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第28話 「街はずれの廃倉庫にて」


――◇――◇――◇――◇――◇―


「そうだ! 『ホワイトフェザー』は実は存在しない人間なのだよ!」


 帝国の高級将校、ザルモゥ中佐が得意げに話していた。


 市街地から離れた廃倉庫。付近には民家はおろか、建物ひとつない。元は軍備を貯蔵するためにつくられたもので、鉄とコンクリートで作られた外壁は、銃弾すら通さない造りになっていた。


 彼らがいるのは、その倉庫の二階であった。

 巨大な通信機器に背を向けているザルモゥ中佐。彼の話を聞いているのは、ギムガを含む四人の男たちだ。そして、部屋の中心には。イスに縛り付けられたユーリィの姿があった。


 それだけではない。廃倉庫の一階には、ザルモゥの同士が終結していた。皆、軍に所属していた荒くれ者たちで、今の環境に不満を持っている過激派の連中であった。


「我が帝国は長きに渡って、その人物の正体を探ってきた。戦場の悪魔である登録魔術兵士たち。その中でも、最も異質で恐れられた存在。名前だけ知れ渡っているのに、正体だけは依然として不明のまま。帝国の情報部としても、総力を挙げて情報を収集したが、結局は何もわからなかった」


 ザルモゥが薄い笑みを浮かべる。

 それは自嘲するというよりも、他者の無能さを蔑んでいるように見えた。


「戦争が末期に近づくころになって、情報部もようやく『ホワイトフェザー』の存在について懐疑的になった。もしかしたら、本当は実在しない人物なのではないか、ってね。私が言い出しても聞かなかったくせに、手遅れになってから、ようやく過去の記録を洗い出していたよ。あれは傑作だったね」


 含み笑いを漏らしながら、両手を大きく広げる。

 舞台の演者でも気取っているのか、自分の吐く言葉ひとつひとつに酔いしれているのが窺えた。


「しかし、戦争が終わるほうが早かった。『ホワイトフェザー』の調査は打ち切られて、その謎は迷宮入りさ」


 そう言って、天井を仰ぐザルモゥ。

 頼りない電球が揺れて、その表情に影を落とす。何を考えているのかわからない顔だった。


 だが、突然。彼は視線を正面に向けると、そこにいるユーリィへ掴みかかったのだ。その表情は、狂気に歪んでいた。


「それでも、私は諦めなかった! 自分の正しさを証明するために、奴の研究を続けた! 終戦間際にお前を解き放ったのも、そのためなんだよ!」


 ぬらり、なじるようにユーリィを見つめて、その小さな顎へと手を伸ばす。


「ユーリィ、と名乗っているそうだな。……おかしいな。お前たち家畜に名前などなかったのに。誰がお前のような、人の形をした家畜に名前をつけたんだろうな」


「……」


 ユーリィは何も答えない。

 無表情という仮面を顔に貼り付けて、じっとザルモゥのことを見ている。


「まぁ、いいさ。どうせ、その名前も今夜までだ」


 にやり、と気味の悪い笑みを浮かべる。

 彼のことを見ていたギムガたちも、何を考えているのかわからない不気味さを感じていた。


「さて、ホワイトフェザーの話に戻ろうか。その人物の戦歴には、おかしな矛盾がいくつもある。ルザンという街で我が国の戦車隊を壊滅させたあと、翌日には100キロメートル離れた場所で国境線であるゼア河の防衛に参加している。だが、当日の悪天候ではどう考えても、その場所にたどり着くことができない。そこから考えられることは何か!?」


 ザルモゥは得意げな表情を浮かべた。


「ホワイトフェザーとは、特定の個人ではなく、複数の人間によって組織されたものだったのだよ!」


 ふふふ、と腹の奥底から笑っている。


「我が帝国は騙されていたのさ! 共和国の豚どもは巧みに情報操作を行って、ありもしない英雄を作り上げた。戦意高揚のためのプロパガンダさ。俺たちには英雄がいる、いざとなったら英雄が助けてくれる。そんな幻想を味方に植え付けて、戦場で死ぬように仕向けた。……ははっ、滑稽な話だろう?」


 ギムガたちを見ながら、ザルモゥの演説は続く。


「だが、笑ってもいられない。我らの帝国も、そのような嘘に騙されて和平条約を結んでしまったのだからな。だが、それも終わりだ。戦場の死神『ホワイトフェザー』が実在しない人物だと知れ渡れば、我が国の同胞たちが一斉蜂起するだろう。……戦争の復活さ!」


 上機嫌に話し続けるザルモゥ。


 そんな彼を見ていると、ギムガたちも困惑してくる。戦争がしたいなら勝手にすればいい。だけど、ちゃんと約束を守ってくれるのだろうか。

 その不安に耐えかねたギムガが、彼に尋ねる。


「なぁ、ザルモゥさんよ。これから戦争になることはわかったけど、俺たちはどうするんだ? ちゃんと帝国に連れていってくれるんだろうな?」


「そ、そうだぜ!」


「遊んで暮らせる生活ができるっていうから、この女を連れてきたんだ! 今更、約束を破ったりはしないよな!?」


 取り巻きたちは、自分たちにつけられた青痣に手を当てながら、ユーリィのことを見る。

 彼女はまるで他人事のように反応を示さない。その光景に、ザルモゥは機嫌が良さそうに笑う。


「ははっ、君たちは何を言っているんだい? この家畜に手を出そうとしたくせに」


 ザルモゥは彼女に近づくと、その頭に手を載せる。

 そして、ねっとりとした手つきで黒い髪を撫ではじめた。


「君たちの傷を見れば、だいたい予想できるよ。ここに連れてくるまでに、どこかに連れ込んで愉しむ・・・つもりだったんだろう?」


「ぐっ」


「そ、それは」


 ザルモゥの指摘に、彼らは黙り込む。

 そんな不良たちを前にして、ザルモゥは終始ご機嫌だ。


「ははっ、無駄無駄。このメス豚には魔術兵士を殺すために様々な調教を施しているんだ。暗殺術、格闘術、各種銃器の扱い。ベッドで同衾中の男を殺す訓練さえ受けている」


 彼の厭らしい手つきにも、ユーリィは絶えず無表情だった。


「まして、こいつは。当時は正体不明だったホワイトフェザーを殺すために作られた特別製だ。君たちのような不良では、相手になるわけがないだろう」


 そこまで言って、ザルモゥは彼女に顔を向けた。

 その視線には、嫉妬のような感情が入り混じっていた。


「そういえば、お前は。シロー・スナイベルという男子生徒と仲が良さそうだったな?」


「……」


 ユーリィは何も答えない。

 人形のように虚空を見つめている。


「実を言うとな。事前の情報から、あのスナイベルには様々な疑惑があったのだ。もしかしたら、奴はホワイトフェザーの関係者かもしれない、と疑っていた。……まぁ、それも勘違い甚だしいがな」


 突然、ザルモゥが奇声のような声で笑いだす。


「学園のランク戦で負ける程度の下手クソが、我が素晴らしき帝国に歯向かえるはずがないからな!」


 耳障りな高笑いが響く。

 そんな中、わずかにユーリィが視線を上げる。

 窓の外には、相変わらず激しい雨風が吹いていた。


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