忍び寄る脅威3
翌朝、日が上る前に冒険者ギルドに集合した。籠の中には薬が詰め込まれていて準備は万端のようだ。
「アーク君、これを着けてもらえるか?」
「これは?」
ギルドの前にいたフリーダに声をかけられて、脇に置いてある物を指し示された。鐙……のように見えるな。
「見てわかるように、君用の鐙だ。昨日マーカスに上空では寒くなるから厚着をするように言っていただろう。それを聞いた職人の1人が、凍えた状態で君に乗り続ける事が出来るのか、って言い出してね。これを君に着けて、鐙とマーカスを繋いでおけば落下する事は無いだろう。これでマーカスの事は気にせずに飛んでもらう事が出来る」
気のせいか最後の方に外道な発言が飛び出した気がするぞ。
「おい、それマーカスにもちゃんと伝えてあるんだろうな?」
「心配せずとも大丈夫だ。彼も薬を早急に送る必要が有るのはわかっている。そのために多少死にかけるくらい許容してくれるだろう」
そうか、って一瞬安心しかけたが、つまり言ってないって事じゃないか。文句を言われるのは俺なんだから、きちんと話を通しておいてもらいたいものだ。
「すまない、遅くなってしまったか?」
そんなやりとりをしているうちにマーカスがやって来た。
「まだ日も昇っていないから大丈夫だ。今アーク君にも説明していたんだが、乗りやすいように鐙を着けてもらうようにしてもらった。今回は急いでもらうため、マーカスにもきつい思いをしてもらうかもしれないが、頑張ってくれ」
「人の命がかかってるんです。多少の苦しみは我慢しますよ」
いかにも気配りをしているように聞こえるが、先程までのフリーダを聞いていると、事実を隠して言質を取ったようにしか聞こえない。きちんと説明してもらえてないマーカスに憐れみを感じるが、事実を伝えて同行を断られる方が問題なので仕方がないのだろう。
ひとまず言質は取ったし、今のやりとりを覚えていれば、恨みはフリーダに向かうに違いない。俺としては一安心だ。
その後職人達の手によって、俺の体に鐙が着けられる。昨日、籠の確認をした時に体のサイズをチェックされていたのか、鐙はピッタリと取り付けられた。
合わせてマーカスにもベストのような物が着せられ、鐙へと繋げられる。
「ギルドマスター、これは?」
「空を飛ぶわけだから落下すると危険だ。万が一の時も落下しないための命綱だよ」
「なるほど」
せっかくいいところに気が付いたのに、真意には気付かず納得してしまった。
全ての準備を終えた頃、空が白み始めた。間も無く夜が明ける。
「もうすぐ夜が明けそうだ。出発するからみんな離れてくれ。マーカスは早く乗ってくれ」
「アーク君頼んだ。カレオラを救ってやってくれ」
俺の言葉に応じてマーカスが背中に乗ったのを確認すると、ちょうど太陽がその姿を現した。日が差し込み、周囲も明るくなってくる。
十分に明るくなってきたところでカレオラに向けて出発した。
ぐんぐん高度を上げて南西方向へと進路をとる。あっという間にフィーゲルが小さくなっていった。
「おおっ、これはすごいな。まるで鳥になったようだ」
「マーカスすまない。先に謝っておく。恨むならフリーダを恨んでくれ。今から飛ばすぞ、掴まっていろ」
「ギルドマスターに?それはいったいどういう意味ぃぃぃぃー」
空を飛ぶ事に興奮しているマーカスに対して、先に謝っておく。意味がわからず困惑しているようだったが、それには取り合わず一気にスピードを上げた。マーカスも鐙にしがみついているようだから、振り落とされるような事はなかったようだ。
さて、急がなければ。
真っ直ぐ飛び続ける事1時間、正面に山岳地帯が見えてきた。ここまでは何の問題も無かったので、順調に飛び続ける事が出来たが、山岳地帯は思っていたよりも標高が高くて、山頂付近では雪も降っているようだ。
「あの山を越えた向こう側がカレオラになる。山を越えた方が早く着くと思うが越えられるか?」
「もう少し高度を上げる必要が有るが、大丈夫だ。山を越えて行くぞ」
しばらく飛んでいたらマーカスも速度に慣れたのか、俺に声をかけられるようになっていたようだ。山越えの心配をされたが、この程度であれば問題にはならない。
更に高度を上げて山岳地帯に突入した。
山岳地帯の奥に行くとガンガン気温が下がり始め、雪まで降ってきた。俺の翼が風を切る音以外、何の音もしない静かな世界だったのだが、いつからか背中から異音が聞こえだした。
何の音だって?何の事はない、ただマーカスが寒さで震えているだけだ。カチカチカチカチと歯を打ち合わせる音が聞こえている。
「カチカチカチカチ……さ、寒すぎる。まだ抜けないのか?」
「まだかかりそうだな。向こう側が見えてこない」
「早く抜けてくれ!手もかじかんできてこれ以上掴まっていられないぞ。……はっ!もしかしてそのために命綱が付けられたのか!?そういやお前も最初に謝ってたな!」
正解だ。ここまで来てようやくフリーダの意図に気が付いて、怒りで元気になったようだが、大きな声に誘われて来たのか、問題がやって来た。
「マーカス、そこまでだ、掴まっていろ。お客さんだ、ここから忙しくなるぞ」
「客?こんな所でいったい誰が?」
「いいから、来るぞ」
一気に高度を下げて回避行動をとる。その瞬間、さっきまで俺のいた空間を雷が通り抜けた。
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