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第11話 「二回目の勝敗」

 翌日。

 オルランド魔法学園では、衝撃のニュースが飛びかっていた。

 あの最下位だった『臆病者』のチームが、ランク戦で初めて勝利をしたというのだ。


 噂では、腕の良い狙撃手を、……しかも、中等部(・・・)の女子をチームに仲間に入れた。ということになっている。


「な、なんか、視線を感じますね」


「気にするな」


「そうだぜ。今頃になって、俺たちの実力に気づくなんて遅すぎるんだよ」


 食堂の一番隅の席で、シローたちが昼食を食べていた。

 それまで、彼らに嘲笑を向けていた人間も、今では戸惑いの表情を浮かべている。特に、シローの後ろをちょこちょこと歩くユーリィには、自然と視線が集まっていた。


 ……あい、あの女の子だぜ。凄腕の狙撃手っていうのは。


 ……小さい子だな。本当に中等部の生徒か?


 ……もしかしたら幼年学校の子かも。


 ……でも、ちょっと可愛い子だな。


 いろんな憶測が飛び交う中、シローとゼノは涼しい顔で食事を続ける。

 唯一、ユーリィだけが慣れていないようで、肩身の狭い思いをしていた。


「とりあえず、初勝利だ! これからどんどんいこうぜ!」


「まだ、一回勝っただけだろう? あまり調子に乗るなよ」


 そうは言ったものの、シローも自然と食堂の入り口へと視線を送る。

 そこに掲示されているのは『学園ランク戦の勝敗』と『学園ランキング』。いつも一番左端の100位にあった名前が、昨日の勝利でわずかに順位を上げていた。


「俺たちの順位は92位か。学園のトップまでは、まだまだ先が長いぜ」


「……なぁ、ゼノ。本当にトップを目指すつもりなのか?」


「おうよ! やるからには本気で一番を目指さねぇと! それが、俺の生き様よぉ!」


 ゼノが骨付き肉を頬張りながら、食堂にいる人に聞こえるように高らかと宣言する。


「いいか、てめぇら! よく聞いとけよ! これか俺たちは、勝って、勝って、勝ちまくって! 絶対に学園のてっぺんに登ってやるからな!」


 食堂のテーブルに足をのせて、人差し指を天井へ突き上げる。

 その自信満々の態度から、あのチームなら本当にやるかもしれない、と他の生徒も思うほどだった。


 ……だが、実際はそうはならなかった。


 初勝利から三日後。

 ユーリィがチームに入ってから、二回目のランク戦で。

 シローたちは、……あっけなく敗北した。



――◇――◇――◇――◇――◇――



「ぷぷぷっ、見ろよ! あいつらの顔を!」


「くくっ、止めろって! 笑いが止まらなくなる!」


 夜の食堂。

 夕食を食べに来た生徒たちは、必死に笑いを堪えていた。

 ランク戦を終えて帰ってきたシローたち。彼らのチームは全員、……燃えカスだらけの、黒焦げになっていたのだ。


「くそっ! しくじったぜ!」


 ゼノが盛大に悪態をつく。

 彼は全身を黒焦げにされたあげく、見事なアフロヘア―となっている。その隣では、シローとユーリィが申し訳なさそうに肩を並べていた。


「……ごめんなさい。私のせいで」


「……いや、俺も迂闊だった」


 二人は髪形こそ変わりはなかったが、顔中が煤だらけになっている。着ている服も、真っ黒に焦げついていた。


 二度目のランク戦は、放課後の夕方に行われた。

 相手はランキングは58位。

 《普通歩兵科(アサルト)》に所属している四人で作られたチームだった。

 ランキング50番台となると、この学園でも中堅の実力を持っている。前回のように簡単には勝てないと思い、シローたちは念入りに準備を進めていた。


 この時点では、勝てる見込みは十分にあった。

 ゼノが単独で攻め込んで、相手の陣形が崩れたところを、一人ずつ狙撃している作戦だ。


 そして、当日。

 ランク戦の開始と同時に、ゼノが敵を誘い出そうと行動を開始した。シローもユーリィと一緒に、狙撃ができそうなポイントへと移動を始める。無線通信も良好で、そろそろ攻撃に出ようかと相談していた、……そんな時だった。


 突然、何もない荒野で爆発が起きたのだ。

 何事かと思って、そちらを振り向くと、ゼノが爆発に吹き飛ばされている姿が見えた。彼は大声で何かを叫びながら、天高く昇っていく。そして、その体が地面に着地したと思ったら、また爆発が起きた。


