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その頃フィーゲルの街では2

 翌日、冒険者達は意気揚々と『恵みの大森林』に向かって出発していった。

 今回出発した冒険者達の数は500人余り。流石にこれだけの数の冒険者が討伐に向かえば、ゴブリン達を討伐できるだろう。討伐出来ないほどに群れが膨れ上がっていたとしたら……、その時は残念ながらフィーゲルの街はここまでだろう。


 これで『恵みの大森林』のゴブリンについては冒険者に任せる事が出来た訳だが、ギルドマスターである私の仕事はまだ終わらない。

 何せ今回の緊急依頼で、一時的とはいえフィーゲルの冒険者の数が減ってしまっている。だが、冒険者ギルドに持ち込まれる依頼の数は変わらないのだ。

 人がいないからと放置できない内容のものもある。いつもであれば日々の糧を得るために誰かしらが受けるであろうが、受ける人間が少なければ旨味の少なそうな依頼は放置されてしまうだろう。

 非常時という事もあって、今回は優先度の高い依頼は、街に残っている冒険者に強制的に振り分けさせてもらった。報酬の悪い依頼には、後でギルドから追加報酬を渡さなければならないだろう。


 ギルドに関する仕事を片付けた後、私は辺境伯様の屋敷に向かった。氾濫(モンスターハザード)が起きればフィーゲルの街もただでは済まない。

 そういう理由もあって、冒険者ギルドと辺境伯様は連絡を密にとっている。もっとも、昨日の時点で話し合いの席を用意したため、現状は既に報告済みだ。

 これから行われるのは今後どうしていくかの話し合いだ。


「フリーダ殿、来られたか」

「辺境伯様!?すいません、お待たせしてしまいましたか」

「構わない、ギルドマスターの職務が忙しい事は理解している。特にこの非常時だからな」


 辺境伯様の屋敷の部屋に通されると、そこには既に辺境伯様がいらっしゃった。こちらを気づかってくれたが、辺境伯様もこの件がそれだけ重要だと思っているという事なのだろう。


「先程、『恵みの大森林』のゴブリン討伐のための一団が出発しました。順調にいけば1週間ほどで成果をあげてくれるでしょう」

「1週間か……」


 私の言葉を聞いた辺境伯様は言葉を切り、何かを考えているようだった。


「フリーダ殿は今回の件、上手くいかない可能性はどの程度あると考えている?忌憚の無い意見を聞かせてほしい」

「上手くいかない可能性、ですか……」


 しばらく考え込んだ後、聞いてきたのは討伐が失敗する可能性。つまりは氾濫(モンスターハザード)が起きる可能性についてだった。


「普通に考えれば失敗の可能性はかなり低いと思っています。ですが今回の大量発生は自然に起きたものでは無いような気がするのです」


 辺境伯様の問いに私は考えていた事を告げた。


「何!?いったいそれはどういう事だ?」


 私の答えが予想外だったのであろう、辺境伯様は慌てた様子だった。そんな辺境伯様に私がそう考えた理由を説明していった。


「繁殖のスピードが早すぎるように思うのです。以前に『恵みの大森林』で氾濫(モンスターハザード)が発生した際には、長期間に渡り大森林に行くものが居なかったためにゴブリンが大量発生していましたが、最近は新人冒険者の研修を含め、定期的にゴブリンを狩っていました。氾濫(モンスターハザード)が起きかねないほどまで数が増えるには、明らかに時間が早すぎます」

「では今回の氾濫(モンスターハザード)は人為的に引き起こされたものだと?」

「あくまで可能性ですが……。それにこんな事をわざわざこの場所で引き起こす理由が思いつきません」


 私の言葉に再度考え込んだ辺境伯様は、しばらくして顔を上げた。


「マノニア帝国が関係あるのかもしれん」

「帝国ですか?」


 辺境伯様の言葉に今度は私が首をかしげる。

 マノニア帝国というのは、このフィーゲルの街のあるアルノミシア王国とは、国境線を接している隣国である。

 フィーゲルの街とは険しい山々がつらなるエリヤ山地を挟んだ反対側になる。国境を接してはいるものの、エリヤ山地は人が通行できるような土地ではないため、地理的にはすぐ近くだが、実際に行こうとするととても遠くにある国という事になる。


「先日王都より連絡が入ってな。マノニア帝国で戦争のためと思わしき準備がされているらしい。この地は距離があるためあまり関わりの無い事だと思っていたが、この地で氾濫(モンスターハザード)が起きれば、国も兵力をこちらに割かなくてはならなくなる」

「確かにそうなれば戦争が起こった際に、我が国は不利になるでしょうが……」

「ここでいくら議論していても全ては憶測に過ぎん。今は目の前の脅威を取り除かねばならん。そうすれば仮に今回の件がマノニア帝国の手によって引き起こされたものだったとしても、その目論見を潰す事にもなるのだからな」


 疑惑についての話はこれで終わり、その後は各種の報告に話題が移った。



 辺境伯様との話し合いが終わり、ギルドに戻ってきてからも、マノニア帝国の話が私の頭からは離れなかった。国を上げた軍事行動の一環だったとすれば、今回のゴブリン討伐がこのまま上手くいくなど思えない。

 その事を考えれば早々に逃げ出してしまいたいが、ギルドマスターとしての立場上それも叶わない。だが逆にギルドマスターでなかったら、この情報を知ることもなかっただろう。

 本当に人生というものは、ままならないものだな。


 そんな事を考えながら過ごしていた1週間後、『恵みの大森林』でゴブリン討伐を行っていた冒険者達が、フィーゲルの街に戻ってきた。




誤字脱字等ありましたら連絡をお願いします。

お読みいただきありがとうございます。

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