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第23話 「ランク戦が終わって、保健室で」


――◇――◇――◇――◇――◇―



「……」


 シローは目を覚ますと、眼前にある天井をじっと見つめる。


 場所は、学園の保健室だ。

 ランク戦で負傷したり気絶したものは、ここに運ばれてくる。


 その怪我が重傷、もしくは精神に異常をきたすものであった場合は、学園都市の病院へと送られることになる。相手チームの姿が見えないということは、誰かが病院に搬送されたのか。ランク戦での病院送りは日常茶飯事ではあるが、それでもシローの気分は優れない。


 朦朧とした意識の中で見た、ユーリィの姿。

 心のない暗殺者のように銃を撃っていた彼女が、頭から離れない。


「よう、起きたか?」


 シローが目を覚ますのを待っていたのか、近くのイスに座っていたゼノが手を上げる。


 口調はいつもと同じだったが、彼の表情は硬い。

 その理由は、何となく察することができる。


「ユーリィは?」


「職員室だ。まぁ、あれだけ暴れたんだ。教官に呼び出されても当然だな」


 ゼノが肩をすくめる。


「シロ、俺たちは負けた。ユーリィの行動が、戦闘不能者に対する過剰攻撃と指摘された。……反則負けさ」


「そうか」


 シローは生返事をする。

 今は、ランク戦の結果なんてどうでもよかった。


「……彼女は、何か言っているのか?」


「さぁな。俺もよくは知らねぇよ」


 でもな、とゼノが続ける。


「何の訓練もしていない奴が、帝国のサブマシンガンを片手で撃てるわけがない。ユーリィみたいな小柄な子だったら、肩が外れてもおかしくはないんだよ」


 そんなゼノの言葉に、シローは視線を外す。


 彼が何を言おうとしているのか、聞くまでもなかった。

 彼女は、……ユーリィ・ミカゲという女の子は。ここではない、どこか違う国で、ある目的のために訓練された人間である、と。


「なぁ、シロ。この間の歴史の授業を覚えているか?」


「……忘れたよ」


 シローは嘘をついた。


 保健室の窓のほうを見つめては、目を細めている。

 現実から目を背けているような友人に、ゼノは深いため息をついた。


「これは、教官にも言っていないことなんだどな」


 そう前置きをしてから、ゼノが語りだす。


「あのランク戦の最後のことだ。俺は銃声を聞いて、美術館の二階へと駆けつけた。そこで何があったと思う? ユーリィは俺の姿を見た途端、急に襲ってきたんだぜ。感情のない人形のような顔をしてよ」


 ぼりぼりと頭を掻きながら、ゼノは続ける。


「正直、ぞっとしたね。あれは人間としてではなく、武器や兵器として育てられた類いのものだ。お前の女じゃなかったら、その場で叩き潰していたぜ」


「……俺の女じゃない」


「はっ、何を言っているんだ。あの子をこっそり部屋に匿っていることくらい、もうバレているんだよ」


 ゼノがからかうように笑った。

 だが、不意に真面目な顔になって、シローのことを見据える。


「なぁ、シロ。覚悟だけはしておけよ」


「何の覚悟だ?」


「惚けるなって。あの子の正体についてだよ」


 ゼノが真剣な目で睨む。


「ユーリィが帝国側のスパイだったら、お前たちは今までのような関係ではいられない。終戦を迎えた帝国が、自分たちに不利になるような存在を放っておくはずがないだろう。……まして」


 一度、息をついてから彼は言う。


「……『ホワイトフェザー』の正体が明るみになったら、また戦争になるぞ。英雄と呼ばれた狙撃手は、正体不明だからこそ戦争の抑止力になっている。そのことを忘れるな」


 それだけ言うと、ゼノが立ち上がった。


 そのまま挨拶もなしに保健室を出ていく。

 シローも彼を呼び止めるつもりはなかった。何かを考え込むように、じっと窓の外を見つめている。


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