 ドカン、ドカン、と爆発は次々に連鎖していく。

 その時、シローはそれを目にした。


 爆発する瞬間。

 その地面に、幾何学的な円形の模様が浮かんでいたことを。

 ……魔法陣。それは魔法を使うときにできる円形の模様であり、魔法学園に通っているシローにもお馴染みのものだった。


 予想外だったのは、その魔法は地面に設置して、踏みつけたら爆発する『地雷魔法(デンジャーマイン)』であったことだ。ランキング58位に所属している人間に、地雷魔法の使い手がいたことを、シローは知らなかった。


 ドカン、ドカン、と爆発に巻き込まれながら、空中を舞い続ける相棒を見て、シローは態勢を立て直すべきだと判断する。ユーリィにも後ろに下がるように指示を出して、彼女も言われた通りに下がろうと足を踏み出した、……その瞬間。


 目の前で、地雷魔法が発動した。

 ランク戦が始まってから、狙撃に良さそうなポイントに罠を仕掛けられていたのだと、シローは後で理解することになった。


「ったくよ! お前たちはいいよな。服がちょっと焦げたくらいで! 俺なんか、パンツしか残らなかったぜ!」


「よくない。俺だって死ぬかと思ったんだぞ。ユーリィなんて嫁入り前なのに、こんな顔になって―」


 煤だらけになっている彼女の顔を、シローは濡れたおしぼりを拭いていく。

 すると、ユーリィはにっこりと笑った。


「いえ、大丈夫ですよ。どうせ、私なんかを貰ってくれる人はいませんから」


 そんなことはない、とシローは反射的に答えそうになるが、後でゼノに何を言われるかわからないので、何も言わずに口を閉じた。


「くそっ! すぐにミーティングだ! 学園のシャワーを浴びたら、そのまま食堂で緊急会議を開くぞ! お前ら、帰るなよ!」


「わかったから、お前は服を着ろ。いつまでパンツだけでいるんだよ」


 はぁ、とため息をつく。

 その時になって、シローは思い出した。

 自分のチームには、着る服にすら困っている不憫な少女がいたことを。


「そういえば、ユーリィ。着替えはあるのか?」


「……えへへ」


 シローの問いに、ユーリィが困ったように笑った。

 


――◇――◇――◇――◇――◇――



「で? なんでユーリィは、シロのジャージを着ているんだよ?」


「……聞くな」


「売店に行けば、予備のジャージなんていくらでも買えるじゃねーか?」


「……だから、聞くな」


 シローは返事をすることにも面倒になり、食堂のテーブルに肘をつく。

 そして、目の前にいる少女へと視線を向けた。シャワーを浴びた後だということもあって、その濡れた黒髪が妙に艶めかしかった。


「なんですか?」


「……なんでもない」


 はぁ、とため息をつく。

 風呂上りのユーリィが着ているのは、シローのジャージだった。

 小柄な彼女には大きすぎるので、裾を何度も折り返して、手が見える程度に袖をまくっている。


「えへへ」


「なんだ、嬉しそうだな」


 ゼノが声をかけると、ユーリィは袖口で顔を隠す。

 そして、こっそりと匂いを嗅ぐ。


「くん、くん。……ちょっと汗の匂いがします」


「ほっとけ」


 シローが不貞腐れながら答える。

 だがユーリィは、そんなシローのジャージを着たままで、にっこりと笑った。


「でも、嫌いじゃないですよ」


 そう言って、彼女は自分の着ているジャージに顔を埋める。

 その姿は、なぜがとても嬉しそうだった。

 

 夜の食堂には、誰もいなくなっていた。

 学園の食堂は夜遅くまで開いていて、生徒たちに夜食を提供できるようになっている。ランク戦や実践演習など、夜間に行われるものもあるからだ。深夜なのに《普通歩兵科(アサルト)》の屈強な男たちが、食堂に押し寄せる光景も、わりとよくある。


 だが、いつもは静かな場所なので、こうやって落ち着いて作戦会議を開くことができる。男子生徒は女子寮に入れないので、男女混合のチームは食堂でミーティングを行うことが多かった。


「……やっぱり、ミリアを呼ぶしかねぇか」


 唐突に、ゼノが呟いた。


「ミリアをか? 俺は賛同できないな」


「なんでだよ。あいつの魔法があれば、一気に戦力が上がるじゃねぇか」


「そこは否定しない。だが、この学園で一番の問題児でもある。無理やり引っ張ってきても、ろくなことがないぞ」


 シローは女子寮に引きこもっている、もう一人のチームメイトの姿を思い出す。

 どこか気苦労さえ滲ませている彼を見て、ユーリィが首を傾げた。


「あの、ミリアさんって、誰ですか?」


「そうか。ユーリィはまだ会ったことないんだったな」


 ゼノがそう答えると、シローに視線を送って説明するように促す。


「ミリアは、俺たちのチームメイトだ。学年はひとつ下の、高等部一年生。《砲兵科(カノン)》に所属している女子生徒さ」


「……砲兵科(カノン)?」


 その答えに、ユーリィは更に首を傾げるのだった。

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