第12話 「もう一人のチームメイト」
オルランド魔法学園には、主に四つの専攻科がある。
《普通歩兵科》、《狙撃兵科》、《衛生兵科》、《砲兵科》。
その中でも、最も潤沢な資金が用意されていて、様々な優遇がされているのが《砲兵科》だった。
砲兵とは、大砲を専門的に使う人間のことである。
古くから、大砲とは戦争の最大戦力であり、帝国との戦争でも共和国に甚大な被害をもたらした。
戦争末期。
魔法を使う兵士、……『魔術兵士』の中には、爆発系の魔法を得意としているものがいた。彼らは、魔法による機動砲兵として広く活躍した。
そのことを教訓に、オルランド共和国軍は砲兵に力を注ぐようになった。大砲を制するものは戦争を制する、と言わんばかりに、湯水のように金を注ぎ込んでいる。
それは、この魔法学園でも例外ではない。
魔法学園に《砲兵科》が設立されたのも、軍の意向が強いと言われている。国から手厚い支援が送られて、将来が有望とされていれば、多少の例外が認められるほどだ。
例えば、……女子寮に引きこもっていても退学にならない、とか。
「それで、そのミリアさんは、どういった魔法なんですか?」
「あ、あぁ、……そうだな」
ユーリィの質問に、なぜかシローは言葉を濁す。
なるべくなら、関わりたくない魔法、というのが彼の本心だった。
「一言でいえば、爆発と炎だ。広範囲を爆破して焼き払う。まさに《砲兵科》にうってつけの魔法ってわけだ」
そんなシローの一言に、誰よりも早くゼノが反応する。
「やっぱり、あいつの力が必要なんだよ! ランキング50番台に負けているようじゃ、いつまでたってもトップにはなれねぇぜ!」
ゼノは大声でわめきながら、食堂の入り口にある『学園ランキング』を指さした。
今、シローたちのチームは、一番左端から、ひとつ隣に載せられている。ランキングは99位まで下がっていた。
「ミリアの火力があれば、そこらのチームなんか一瞬で消し飛ばせるぜ!」
「そ、そんなに凄いんですか!?」
「おうよ! あいつの魔法は、まさに軍隊の砲撃みたいなもんだからな!」
ゼノが親指を立てながら、調子のいいことを言っている。
確かに、彼女がチームに合流すれば、今後のランク戦がとても楽になるだろう。ゼノが言っている、軍隊規模の火力、というのもあながち間違っていないのだから。
だが、この男はわかっているのだろうか?
それだけの魔法が使えるのに、なぜ問題児扱いをされているのか。シローは勝手に盛り上がっているゼノと、それに釣られているユーリィを見て、少し心配になっていた。
「よっしゃ! それじゃ今度の週末にでも、ミリアの奴を迎えに行くか!」
「はい、いいですね」
「なんたって、魔法学園のランク戦だからな。誰か一人くらいは、魔法を使ってもらわねーと」
「はい、そうですね。……あれ?」
ふいに、ユーリィがシローへと尋ねる。
「そういえば、シローさんの魔法も、ゼノさんの魔法も、私は知らないんですね。おふたりは、どんな魔法を使えるのですか?」
「……っ!」
「……おぅ、そこを聞くか」
彼女の当然ともいえる質問に、シローもゼノも声を詰まらせた。
じっ、とユーリィの視線を感じていたシローは、そっと横を向く。
「……俺の魔法は、たいしたことはないよ」
その声を聞いて、楽しそうに笑ったのはゼノだ。
「はっはっは、シロの魔法がたいしたことないなら、この魔法学園にいる奴らはゴミくずになっちまうな」
黙り込むシローに、楽しそうに笑うゼノ。
そんな二人を見ながら、ユーリィは更に首を傾げた。
「え、えっと?」
「あぁ、簡単に言うとな。シロの魔法はすげーものなんだけど、なかなか使いどころが難しくてな。特に、学園のランク戦なんかじゃ、まず使うことがないだろう」
