孤児院にて
「お客さんのドラゴンで冒険者のアークさんよ」
「「「…………」」」
クリスティーナに連れられて俺の前まで来た子供達は、俺の紹介を受けても何の反応もしなかった。誰もがポカンと口を開けて俺を見上げている。
それも仕方がないだろう。お客さんと言われてドラゴンを紹介されたら俺だって同じようになる自信がある。
とはいえ何かしらの反応がないと俺としても動きづらい。しかし、この状態の子供達にちゃんと反応してくれと言うのも酷な話だろう。
しょうがないので俺から歩み寄る事にした。
「こんにちは。俺が紹介してもらったアークだ。出来れば一緒に暮らしたいと思っている」
「ぷっ」
俺が子供達を怖がらせないように優しくしゃべったのがツボにはまったのか、クリスティーナが突如吹き出した。
このやろう、俺がどれだけ困っていると思っている。
反射的に睨み付けてやろうかと思ったが、ぐっとこらえた。クリスティーナは子供達の後ろにいる。今睨み付けたら子供達を怖がらせてしまうかもしれない。
だが、クリスティーナが笑うのを我慢している間も、子供達に動きはなかった。
ふと思い付いて顔を左右に動かしてみる。右左右左……俺の顔が動くのに合わせて、子供達の顔も動く。結構面白いな。
「はいはい、ちょっとビックリしすぎちゃったみたいね。一度教会に戻りましょうか」
子供達のあまりの反応の無さに、流石のクリスティーナも出直す事にしたようだ。子供達を連れて教会に戻っていく。子供達はというと、教会に戻りながらも俺の事が気になるのか、チラチラと振り返りながら帰っていった。
そして教会の角を曲がり、姿が見えなくなった後、驚いたような大きな声が聞こえてきた。子供達がようやく復活したようだ。
子供達が教会に戻ってしばらくした後、誰かがこちらの様子を伺っている事に気がついた。その誰かは、俺がそちらに視線を送ると顔を引っ込めてしまうが、視線を外すとまたこちらを覗き込んでいるようだった。
そっちを見る、頭を引っ込める、そっちを見る、頭を引っ込める……そんなことを何度か繰り返すうちに、こちらを見ているのが子供である事に気がついた。おそらくショックが抜けてきた事で、俺が気になり出したのだろう。
せっかく歩み寄ってくれそうなのだから、もう一度こっちから挨拶をしてみようか。そんな風に考えた俺は、子供が隠れている角に近付いていった。
「危ないよ。止めようよ」
「食べられちゃうかもしれないぜ」
「大丈夫だって。あのドラゴンはまだ俺達に気付いてない。それに襲ってきたら俺が倒してやるよ」
角に近付くと、複数の子供の声がした。皆俺の事が気になっているんだな。
あと、とんでもない勘違いをされているようだからそこは訂正しておかないと。決して食べたりなんかしないよ。
話の内容を聞いていると、こっちを見ていたのは子供達のリーダーみたいな子のようだ。俺を倒すとか勇ましい事を言っている。まあ男の子は元気がある方がいい。
「悪い事をしていないかちゃんと見張っていないと……どうした?」
俺が角から首を出して覗き込んだ時、リーダーと思わしき子は後ろを向いており、ついてきていた子達と話をしているところだった。後ろを向いているリーダーの子は俺に気付いていないが、前を見ていた子は直ぐに気付いたようで俺を見つめて固まっている。
動きの固まっている子の様子がおかしい事に気付いたリーダーは、その子の視線を追いかけて振り向いた。
「えっ」
リーダーの子も振り向いたあと、俺を見つめて固まってしまった。困った、俺は驚かすつもりは無かったが、ずいぶん驚かしてしまったようだ。
とりあえず挨拶をしよう。
「こんにちは、俺はアークと言う。これからよろしく頼む」
……あれ?さっきと同じように子供達が固まってしまった。
どうしたものかと考えていると、突然リーダーの子が倒れそうになった。
咄嗟に尻尾で掴まえて倒れるのを防ぐ。
「大丈夫か?どこか調子でも悪いのか?俺は治療が使えるからどこか悪いんだったら「うわあああ!?放せーーーー!!」」
心配になって話しかけてみると、突如として掴まえている子が暴れ始めた。
するとそれを合図にしたかのように、他の子供達が逃げ出した。
「「うわあーーー、アベルが食べられた!!」」
「おいこらちょっと待て!?」
逃げ出した子供達がとんでもない事を言い出したので、慌てて止めようと思ったが、ふと、そんな行動をしたら、俺が他人からどのように見られるかというのが頭をよぎった。
逃げる子供を追いかけるドラゴン。うん、どう考えても子供を食べようとしているドラゴンで、討伐対象になるだろう。
そうこうしているうちに、子供達は皆姿が見えなくなってしまった。これでは今から追いかけても見つけられないな。
あの子達はきっとクリスティーナの元に向かうだろう。クリスティーナなら子供が食べられた、というのが誤解だときっとわかってくれる……といいなあ。
そういえば、いつの間にかさっきまで暴れていた尻尾で掴まえていた子が静かになっていた。どうやら気絶してしまったようだ。
無理に起こすのもよくないと思ったので、自然に目を覚ますのを待つことにする。
地面に転がしておく訳にもいかないので、俺の頭の上に乗せておいた。
はあ、前途多難だ。クリスティーナ早く来てくれ。
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