忍び寄る脅威4
その雷が自然現象では無いことはすぐにわかった。なぜならば、かわした後方向転換をして再度俺に向かってきたからだ。
「ちぃ!何なんだこいつは」
上昇して避けると薬に当たってしまう可能性があったので、今度は右に避ける。
「この雷、まさか!?」
「マーカス、わかるのか」
「ああ、多分だが噂で聞いたことがある。雷を纏う鳥、サンダーバードだ。身に雷を纏って突撃し、相手を感電させるらしい。直接攻撃しても痺れさせられるぞ」
「何て面倒な」
という事は、遠距離攻撃でないとダメだという事か。残念だが俺に遠距離攻撃の手段はない。背中に乗っているマーカスにもないだろう。
つまりこちらからは攻撃できないため逃げ続けるしかないという事だ。
「アーク、気を付けろ、囲まれてるぞ」
「何っ!?」
一瞬考え込んでいるうちに、他のサンダーバードも近付いて来ていたのだろう。マーカスの声を聞いて回りを見ると、5羽のサンダーバードに囲まれていた。
5羽はそれぞれ連携をとっているようで、隙間を見つけて逃げようとしても回り込まれてしまう。
そうしているうちに薬をかばっているのが伝わってしまったのか、薬を狙うような動きも見せ始めて、更に避けにくくなってしまった。
このままだとじり貧になる。俺は覚悟を決めて行動に出た。
俺を包囲している5羽のうち、進行方向にいる1羽に向かって急接近し爪を振り下ろす。ダメージは覚悟してまずは1羽仕留めるのだ。
サンダーバードは攻撃を受ける事を予想していなかったのか、避ける素振りすら見せる事なく、俺の爪を受けた。
バチン!!
「おおっ!?」
俺の爪と雷が触れた瞬間、強い光を放った。一瞬目が眩んだが、爪が何かを捉える感触があった。視界が戻ったとき、放電することのなくなった鳥の死体が落ちていくのが見えた。
幸いな事に、思った以上に俺の体は頑丈なのか、派手な光と音はしたものの、ダメージらしきものは受けなかった。
この事は今の俺にとって非常に重要な情報になる。サンダーバードの主な攻撃手段が雷を纏った体当たりならば、俺には効かないということになるからだ。
他のサンダーバードを見てみると、同じ事を考えたのかはわからないが、先程より距離をとって飛んでいた。そして少しの間にらみあった後、サンダーバード達は離れていき姿を消した。
姿が消えた後も、不意打ちを警戒していたが、本当に諦めたらしく気配も感じる事が出来ない。ようやく俺はホッと一息ついた。
「何とかなったな、マーカス。……マーカス?」
危機を無事に突破し、さぞ喜んでいるだろうとマーカスに声をかけたのだが、返事がない。そういえばいつから喋っていないのだろうか。心配になって背中を覗き込むと、髪の毛がチリチリになったマーカスが突っ伏していた。
「う、うわぁ!!治癒、治癒!」
慌てて治癒をかける。恐らく攻撃した時の電気が流れてしまったのだろう。俺自身にはダメージは無かったが、騎乗者は無事とはいかなかったようだ。
「う、うーん」
「大丈夫か?」
「な、何とかな。……無事に追っ払えたのか?」
「1羽倒したら他は逃げ出したよ」
治癒で回復出来たのか、何とか起き上がり、状況を確認してきた。
無事か、と言われると被害者1名がいたため無事だったとは言いがたいが、本人が大丈夫ならばいいのだろう。
そして移動を開始しようとした時に、その気配に気付いた。
「ん!?」
何かがいる。サンダーバード達が飛び去ったのとは別の方角になるが、比べ物にならないほどの力の持ち主のようだ。その方角は激しい吹雪が舞っているため、姿を見る事は出来ないがその気配を感じる事が出来る。
「どうかしたのか?」
「早いとこ移動しよう。どうやら大物がこっちをうかがっている。恐らく同種だろう」
「何!?また来るのか?」
俺の同種という言葉に勘違いをしているようだが、あんなものはこの気配とは比べ物にならない。
「違う、同種っていうのは鳥の事じゃない。俺の同種だ」
「そ、それじゃあ……」
「今はこっちを警戒しているだけのようだが、これ以上刺激するのもよくないだろう。掴まってくれ、移動するぞ」
俺の家族以外では初めてのドラゴンだが、のんきに挨拶が出来るような状況でもない。今度繰る事があれば、挨拶をさせてもらおう。
その後、もう少しで山岳地帯を抜ける所まで来た時に、マーカスがこの地方に伝わる物語を教えてくれた。
「この山の吹雪は1年中止むことがない。だから、この吹雪はドラゴンが起こしているんだって言われているんだが、さっきの話を聞くと本当だったのかもしれないな」
マーカス自身、昔聞いたことがあったらしく、何やらしみじみと呟いていた。
それからすぐに山岳地帯を抜けて湖の畔へとたどり着いた。だが、サンダーバードとの戦いで進路が北にずれてしまったらしく、この辺りにはマーカスも来た事が無いらしい。
湖の向こう岸も見えないため、勘で湖を飛び越えると、運よくカレオラの街が見えた。
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