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第24話 「情報開示請求」

――◇――◇――◇――◇――◇―


 銃声が響く山岳地帯で、シローは茂みの中でうつ伏せになっていた。


 数日ぶりのランク戦。

 ニーヒル兄弟との激闘から、二週間ほど経過していた。それまでにシローたちは四回ほどランク戦を行っており、その全てにて勝利を納めていた。


 対戦相手のチームが格下だったという幸運もあるが、それに限らずシローたちの実力が上回っていたと言えよう。


 《普通歩兵科(アサルト)》の学年主席のゼノに、学園内でも指折りの威力のある『爆炎魔法(ボルケーノ)』のミリア。そして、本気を出していないとはいえ、数年前の戦争で最多狙撃数を誇るシロー。下位のランキングでは、勝負にはならないだろう


 そして、それらのランク戦に、ユーリィの姿はなかった。


 負傷した右手の治療のため、ランク戦には参加していなかったからだ。彼女はシローの言いつけを守り、手が完治するまでは、学園でお留守番をすると決めていた。


「――よし、ミリア。突撃するぜ!」


「――あうあう~!」


 無線越しに、チームメイトの声が聞こえてくる。

 相手チームの攻撃を受けているゼノ達が、反撃の狼煙を上げようとしているのだとわかった。


 今回の戦闘区域は、高低差のある山岳地帯。

 岩肌と枯れた木が点在する、山の斜面である。森林地帯や平原地帯と違い、高さを生かした戦いが求められる。


 対戦相手は、ランキング48位。

 これまでの下位の相手とは異なり、自分たちと同等の順位にいるチームだ。その実力も、やはり高い。


 ドガン、ドカン!

 バララッ、バララララッ!


 砲撃の音と銃声が、さらに激しさを増した。

 ミリアの『爆炎魔法』に対して、銃撃で対抗しようというのだろう。相手のチームには、珍しいことに《衛生兵科(メディック)》がいる。傷を治療できるサポート要員がいれば、少しばかり無茶な攻撃でも成功する可能性は高い。


「……まぁ、狙撃に気をつければの話だがな」


 シローは呟くと、望遠スコープを覗き込む。


 場所は、彼らが戦っている前線から、かなり離れたところ。見晴らしの良い高所に狙撃ポイントを構えて、敵チームの隙を静かに狙っている。


「……風が出てきたか。スコープを修正するとしよう」


 シローは狙っている場所の草木の揺れから、風の影響が出てくると予想。望遠スコープから目を離して、そこについている調節ノブを二目盛りほど修正。こういった細かな修正が、シローの精密狙撃を可能としていた。


「……」


 風が頬を撫で、前髪をそっと揺らす。

 のどかな陽ざしの下で、シローは望遠スコープの中心に敵の頭を合わせて、そっと引き金に指を伸ばす。


 そして、次の瞬間。

 一発の銃声が鳴り響き、敵チームの《衛生兵科(メディック)》が悲鳴を上げずに倒れた。



――◇――◇――◇――◇――◇―



「言っていることが、よくわからん」


 学園長室の机で、グラン大佐が渋面を作っている。


 オルランド魔法学園の学園長であり、再び戦争を起こさないために何でもする『穏健派』のグラン・クラッシュハンズ大佐。彼は、自身の部下でもあるシローを凝視する。


 シロー・スナイベルは、オルランド共和国軍の魔術兵士隊に所属している現役の少尉である。普段は自己主張の少ない部下であるが、今日に限ってはその申し入れに眉をひそめずにはいられない。


「スナイベル少尉。確認のため、もう一度言ってくれ。少尉は何を依頼しているのだ」


「はい、大佐。自分は共和国軍の資料庫から、『ヴォルマ・ビスマルク大佐』の死因についての情報開示を求めています」


 シローはきびきびと答える。

 直立不動のまま上司に向ける視線は、どこまでも真剣なものだった。


 だからこそ、というべきか。グラン大佐は腕を組んだまま、自分の部下の真意を尋ねる。


「ヴォルマ・ビスマルク大佐だと? 少尉、貴様も知っていると思うが、ビスマルク大佐はギガナ高地で流れ弾に当たって、名誉の戦死をされた。なぜ今になって、彼の情報を求める?」


 グラン大佐の質問に、シローは迷うことなく答える。


「ビスマルク大佐の死について、疑念を持っている者がいます。彼女の疑いを晴らすためにも、より正解な情報が必要になるかと」


「……誰だ、その人物は?」


 ぎろり、とグラン大佐の視線が険しくなる。

 名誉の戦死とは、疑われることのない聖域でなくてはいけないからだ。


「クリスティーナ・ビスマルクです。彼女は、自身の父が誰によって撃たれたのか。それを知りたがっています」


「……ビスマルク曹長だと?」


 彼女の名前を聞いた瞬間、グラン大佐は眉間に指を当てる。

 そして、まるで解けない難題に向き合っているかのように、深い溜息をついた。


「なるほど。少尉の言わんとしていることが理解できた。確かに、身内から見てみれば、ビスマルク大佐の死にどこか違和感があるのかもしれん」


 だがな、とグラン大佐は続ける。


「スナイベル少尉。貴様はわかっているのか? ヴォルマ・ビスマルク大佐の死の真相が明るみになれば、彼女がどういった行動にでるのか想像できんぞ。歴史に埋められた真実は掘り起こさない方が得策だと考えるが」


「その通りだと思います」


 シローは肯定する。


「……ですが、それは彼女が決めることです。父親のことを知って、それでも彼女が仇を討つことを考えるのならば、それは仕方ないことかと」


「正気かね、少尉?」


 上官の問いに、静かに頷く。


「はい。真相はどうあれ、彼女は戦争で父親を失いました。このまま真実をうやむやにするのは、あまりにも無責任ではないかと思います」


「そうかもしれんが」


 グラン大佐にしては珍しく、言葉を濁しながら難色を示す。


 それから数秒間。

 難しい顔をしたまま考え込んだ後、決意したように口を開いた。


「……いいだろう。軍の上層部に掛け合って、ヴォルマ・ビスマルク大佐の資料を取り寄せるとしよう」


「ありがとうございます」


「しかし、だな。公式のものは何も残っていないぞ。軍部にとって不都合なものは、戦後に整理(・・)されたはずだからな。資料庫にも何があるかわからん」


「はい、それで十分です」


 シローは複雑そうな顔をしたまま、自分の上官へ敬礼をする。


 グラン大佐もそれに応じるが、やはり彼も複雑な心境であった。古傷に触れられるような不快感が、顔中に溢れ出ている―


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