↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/76

過去の記録

 ーーーー共犯者になれ……。


 魔王の言葉を何度も反芻する。

 魔王がこの世界を壊すメリットって、なんだろう。

 この世界がある限り、彼は王様でいられるのに。


 魔王に連れられて、私は人間の村に行った。

 食事をとらない私を心配して、人間の村になら、食べ物があるだろうと彼は言った……。


「ここが、人間の村?」

「……俺の母はここに転生したらしい」


 ルシファーは、淡々と話す。

 麦だろうか、畑は黄金色に光って、風にうねる。


「母のことを知る人間がいないか、幼い頃、何度も通った。でも、不思議なことに誰も知らない。人と悪魔の時間は流れ方が違うのかもしれないな」

「……寂しいの?」

「寂しい……? それは良く分からないが、母は生贄になる日に消えた。殺されると知っていれば、それも当然だろう……ただ、私も……行きたかったのかもしれないな」

「ここは、嫌い?」

「好きも嫌いもない……ただ、私はこの世界のために戦うだけだ」


 そう言って、私のお腹に手を当てる。

 ひときわ強く風が吹いた。

 ルシファーの髪が、たなびく。


「ただ戦うだけの人生は、これにはさせたくない」

「この世界は、あなたのものなんでしょう?」

「欲しいか?」


 ルシファーはおかしそうに笑った。

 そんな笑顔は、まるで人間のようで、ドキッとする。


「人間はいいな。生きるも死ぬも自由だ」

「そんなことない。人間だって、あれこれ縛られてるわよ。そんなこと言ったら、動物だって、生きるために戦ってるんだから。私だって、あっちの世界じゃ毎日仕事して、いびられて……」

「わかったわかった、悪かった」


 降参のポーズでルシファーが手を上げた。


「……子ども、産めないと思ってたわ。毎日毎日仕事でいっぱいいっぱいで、恋愛する時間もなかったし」


 そこまで言って、首を振る、

 ちがう、それは、言い訳かもしれない。


「好きな人って、作ろうと思っても作れないんだよね。まぁ、私が不器用なだけかもしれないけど」


 まわりはいつだって、誰かに恋をしてたのに。お洒落をして、好きな人のことであれこれ気を揉んでいた。


「そんな状態なのにさ、結婚相手を探せなんて、無理。そこから妊娠出産育児って続くなんて……とてもじゃないけど」

「人間の慣例はわからんが……今回の手順はめちゃくちゃなようだな」

「まぁ、覚悟のない私には、ちょうど良かったのかもね。ずっと子どもはほしかっ……」


 影が差して、真っ暗で何も見えない。驚いた瞬間、至近距離で真っ赤な目が覗き込んでいた。


「これも、初めてなのか」


 ドッドッと、心臓が口から出てきそうになる。


「……逆の手順でもいいだろう。子を成して、それからでも」


 唇の感触が生々しくて、両手で覆う。


「この状況で、子どもの誕生を喜べるお前はすごい。運命を恨まない、お前のその気質がこの子に宿るといい」


 ルシファーは立ち上がり、私に手を差し伸べた。顔から蒸気が出そうなほど、紅潮しているのがわかる。

 その手を取ると、引き上げられる。


グゥ〜キュルルルルルル〜。


 地鳴りのような腹の虫が鳴った。クックックと肩を揺らして、ルシファーが言う。


「この植物、お前が食べられるといいのだが」


 気まずくて、このまま逝ってしまいたい。何で赤くなっているのか、もうわからない。


「魔王様」


 色黒の女の子が、畑からひょっこり顔を出した。


「おぉ、マンバ。この者に何か食べさせてやってくれ」


 マンバと呼ばれた女の子は、なんだか渋谷にいそうな出で立ちだ。


「アンタ、誰?」

「……私、マリア」

「あー、アンタが、魔王様のオンナなんだ」

「お、オンナ!?」


 口の悪いその子に、私は警戒心を強める。


「マンバも異世界から転生してきた。これは、聖女なのだ」

「せ、聖女? この、この子が??」

「は? なんか文句ある? アンタ、まじムカつくんですけど」

「まぁ、正しく言えば、聖女だった、か。子を産んだのでな。主な力は娘に移行したようだが」

「……え、そうなの?」

「まだ多少なら、力は使えるようだがな」


 二人の話に付いて行けなくて、ずっと目を白黒させているので精一杯だ。


「ていうか、この村って……」

「ここにいる者はみな人質だ」


 そういうことなのかと、やっと納得する。理由もないのに魔界に人間の村があるなんて、奇妙すぎる。


「だが、この女は特別だ」


 マンバが得意げな顔を私に見せる。もしかして、ルシファーは、この子のことが……。


「ーーーーなにせ、勇者の子を宿した女だからな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。