でもな、と彼は続ける。
「シロの魔法は、マジでとんでもないものだ。いつか見る機会があったら、ちゃんと見ておくといい。それがシロの本当の実力だ」
ゼノは上機嫌に笑い続ける。
「ちなみに俺の魔法は、この生き様よ! 負けない、挫けない、何度でも立ち上がる。これこそ俺が、俺様であるための力だぜ!」
誰もいない食堂で、ゼノが高く指を突き上げる。
シローはそんな彼を見ながら、上手く言い逃れするものだ、と感心していた。
嘘はついていないし、ゼノの魔法が何なのか聞かれたら、こういった答えになるかもしれない。
……まったく、喰えない奴だ。と胸のなかで苦笑する。
――◇――◇――◇――◇――◇――
翌朝。週末の休日。
シローとゼノは、学園の女子寮の前まで来ていた。
男子生徒は女子寮に入ることはできない。入るためには寮母の許可と、中を案内する女子が必要になる。今頃、ユーリィが手続きを行っているはずだ。
ちなみに、女子が男子寮に入ることは禁止されていない。注意はされるが、その程度だ。男女不平等にもほどがある。
「おせーな」
「黙って待ってろ。これ以上、面倒事を起こすなよ」
女子寮から出てくる生徒にジロジロと見られながら、シローは溜息をつく。
じっと待つことが苦手なゼノが、目の前を通る女子に、片っ端から声をかけていたのだ。「へい彼女、今日は暇かい? 俺と一緒にお茶なんてどうだ? お前に甘い夢を見せてやるぜ?」……などといった軽薄なナンパを続けていたせいで、たまらず寮母の人が飛んできたのだ。それから、思いっきり叱られることになった。
「ったく、おかしいよな!」
「何がだ?」
「この俺様が声をかけているんだぜ。女の一人や二人、ホイホイとついてきそうなものなんだが」
女子寮の塀に寄りかかりながら、ゼノが不満げに呟く。
その顔は、どこまでも真面目だった。
「やっぱり、アレだな。シロの辛気臭い面構えが良くないんだな。俺一人だったら成功するに決まっている」
「……お前は、普段の自分の行動を見つめなおしたほうがいい」
食堂でいきなり大声を出したり、血の気が多くて喧嘩ばっかりしたり。話題に事欠かせない男に、喜んで近づく女子がいるわけがない。
「それに、リーシャ嬢に見つかったら、まだ叱られるぞ?」
「……そ、そいつは勘弁だな」
ゼノが冷や汗を滲ませながら渋面を作る。
彼にとって、とても縁のある女生徒にこんな場所を見られたら、きっと無事ではすまないだろう。ゼノが唯一、頭の上がらない人の名前を出して、ようやく彼は静かに待たせることができた。
それから、しばらくして。
ユーリィが女子寮から姿を見せた。やはりというべきか、休日でも学園の制服姿であった。
「す、すみません。遅くなってしまって!」
「いや、大丈夫だ。何か問題でもあったのか?」
「……えーと、ですね」
えへへ、とユーリィが笑う。
「まだ、寮母さんに顔を覚えてもらえていなかったみたいで、学園の生徒だって信じてもらえませんでした」
「……そ、そうか」
なんて不憫な子だ。学園関係者にも、まだ顔を覚えてもらえないなんて。
「あと、ゼノさんが一緒だと言ったら、またひと悶着ありまして」
「それは仕方ない」
シローはきっぱりと言う。
あれだけ騒ぎを起こした男を、女生徒の園に入れようというのだ。黙って見過ごすほうがおかしい。
「でも、ミリアさんのことを話したら許可が取れましたよ。……穏便に接してほしいとも」
「……と、いうことだ。ゼノ、言葉と態度には気をつけろよ」
「おうよ、任せろ!」
ゼノは握り拳を作りながら、今日一番の笑顔を浮かべる。
本当に大丈夫だろうか、と心配になってきた。




