忍び寄る脅威10
ギルドマスターと話し合った翌日、俺はカレオラの街の直ぐ側にある湖のほとりに来ていた。
狙いは湖からとれるであろう魚などの魚介類だ。
実は昨日ギルドマスターに湖の魚を取るために、カレオラの漁師に協力してもらうようお願いしたら、この街には漁師はいないと言われた。言われてみると、湖に船なども浮かんでいなかったし、街の中でも魚などを見た記憶がなかった。
湖に接しているので漁をしているだろうと思っていたので、疑問に感じてギルドマスターに確認してみると、元々この街では漁と呼べるようなものはしておらず、精々個人が釣竿を垂らすくらいしかしていなかったらしい。
何故かと理由を聞いてみたら、水中の魔物に襲われるから、という何とも異世界らしい返答が返ってきた。考えてみれば当然だが、この世界では地上に魔物がいるのだから、同じように水中にも魔物がいるというのは普通の事なのだろう。
水中の魔物は基本的に水の中から出てこないため、日常生活の上では接することはない。つまり人間が水の中に入らなければいいのだが、漁をする場合など水上で魔物に襲われると、地の理が魔物側に有るため多くの人間には勝ち目が無いのだ。
そのためこの世界では、魔物に襲われても返り討ちに出来るような人しか水中水上で活動できず、そんな人間は多くが冒険者として活動しているため、漁師と呼ばれる存在はあまり多くないらしい。
だが食料不足を解消するのに魚を食べるという案は中々有効だと思っていた俺は、ギルドマスターと話し合って打開策を考えていた。
そろそろ来る頃だと思うのだが……。
そう思ってカレオラの街の方を見ると、丁度門から出てくる集団が見えた。あれが多分ギルドマスター達だろう。
「お待たせしました。頼まれていたものは全て揃っていますよ」
俺の近くまで来たギルドマスターは、そう言って視線を自分の後ろに向けた。
そこにいたのは数十人の冒険者達と、彼らの運んできた巨大な網だった。
そう、魚をとるのに釣竿を垂らしていては時間がかかりすぎると思った俺は、巨大な網を使って魚をとろうと考えたのだ。いわゆる地引き網というやつだ。
本来地引き網には網を設置するために船が必要だったが、船の代わりに俺が飛んで網を設置する。魚と一緒に魔物も引き上げられるだろうが、彼らの強さは水の中にいてこそなので、陸に上げてしまえばそれほど脅威になるわけではない。
網の引き手として冒険者を連れて来てもらったのもこのためだ。彼らはこの依頼を受ければいつもより高くギルドの評価が付くことになっている。
また網の方も、簡単に引きちぎられたりしないように、丈夫な魔物の素材を使って作ってもらっている。
初めての試みなので、色々と問題点も出るだろうが、試行錯誤をしていくうちに十分な成果が出せるだろう。
今から行う作業について、冒険者達に十分に説明を行う。作業といっても網を引くのと、その後の魔物の討伐のみになるので、注意すべきは網を引っ張っている途中で魔物に襲われないようにすることだ。
前もってギルドマスターから説明を受けていたからか、説明自体はあっさりと終わった。
冒険者達自身も、カレオラを活動拠点にしているからかやる気に満ち溢れているようだ。
巨大網の一端を冒険者達に預け、もう一端を俺が持ち湖へと向かった。最初から大成功になるとまでは思っていないが、それなりの成果が出ると今後のやる気にも繋がっていくだろうから、うまくいってほしい。
岸から100m程飛んだところで方向転換をし、円を描くように出発地点に戻る。勢い良く飛びすぎないように注意した。
飛んでいる途中で、魚よりも大きな影が見えたが、あれが魔物なのだろうか?
ともかく、特に問題もなく岸に戻ってきた俺は、持っていた網の一端を待っていた冒険者達に渡す。ここから先は冒険者達に任せるつもりだ。
何故かというと、力の差が有りすぎてバランスがとれないという理由もあるが、一番の理由は上空から状況を確認するように頼まれているからだ。
陸上からでは見えにくい湖の様子を確認して、異常が起きたら直ぐに冒険者達に伝える事になっている。死角から不意を打たれるのが一番危険だからな。
上空から様子を見ていると、徐々に網が引き上げられていくのがわかる。魚と思わしき影が見えたが、魔物と思わしき影も入っているようだ。
これは注意しておいた方がいいだろうな。
「網の中に魔物もかかっているようだ。気を付けろよ」
引き上げられた後、冒険者達は網を開いて注意深く近づいていき、魔物を次々と仕留め始めた。魔物を仕留め終わると、新鮮な内に魚を街へと送っていく。
これまで魚をとる人が少なかった事もあってか、結構な量の魚が取れた。
その後は夕方まで何度か場所を変えながら漁をした。食料として十分な釣果を得ることが出来、街の住人に魚が配られた。余った魚は干物にされるらしい。
次に漁する時は、もう少し魚の量は少な目でいいかもしれないな。
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