日常への帰還
そう声をかけてきたのは、フィーゲルの街で孤児院の院長をしているクリスティーナであった。
「クリスティーナか。それはありがたいが、大丈夫なのか?子ども達を怖がらせてしまうと思うのだが?
それに街の中に俺の家を建てるのはダメなんじゃなかったか?」
後半の問いはマイラに向けたものだ。今のところ街の中で生活するのは許可が出ていなかったと思うんだが。
「街の中に家を建てるのは問題ないんじゃないでしょうか」
俺の疑問にマイラはそう答えた。
「今回の防衛戦で、アークさんがフィーゲルの街のために戦ってくれた事は、誰もが知っています。特に共に戦った冒険者の皆さんは、アークさんがいなかったら、フィーゲルの街を守りきれなかったり、多くの犠牲者が出た可能性がある事もわかっています。
その事と今回の氾濫で家が壊れた事を辺境伯様に伝えれば、街の中に家を建てる許可くらいはもらえると思います」
「そ、そうなのか?」
「子ども達も問題ありませんよ。以前私が魔法を教えに行った時の事を話したら羨ましそうにしていましたし、今回の防衛戦でもアークさんが活躍したというのを聞いて会いたいと言っていましたから。
あの年頃は好奇心が旺盛ですからね」
マイラに続いてクリスティーナも太鼓判を押した。いいのだろうか。とにかく明日になったらフリーダに聞いてみよう。
結論から言うと、あっさりと許可が降りた。
翌朝、クリスティーナからの提案をフリーダに相談したところ、あれよあれよと言う間に辺境伯まで話が伝わり、お昼には許可が降りてしまった。
正直許可が出るにしても結構な時間がかかると思っていただけに、いい意味で想定外の結果となった。
その日の午後、許可が降りた事を聞いたクリスティーナから孤児院へ招待された。
孤児院の敷地に家を建てるにしろ建てないにしろ、見に来て判断すればいいとの事だったので、ありがたくお言葉に甘えさせてもらう事にした。
もっとも、孤児院までの道は俺が通れない場所もあるため、フリーダに案内してもらって空から訪問する事になった。
家を建てる許可をもらう際に、俺が街中で飛行する許可ももらっていたそうなので、今後も飛んで行っていいそうだ。
「アーク君、冒険者ギルドはわかるね。冒険者ギルドを越えて左に飛ぶと見えてくる教会に孤児院は設置されているわ。
クリスティーナの言った通り、大きな空き地があるからそこに降りてちょうだい」
フリーダの案内のままにフィーゲルの街を飛んでいく。眼下を見下ろすと、こちらを指差している人達の姿が見える。流石に初日は騒ぎになるかもしれないな。これからも飛ぶ事になるだろうから早めに慣れてもらいたいものだ。
冒険者ギルドを越えると教会が見えてきた。確かに教会の周囲は空き地になっており、俺が降りるのにも十分な広さがあるようだ。
周囲の建物に被害を与えないように気を使って降りる必要があるかと思っていたが、そんな気遣いが必要ないくらい空き地は広かった。
空き地に降りるとフリーダが教会に向かおうとしていたが、それよりも先にクリスティーナがやって来た。
「いらっしゃい、よく来てくれたわね」
「お言葉に甘えさせてもらって訪ねさせてもらったよ。これだけ広ければ俺が行動するにも十分だ。あとは子ども達が大丈夫だったらここに家を建てさせてもらいたいと思ってる」
これは俺の本心だ。正直これ以上の立地は期待できないだろうし、出来ればここに家を建てさせてもらいたいと思ってる。もちろん子ども達が怖がるなら大人しく諦めるつもりだが。
「それはよかった。では子ども達を紹介しましょう。もうしばらくしたら帰ってくるでしょうから、こちらについて来てください」
そう言ってクリスティーナは教会に向かった。今の時間、子ども達は街の工場やお店の手伝いに行っているらしい。きちんと働いていれば、そこで雇ってもらえるんだそうだ。
「せんせーただいまー」
「はい、お帰りなさい」
「せんせー、今日俺師匠からスジがいいって誉められたんだぜ」
「あら、それはよかったわね。その調子で頑張るのよ」
教会に子ども達が帰ってきたようでクリスティーナに挨拶している声が聞こえる。声を聞くに元気な男の子のようだ。
今俺は教会の裏手で丸くなっている。なぜかというとクリスティーナから、全員揃ってから紹介するのでそれまで隠れていてほしいと言われたからだ。
全員揃ってから紹介する事で、少しでも驚かせないようにしたい都の事だったが、教会の裏で隠れているドラゴンってむしろ怖がられるような気がするのだが大丈夫だろうか。
ちなみにフリーダは、俺をここに案内してから直ぐに冒険者ギルドに戻ってしまった。今回の防衛戦についてまだまだ片付けなければならない事が残っているらしい。
「今日は皆さんにお客さんが来ています。これから一緒に生活するかもしれないのでこれから紹介するわね」
「「「お客さん?」」」
そうこうしている間に子ども達が全員帰ってきたようで、こちらに向かって来るようだ。
子ども達を怖がらせてしまったら、ここに家を建てる事は出来なくなる。怖がらせずに済むだろうか。
……無理じゃないかな。
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