの上に座って、呆れた顔で続ける。


「魔王も、あんたのこと好きだと思うけど」

「……だったら、会いにくるでしょ。飽きたんだよ」


 自分の言葉に自分で傷ついていれば世話がない。


「魔王と話さねーと、な?」


 マンバが私の肩を叩いて立ち上がる。


「もういくの?」

「まだいてほしいなら、いるけど?」


 マンバが心配そうに私を覗き込んだ。

 ぶっきらぼうだけど、優しいマンバ。


「ありがとう。さっきは八つ当たりしてごめんね」

「いいって」


 私の頭をぐちゃぐちゃに撫でて、マンバは私の両手をとる。


「ちゃんと話し合うこと」

「……ルシファーが、来てくれたらね」

「ふー。何やってんだかね、魔王のくせに逃げ回ってさ」


 マンバは眉を顰めて困っている。目を伏せて、次の瞬間、何かを思いついたような顔でにっこりした。


「ま、大丈夫だって。任せといて」


 ニヤニヤ笑いながら、ピースサインをしてくる陽気なマンバに、気持ちが緩む。


「わかった。マンバ、お願いね」


 少しだけ軽くなった心を感じて、私は笑顔でマンバに手を振った。




 夕食を終えて、私はバルコニーに向かう。

 今日は少しだけ食べられた。

 マンバのおかげだ。


 暗闇の中、海を見る。

 波が絶壁にぶつかって、白い泡を立てて崩れる。

 チリジリになるあの波は、私の心のようだ。


 このままルシファーに見捨てられてしまったら、この世界で私はどうして過ごすのだろう。

 いや、過ごすも何も、そもそも、私は生贄なんだった。


 ーーーーこの子を産めば、私には用はない。


 考えが嫌なほうに、嫌なほうに流れていく。

 カッカと頬が火照るのは、興奮しているせいなのか、ホルモンのせいなのか。


「夜風はお体に障ります。お部屋にお戻りになられては?」

「……顔が熱いの。少し冷ましてから寝るから、ナアマは下がっていいからね」

「でも……」

「お願い、今日はもう、一人にして?」


 不安なくせに、どうしてそんな意地を張ってしまうのだろう。

 波音を聞きながら、私は目を閉じる。

 すると、途端に疲れが押し寄せてくる。

 闇に引きずり込まれるように、私は眠りに落ちる。


 ゆらゆらと、体が波に浮かぶような、浮遊感。

 気持ちのいい体温を感じる。

 それに頬を寄せて、何度か擦り付けると、安心する。

 心地がいい。

 その感触は、まるで……。


「……ルシ……ファ……」


 目を開くと、私の頬に手を当てた、ルシファーがいた。

読んでくださってありがとうございます。


明日から、章整理をします。

お見苦しい点もあるかと思いますが、よろしくお願いします。

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