マリアの決意
ドカーンっと噴火してやろうかと思うくらい腹は立ったけれど、全く好みじゃないのが功を奏して、とても冷静に判断できた。
「……今はその気はないですけれど、お話したいわ」
にっこりと微笑むと、そのままくるりと踵を返した。
おおおお、人生でこんな返ししたの、生まれて初めてですけど。
打算的で悪いけど、これからの人間界と魔界について、一度このチャラ勇者と話し合いをしなくちゃいけないとは思ってたし、ちょうど良い。
「……待って! 君の名前は?」
前前前世からって、流れ出しそうだったけど、踏ん張って答える。
「マリア。忘れないで」
周りからため息が聞こえてくる。
あぁ〜〜、美人って良いなぁぁ〜〜。
楽しいなぁ〜〜。
一連のやり取りで、人の海が割れて、道ができる。
他人事のように、その状況をエンジョイしながら、その道の真ん中を歩く。
しまった、それどころじゃなかった。
ここから村の外れまで、行くのはさほど遠くない。急ぎ足から小走りに変えて、目的地に急ぐ。
すると、遠くに人影が見えた。
人影が誰か確認しようと目を凝らしたときに、エリゴールの尖った声が聞こえてきた。
「じゃあ、あなたが前魔王の妃だというのですか」
バババババレてる〜〜〜。
やっぱりアンナはバラしちゃったかぁ……。
「そうよ。ーー記憶はないけど」
「またか〜」
マルバスのうんざりした声がして、毎度危機感のない悪魔たちだとホッとする。
「じゃあ、この人を生贄にすれば、魔界は安泰なんでは?」
気づいてしまったナアマが、エリゴールに話しかける。やっぱりずる賢いなぁ。
「それは私が判断することではない」
エリゴールの堅物さに心から感謝する。ここからどうなっていくのか、見守りたい気持ちもあるけれど、埒が明かなそうなので、出ていくことにする。
「マリア様! どちらにいらしたんですか!? 心配したんですよ!?」
「なんですか! バアル様をこのような得体のしれない人間に預けて!」
「あ、甘い匂いする! なんか美味しいもの食べたでしょ!」
口々にあれこれ言われて、聖徳太子じゃない私は、ゆっくりと一人一人に向き直った。
「一気に言われると、わかんない。あの、確かに、バアルをアンナに預けたのは軽率だったわ、ごめんなさい。でも、この人は信頼できる」
「……なんの根拠が?」
それを言われると、厳しいのだけど、この人はルシファーと同じ匂いがする。そんな感覚、悪魔にわかってもらえるだろうか。
言葉に詰まっていると、アンナが助け舟を出した。
「……私は、あの石に見覚えがあったのよ」
そういって、アンナは私を見る。この世界の石の話は、伏せておきたいようだった。
「なるほど」
信憑性を感じたのか、エリゴールが片眉を跳ねあげた。
「私、生贄になったっていいのよ……でも、あの子に会いたい」
アンナは、唇を噛み締めて、ゆっくりと目を伏せた。
「私の子供なら、会いたい……会って、抱きしめたい」
悲痛な母親の声が、森に響く。あまりに切なくて、駆け寄った。一歩間違えば、私だって同じ思いをしていたかもしれない。
「アンナ……ううん……お母さん」
その震える体を抱き寄せた。その肩は、思っていたよりもずいぶんと華奢で、虚勢を張っていたのだとわかった。
「ルシファーに、会いに行こう」
はっきりと言い切る。そのセリフに、アンナの体は一段と大きく震えた。
「そ、それはあまりに危険です、マリア様」
「そうですよ! あそこにはアガリアレプトの兄で現魔族軍総帥がいるんですよ!」
「わざわざ死にに行かなくてもいいと思うけどなぁ〜」
案の定、大反対を受けて、まぁ、そうなるよねとバアルを見た。
「バアルはパパに会いたいよね〜」
バアルに手を伸ばして、同意を得ようとすると、バアルは森の向こうを指差している。
「あー!」
「ん? どうしたの、バアル?」
指差す方を見やると、そこには剣を構えた勇者が立っていた。




