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第24話 「帰りたい場所」


――◇――◇――◇――◇――◇―


「それでは、これでランク戦での行き過ぎた暴力行為についての聞き取りは終了とする。ザルモゥ中佐、あなたから何かありますか?」


「いえ、何もありませんよ。……ふふ」


 戦闘指導の教官からの問いに、帝国軍人のザルモゥは薄く笑う。

 臨時の監視教官役をしていたため、この聴取に参加していた。個室の真ん中で座っているユーリィのことを眺めながら。


「ふふっ。きっと戦闘に熱中してしまったのでしょう。模擬戦ではよくあることではありませんか?」


「それはそうですが、彼女の場合はやり過ぎです。首を絞めて、意識のない者を人質にしたうえに、頭部に向けて発砲。まともな人間のやることではありません」


 ザルモゥの擁護するような言葉に、教官は難色を示す。


 この少女をこのまま放置していてもいいのか。そうは思うのだが、彼女はグラン学園長の管理の元、この学園に通っている。他の生徒と同じように扱うわけにはいかない。


 教官は少し考えた後、頭を軽く振る。

 そして、目の前に座っているユーリィへと声をかけた。


「……ザルモゥ中佐に感謝するんだな。もし、お前が普通の生徒であったなら、厳しい処罰を言い渡していたところだ」


 その言葉を聞いて、ユーリィはわずかに視線を上げる。

 そして、怯えと恐れの混じった目で、教官の隣に立つザルモゥを見た。


「……ありがとうございました」


 ぺこり、と行儀よく頭を下げると、彼女は職員室を後にした。

 ユーリィのいなくなった部屋で、教官は自分でも知らないうちに溜息とついた。


「ふぅ。結局、詳しいことは何も言わなかったですな」


「ふふっ、難しい年頃なんですよ。我々には話したくないことが、きっとあるのでしょう」


 ザルモゥと教官が言葉を交わす。


「あれくらいの年の子供には、言葉で言い聞かせてもダメです。もっと厳しくしないと。それこそ、恐怖で体が震えるくらいにね」


「ほぅ、ザルモゥ中佐は彼女のことをご存じで?」


「ははっ、まさか。初対面ですよ」


 ザルモゥがはぐらかすように笑うと、用事があるといって部屋を出ていった。


 最後に残された教官は、その扉が閉まると、それまで事務的だった顔に感情を浮かべる。怒りと、ある種の使命感。教官もまた、平和を望む軍人であった。


「……帝国の過激派め」


 教官は備え付けの電話に手を伸ばすと、学園の一室へと繋げる。


「……あぁ、グラン学園長ですか? ご報告したいことがありますので、今からそちらに向かいます」



――◇――◇――◇――◇――◇―



 ……どこへ行こうか。

 ユーリィは職員室を出た後、あてもなく学園をさまよっていた。


 帰りたい場所がある。

 でも、帰れない。


 ランク戦でのことを聞いたら、シローはどう思うだろう?

 きっと、今まで通りには接してくれない。人を殺すことを習慣づけられた、この体。大切な人を目の前で奪われたと思い、勝手に体が反応してしまった。相手が死ななかったのは、運が良かったからだ。

 あの時の私は、本気で殺す気だったはずだ。


「はぁ、どこに行こうかな」


 学園の廊下を歩きながら、外の景色を眺める。

 今も多くの生徒が、自分たちの技術を磨くために頑張っていた。私もその一員になれたことが、今は少しだけ誇らしかった。


 普通の学園の生徒として。

 普通の女の子として。

 友達と喋ったり、ご飯を食べたり、放課後に好きな人と一緒にいたり。

 そんな時間を過ごせたことが、何よりの宝物だ。


 きっと、もう。

 こんな幸せは二度と訪れないだろう。


 あの帝国の軍人は、私のことを知っていた。この学園にも、私の正体に気がついた人がいるはずだ。その中に、自分の想い人がいることは想像に難くない。


「……しょうがないよね。だって、私は―」


 不意に目の前に現れた彼らを見て、ユーリィは全てを悟る。


 いつしか、学園や学園都市で絡んできた不良たちだった。

 名前は確か、ギムガといったはずだ。以前と同じように、ヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべている。


「おい、いたぜ」


「よぅ、チビ女。飼い主さんがお待ちだぜ」


「へへっ。これで俺たちも帝国にお呼ばれされるっ、てわけだな」


 彼らはユーリィのことを囲むと、その腕を乱暴につかむ。


 彼女は抵抗をしなかった。

 むしろ、にこりと微笑んでみせた。


「……私は、『不幸体質(シンデレラ)』。幸せを望んではいけない」


 ユーリィは男たちに腕を引っ張られながら、これまでの人生を振り返っていた。

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