恋の結末
一気に目が覚めて、飛び起きると、私はルシファーに抱き上げられていた。
「体調が悪いと聞いた。なぜあんなところで眠っている……体に障るだろう」
咎める声も以前と同じで、胸がぎゅっと絞られるように痛い。思わずその首にすがりついて、額を寄せた。
「マリア……」
「どうして来なくなったの?」
「それは……」
「どうして、どうして……」
言葉にならない感情が、形にならないまま唇から溢れる。
「……そなたが……恋をしたからだ」
私が魔王を好きになったのが、いけないってこと……?
私に思われたくななら、あんな思わせぶりな態度、取らなければいいのに。
「……ルシファーのせいでしょ!」
思い切りその胸を叩いて、暴れてやる。あんな風にされて、勘違いしない女性がいると思っているのかと、怒りがふつふつと湧いてくる。
「そうか……私のせいか……。確かに、私では、お前に釣り合わない」
「悪かったわね! 私なんか、魔王様に不釣り合いな庶民で!!」
私の怒鳴り声に、ルシファーが私を凝視する。
「マリア、勘違いするな。私がそなたにふさわしくないと言っている」
「え、だから、私が……。ん? じゃあ、一体、私が誰に恋してると思ってんの?」
「バティムだろう?」
切なそうに眉根を寄せたルシファーに、思い切り顔面パンチを食らわせてやる。
「いっ! ……流石に痛いぞ、それは」
それから、意を決して、私は文句を言う唇を塞いでやった。
「………!!!!!!」
ガチッと固まったルシファーが、不自然な動きで私を応接間のソファに下ろす。正面に立ちすくむルシファーが、ゆっくりと後ずさる。その手を掴んで、引き止めた。
「ま、マリア!? ど、同情なら、わ、私は……」
「バティムは、好きだけど、そう言う好きじゃないよ。お兄ちゃんみたいなものだから……」
「それは……」
「流されたくないって思ってたけど、ルシファーに会えなくて、やっとわかった」
ルシファーは、じっと私を見つめている。その目はとてもまっすぐで、宝石のようにキラキラと綺麗だ。仄暗い室内の、ロウソクの光を受けて揺らめく。
「好きみたい」
言った瞬間、もうこのまま恥ずか死ぬと思った。逸らしたかった視線なのに、ルシファーの瞳がゆらゆら揺れて、いっそうキラキラ光りだすのを見て、釘付けになる。
「ありがとう」
そう言ったルシファーの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。ルシファーの両手を掴んで、屈ませる。
近づいた頬を伝うその綺麗な涙を指で拭う。次から次に溢れるそれを、止めたくて両頬を包み込んだ。
「誤解させて、ごめんなさい。そんなこと、気にしてるなんて、思わなかった」
「ーーマリア、そなたはいつも私を拒んだ。……流されないと」
彼はまた悲しい顔をしていて、私が知らずにつけた傷の深さを思う。
「その意思を尊敬していたが、それが歯がゆかった。バティムにはあれほど無邪気に微笑むくせに、私が近づくとそなたは強張る」
「そ、それは好きになってたからでしょうが!」
「そうなのか?」
「た、多分ね。いま思うと……。普通は、気になる人に至近距離で近づかれたら、緊張するでしょ」
言い訳を続ける私は、ルシファーにふわっと抱き寄せられて、驚く。
「私は、そなたに触れると、安心する」
ルシファーの体温を感じて、私もそう思った。
「……うん、そうだね」
抱きしめ返すと、ルシファーの体がに緊張が走る。
「どうしたの?」
「……いや、マリアにそうされると思っていなくてな……その」
照れていやがる……!
なにこれ、可愛いんですけど!!
「ねー? 恥ずかしいでしょー?」
「わ、悪かった」
「悪くはないけど」
ふふと笑って、ソファの隣を手のひらで軽く叩いて促す。
「ここに座って。ずっと会えなかった間に、話したかったことが溜まってるんだよ」
「……会えなかった?」
「ルシファーは、私やこの子に会えなくて、さみしくなかったんだ?」
お腹を撫でながら嫌味を言ってやると、ルシファーは少し考えてからしれっと自白する。
「いや、私は毎晩、そなたの寝顔を見に来ていたからな」
「ーーーールシファー!!」




