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忍び寄る脅威6

ずいぶんと時間が開いてしまいましたが最新話となります。

 話もまとまったので、発症者の所へと案内してもらう。街の破滅を回避出来るかも知れないという事もあって、ピアソン男爵自ら案内をしてくれる。

 街の中を進んでいると、家の中や物陰からこちらをうかがっているような気配を感じる事が出来た。一応話は通っているのだろうが、やはり怖がられてはいるようだ。こればっかりは仕方ないな。


「すまないな、せっかく救ってもらおうとしてもらっているのに、怖がるばかりで。実際に救ってもらったら、大々的に発表させてもらうのでそれまでは我慢してもらいたい」

「仕方がないだろうから気にしていない。俺が住民でも怖がるだろうからな。ただ、上手くいった暁には、街への自由な出入りくらいは認めてもらいたいものだ」

「そんな事でいいのか?」


 かなり真面目に頼んだのだが、ピアソン男爵は意外に思ったらしい。俺にとっては自由に街に出入り出来るようになるというのは、金品よりもよほどありがたい報酬なのだが。


「もちろんだ。見ての通り俺はドラゴンだからな。自由に入れるようになるなら嬉しい」

「今回の件を解決してくれたら君はこの街の救世主となる。その程度であれば必ず認めよう。住民達も反対はすまい。おっと、ここだ」


 ダメ元で頼んだ報酬があっさりと通った。頑張る理由が増えたな。そんな話をしているうちに、目的の場所についたようだ。

 指し示されたのは、住宅地の中でも一際大きく目を引く建物だ。住宅というよりも、集会場か何かに見える。


「ここは元々近くの住人達が集まる集会場なのだが、今は重病患者を隔離するために使われている。君は中に入れないだろうから、中にいる患者をこっちの窓際に連れてこよう。窓を開けておくので、声がかかったら治療(キュア)をかけてもらいたい」


 そう言ってピアソン男爵は集会場の中に入っていった。

 その姿を見送った俺は、指示された窓に近寄る。その窓は通りに面した窓の中では一際大きかった。現在はカーテンで遮られているが、カーテンを開けたら、室内の様子もよく見えそうだ。

 窓の近くで待っていると、中から人の気配がして、カーテンが開けられた。中には10人程の人がいて、多くがガリガリに痩せてしまっているので、彼らが患者なのだろう。


「アーク、ここにいる患者は全員連れてきたので始めてもらえるか?」

「わかった、直ぐに始めるぞ。……治療(キュア)


 ピアソン男爵から声がかかったので、治療(キュア)をかけはじめる。以前のように魔力を多目に込めて、全員に治療(キュア)をかけ終えると直ぐに結果がわかった。


ぐぅ~~


「おおっ、腹が減ってきたぞ!」

「俺もだ。飯が食いたい」

「母ちゃんのご飯が食べたいなぁ」


 腹の虫が鳴く音がしたかと思うと、患者達が一斉に腹が減ったと言い出した。

 そうか、この病気は食事がとれなくなることで痩せ細って死んでしまうのか。この世界では食事のとれない人に栄養を摂取させる、点滴や胃ろうなどの方法が無いのだろう。


「アーク殿()すまなかった!」

「どうかしたのか?」


 食欲がわいてきたと喜ぶ患者達……元患者達を見ていると、突然ピアソン男爵が頭を下げてきた。何も心当たりがなかったので尋ねてみると、ピアソン男爵は俺が本当に治療できるとは信じていなかったらしい。

 俺の案内をかってでたのも、俺が何かおかしな事をしないかの監視が本当の目的だったそうだ。

 ピアソン男爵からそんな告白をされたが、俺はさほどショックは受けなかった。

 街のトップに立つ人間は、その街を守る責任があると思う。今回、俺をそのまま信用せず、ついてきたという事は、ピアソン男爵がこの街の事を一番に考えているという事なのだろう。

 改めて全ての患者の治療を頼まれた俺は、各所に設けられた隔離場所を回って行った。



 昼から治療を始めてもうすぐ日が沈む頃、ようやく全ての隔離場所を回って患者に治療(キュア)をかけ終えた。

 正確な人数は数えられていないが、大体5千人程になったのではないだろうか。これだけの人数が動けなくなってしまえば、それは確かに街の存亡に関わってくるに違いない。

 若干心配だった魔力量は、使用量より回復量が多いくらいだったので、全く問題なかった。後は再発したら再度治療(キュア)をかけるのを繰り返していけば、全員が完治するだろう。


「これで全員終わったな。適当に休める場所を紹介してもらえないか?体を丸められるだけのスペースが有れば十分なのだが」

「……その事ですが、申し訳ありませんが後1ヶ所回っていただけませんか?」 


 今日の治療は終わったようなので、休もうかと思っていると、監視を告白してからかなり腰の低くなったピアソン男爵が、追加で回ってほしい所が有ると言い出した。


「構わないがどこに行くんだ?」

「こちらになります」


 そう言って移動を始めたピアソン男爵についていく。方角的には街の中心部に向かっているようだが、どこにつれていかれるのであろうか?

 (いぶか)しながらついていく事数十分、正面に見えてきたのはこの街で一番大きいであろう建物だった。……ひょっとするとこれは。

 疑惑を持ったのがわかったのだろうか、ピアソン男爵は俺に説明を始めた。


「お気付きのようですが、これは領主の……私の屋敷となります。実は我が娘も病に侵されておりまして治療をお願いしたいのです」



誤字脱字等ありましたら連絡をお願いします。

お読みいただきありがとうございます。

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